第11話 朝の目覚めと、銀髪の介助
小鳥のさえずりと、藁の乾いた匂いで目が覚めた。
パッシブスキル**【不眠不休】**のおかげか、数時間の睡眠でも意識は驚くほど冴え渡っている。徹夜明けで、妙に頭だけがハイになっているあの感覚だ。
だが、意識とは裏腹に、身体は完全に「沈黙」していた。
「……ぐっ、あ……」
起き上がろうとした瞬間、全身の筋肉が断裂するかのような激痛が走った。
【献身の盾】で肩代わりした衝撃。それがLv:3に落ちた脆弱な肉体に、一晩かけてじっくりと「馴染んで」しまったらしい。意識はハッキリしているのに、指一本動かすたびに脂汗が出る。
「あ、ナリス様! 起き上がってはダメです!」
慌てた声と共に、アンジーが視界に飛び込んできた。
彼女は俺の枕元に駆け寄ると、両手で俺のスマホを恭しく捧げ持っていた。画面には、俺のスキルである**【バイタル・チェック】**の結果がミラーリングされている。
「バイタル・チェック……の数値が、真っ赤に点滅していて……私、怖くて。意識はあるのに、身体の損傷値が異常です!」
どうやら、観測者の少年が気を利かせて、俺の視界情報をスマホに映し出していたらしい。アンジーは、その真っ赤に染まったグラフを見て、今にも泣き出しそうだった。
「……気にするな。頭は、冴えてるんだ。ただ、ちょっと腰から下が、俺の所有物じゃないみたいでな……」
苦笑いしようとしたが、頬の筋肉すら強張っている。
昨日、無理をさせたのは俺の方だ。レベルを削ってまで資材を揃えたのは、この子やゴブリンの子供たちを、泥の上で寝かせたくなかったから。その代償が、このザマだ。
「ナリス様はいつも、私を介助してくださいます。……だから、今度は私の番です」
生真面目な顔をして、彼女は俺に「粥」を差し出した。昨日、ネットスーパーで注文したレトルトのやつだ。俺のバイタルを心配しながらも、彼女なりに「今できること」を探したのだろう。
震える手で受け取ろうとしたが、やはり腕が上がらない。それを見たアンジーは、顔を真っ赤にしながら、スプーンを俺の口元へ運んできた。
「あ、あの……『あーん』、です」
……よもや、異世界に来てまで、しかも年下の女の子に「食事介助」をされる羽目になるとは。
意識がハッキリしている分、この状況がたまらなく気恥ずかしい。
「……美味いな。熱すぎず、ちょうどいい」
「良かったです……! 介護の心得にある『適温の確認』、しっかりやりましたから!」
喜んだ拍子にスプーンを俺の胸元に落としそうになった彼女を、俺は苦笑しながら眺めた。
集落の外では、子供ゴブリンたちが昨日埋葬したボスの墓の周りで、何やら熱心に作業をしている。
スマホの画面を横目で確認すると、彼らのバイタルは安定し、何より【忠誠度】という見たこともない項目が急上昇していた。
「ナリス様、あの子たちが……」
アンジーが指差した先。
彼らが墓に立てかけた祠には、昨日俺が捨てた段ボールの切れ端が丁寧にはめ込まれていた。
そこには、日本のスーパーでお馴染みの**『新鮮野菜』**というロゴが、黄金のルーン文字か何かのように、朝日に照らされて輝いている。
「……俺たちの神様は、ずいぶん庶民派だな」
レベルは下がり、身体はボロボロだ。
けれど、昨日までの「ただ生きて、死なせるのを待つだけ」だった日々とは違う、何かが始まりつつある実感だけは、確かにそこにあった。
【ナリス ステータス更新】
• Lv:3
• 状態:回復中(重度の筋肉痛)
• 【新称号:野菜の神(仮)】
* 集落のゴブリンたちの間で、ネットスーパーのロゴが崇拝対象になったことで獲得。




