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第10話 泥の安息、箱庭の再建




夕刻。

森の端に沈もうとする陽光が、集落を長く不吉な影で塗りつぶしていく。アドレナリンが切れるのと同時に、身体の奥底から重い「泥」が染み出してくるような感覚に襲われた。


(……これだ。この感覚、知っている)


**【パッシブスキル:献身の盾】**の代償。

あの時、ゴブリンたちの刃を弾き飛ばした衝撃は消えたわけではなかった。すべてが俺の筋肉と骨に「振動」として蓄積され、今になって数倍の倦怠感となって跳ね返ってきている。

疲労を溜め込んだ翌日、腰が砕けそうになっていたあの感覚そのままだ。


「ナリス様……お顔の色が、あまり優れません。もしや、私のせいで……」


隣で、すっかり綺麗になった銀髪を揺らしながら、アンジーが申し訳なさそうに俺の顔を覗き込む。


「……気にするな。ただの、持病みたいなもんだ」


俺は震える手でスマホを取り出した。

食料は配ったが、この集落の住環境は劣悪を極めている。屋根には大きな穴が空き、地面は湿った土が剥き出しだ。今夜、もし雨でも降れば、病弱な子供ゴブリンたちはひとたまりもないだろう。


(……やるしかないか)


ネットスーパーの画面を開く。

木材、乾燥した藁、防水シート、ついでに子供たちが寝るための古い毛布。

「カートに入れる」ボタンを押すたびに、画面上部の【経験値】がゴリゴリと削られていく。


「……ヒェッ、意外と高いな、これ」


ただの数値のはずなのに、自分が命を懸けて得た「成長の証」を切り売りしている感覚が、じわじわと精神を削る。レジ打ちのパートで、客が小銭を惜しむ気持ちが今なら痛いほど分かる気がした。……今なら、値下げシールが神々しく思えるお客たちの心境も、理解できてしまう。


――ピロン。

■経験値の不足により、レベルが低下します。

■【Lv:5】→【Lv:3】

力が抜けていく。視界が少しだけ暗くなった。

文字通り、自分の「可能性」を資材に変えてしまったのだ。


「ナリス様! 今、何か光が……!」


「……なんでもない。ちょっと、肩書きが軽くなっただけだ」


虚空から吐き出された大量の資材を使い、俺は老体に鞭打つようにして、一番大きな住居の補修を始めた。

釘を打つ気力はないが、防水シートを被せ、重石を載せるくらいならできる。

アンジーも「私にも手伝わせてください!」と鼻息荒く参加してくれたが、彼女が運ぼうとした支柱の木材が自分の足の甲に直撃して悶絶したため、結局、彼女には「藁を敷く」という単純作業に専念してもらった。

作業が終わる頃には、あたりはすっかり夜の闇に包まれていた。

新しく敷いた藁の匂いと、スマホのバックライトの微かな光。

集落の隅では、腹を満たした子供ゴブリンたちが、段ボールの祠の周りに集まって、祈るような姿勢で丸まって眠っている。


「……やっと、夜か」


俺は壁に背を預け、ずるずると地面に座り込んだ。

レベルを削り、体力を使い果たした一日の終わり。

だが、隣でアンジーが安らかな寝息を立て始め、子供たちが凍えずに済んでいる光景を眺めていると、不思議と「すり減った」はずの心が、ほんの少しだけ満たされていくのを感じた。


「……おやすみ、みんな」


重い瞼を閉じると、かつての狭い部屋ではなく、草の匂いと焚き火の煙が混じる、新しい世界の夜が更けていった。


【ナリス ステータス更新】

• Lv:3 (※資材購入により大幅ダウン)

• 経験値:150/2000

• 【状態:激しい筋肉痛】

• パッシブ「献身の盾」の反動。全ステータスが一時的に低下中。




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