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第13話 砕けた盾と、繋がる意志



……パリンッ!!と。


精神の境界線が物理的な音を立てて弾け飛んだ。

**【パッシブ:献身の盾】**が限界を迎え、霧散する。

眼前には、血走った眼球を剥き出しにした魔獣の牙。Lv:2にまで落ちた俺の喉笛を食いちぎるには、あと数センチもあれば十分だった。


(……ここまで、か)


死を覚悟したその瞬間、視界の端から白銀の閃光が割り込んだ。


「離れなさい、この不浄なるもの……っ!」


アンジーだ。彼女はナリスの前に割って入ると、震える手で聖印を掲げた。

本来なら癒やしの光を放つその手が、今は攻撃魔法の術式を歪に編み上げている。


「光の……シャイニング・レイル!」


放たれたのは、本来なら魔獣を貫くはずの聖なる一撃。

だが、そこは「安定のアンジー」だった。

あまりの緊張と、慣れない攻撃魔法への変換に魔法陣が激しく火花を散らす。放たれた光の矢は、魔獣の鼻先を掠めて後方の木々を派手に爆破した。


「……あ、あれ!?」


「アンジー、無理をするな! お前の魔力特性は攻撃に向いてない!」


魔獣の注意がアンジーへ向く。標的が変わった。

標的が自分に定まったことに気づき、アンジーは「ひゃぅっ!」と情けない声を上げながら、尻もちをついて後ずさる。絶体絶命。

だが、その時だった。


「ギ、ギギィッ!!」


鋭い叫び声と共に、森の影から数体の人影――いや、魔物の影が飛び出してきた。

それは、かつて子供たちを置いて逃げ出したはずの大人のゴブリンたちだった。

彼らは手にした錆びた斧や棍棒を振り回し、狂乱する魔獣の前に立ちはだかった。


(……戻って、きたのか?)


彼らの瞳には、恐怖があった。

しかし、それ以上に「自分たちの子供を守るために、ボロボロになりながら盾となった人間」への、言葉にならない衝撃と負い目が、彼らを突き動かしていた。


「ギギッ! ギギィーッ!」


彼らはナリスを背にかばい、魔獣へ立ち向かう。

大人ゴブリンたちの稚拙な連携。当然、手負いとはいえ魔獣の敵ではない。一撃で弾き飛ばされ、血を流しながらも、彼らは何度も這い上がり、ナリスと子供たちの前に壁を作った。

何もできない。

指一本動かすたびに激痛が走り、ただ地面に這いつくばるしかない自分。

その時、視界が真っ白な光に包まれた。


「……もう、逃げません。ナリス様が教えてくれた『守るべきもの』を、私はもう、離しません!!」


アンジーが、覚醒した。

それは攻撃魔法ではない。彼女の根源にある「守護」と「治癒」の力が、戻ってきたゴブリンたちの戦意と共鳴し、暴力的なまでの黄金の加護へと変貌したのだ。


【固有スキル:聖域の共鳴エリア・レゾナンス】発動。

ゴブリンたちの武器が聖なる光を纏い、傷だらけの肉体が瞬時に再生する。


「ギガァッ!!」


勇気を得たゴブリンたちと、光の加護を纏ったアンジーの突撃。

乱戦の末、ついに魔獣は力尽き、巨体を土の上に沈めた。

静寂が戻る。

虫の息の魔獣。だが、その瞳にはまだ消えない憎悪の炎が宿っている。

俺は、震える膝を叩き、地面を這うようにして魔獣へと近づいた。


「ナリス様、危ないです!」

「……いいんだ。これだけは、俺の『仕事』だからな」


俺は、魔獣の熱を帯びた額に、そっと手を置いた。



【アクティブスキル:看取り】発動。



その瞬間、凄まじい濁流のような記憶が、俺の脳内に流れ込んできた。


それは、魔獣の過去。

かつてはこの森の守護獣だったこと。

魔王亡き後、人間たちの軍勢に住処を焼かれ、つがいの獣と子供たちを目の前で惨殺されたこと。

「灰色」の毛並みが、家族の返り血と絶望で染まった、あの日の記憶――。


「……お前も、守りたかったんだな」


魔獣の瞳から憎悪が消え、

穏やかな光と共に魂が解き放たれる。

手のひらを通じて、言葉にならない「感謝」に近い温もりが伝わってきた。



■対象の永眠を確認。膨大な思念を救済しました。

■経験値を獲得:27,000pt

■【Lv:2】→【Lv:8】へ急上昇!

■固有スキル【共感の記憶】が解放されました。



「……あ」

視界が急激にクリアになる。

Lv:2まで落ち込み、砂のようだった俺の肉体に、爆発的な「存在感」が満ちていく。

砕けたはずの骨が、軋みながらも強固に繋がり、鈍痛を力強さへと変えていく。Lv:5だった時よりも、ずっと身体が軽い。

だが、それ以上に変化したのは、俺の「感覚」だった。


(……見える)


アンジーが俺を心配して流す涙の裏にある、深い安堵。

戻ってきたゴブリンたちが、血を流しながらも「仲間を守れた」と感じている誇り。

そして――消えていった魔獣が、最後にこの森を愛おしく想っていた残照。

それらが、言葉を介さずとも、俺の心に直接流れ込んでくる。


「ナリス様……?」


駆け寄ってきたアンジーの肩に手を置く。

彼女がどれほど怖かったか、どれほど必死だったか。それが自分の痛みのように分かってしまい、俺は思わず彼女を労うように、その震える肩を抱き寄せた。


「……よくやった、アンジー。お前のおかげで、みんな助かった」


「な、ナリス様……えへへ……」


俺は、手の中に残った魔獣の冷たさを感じながら、空を見上げた。

この世界は、俺が思っていたよりもずっと、残酷で、そして――悲しい場所なのかもしれない。

看取りの際に視えた、魔獣の家族を殺した「王国の紋章」を刻んだ兵士たちの姿。

彼らの殺気、笑い声、そして冷酷なまでの「正義」。

その記憶の残滓が、俺の網膜に焼き付いて離れなかった。




【ナリス ステータス更新】

• Lv:8 (次まで:6,850pt)

• 状態:【覚醒:感覚同調】

• 【新スキル:共感の記憶】

• 他者の感情の核に触れ、対象が放つ感情の「残照」を感じ取る力。接触により、対象がその瞬間に強く抱いている意志や記憶の断片を、自身の経験のように追体験できる。※ただし、具体的な思考(独り言など)を盗み聞きすることはできない。




設定の深掘り: アンジーの覚醒した加護はナリスにも届き、激痛を和らげ、砕けた「盾」の光を繋ぎ止めました。しかし、ナリスはLv:2(瀕死状態)であり、かつ【献身の盾】の蓄積ダメージが限界を超えていました。

• 描写の理由: 聖女の加護は「癒やしと強化」ですが、ナリスの負っていたのは「代償としての肉体崩壊」に近いものでした。そのため、加護のおかげで「死なずに済んだ」「動けないはずの体で魔獣に歩み寄れた」という形で恩恵を受けていました。

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