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俺の拳とこの魂で、砕いてやるぜ!そのハーレムを!  作者: イノセス


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88話〜息子が失礼を〜

いつもご愛読下さり、誠にありがとうございます。

今回は他者視点です。

 会合には、関係企業の社長や専務などの執行役員達が名を連ねて、会場内で談笑をしていた。

 だが我々が入って来ると、その和やかなムードは一転し、ほぼ全員がこちらに向けて小さく頭を下げたり、軽く手を上げて挨拶をしてくる。構わず談笑を続けているのは、虎二と変わらぬ年齢の子供くらいなものだった。

 

「黒沢社長」


 壁際でたむろっている少年達に視線を向けていると、1人の男性が近付いてきた。大手メーカー富士道の時任(ときとう)社長だ。


「時任さん。ご多忙でしょうに、態々来ていただきありがとうございます」

「私こそ、何時もお呼びいただきありがとうございます。今日はぁ…龍一君はご一緒ではないのですね?そちらの方は、お連れ様ですか?」

「ええ、次男の虎二です」


 俺が紹介しようと体を少し傾けると、俺の後ろで待機していた虎二がスッと空いた場に進み出て、お辞儀をした。


「黒沢虎二と申します。どうぞよろしくお願い致します」


 そのまま流れる様な動作で名刺を取り出し、時任社長と名刺交換に望む。

 ほぉ。やり取りも随分と様になっている。前回の誕生パーティーの経験だけでは、ここまで出来んだろう。裏で練習をしたのか。なかなかに勤勉だ。

 

「いやぁ。有望な人材が育っていて羨ましい限りですな、黒沢さん」


 息子の成長に目を張っていると、時任社長が大きな笑みを浮かべる。だがその裏には、何処か焦りのような物も感じた。

 まぁ、そうだろうな。彼の息子は、あの壁際で馬鹿笑いをしている一団の1人だ。虎二と同年代でも雲泥の差である己の跡継ぎに、危機感を覚えているのであろう。


「とんでもない。龍一と違い、こいつにはまだまだ教えなければいけないことが山積みでして、頭が痛い限りです」


 俺は少々大げさにフォローを入れるが、それはあながち嘘でもなかった。どちらかと言うと、同情や親近感に近い物を彼には抱いていた。

 他人事ではなかったからな、俺も。数年前のパーティーで、ただ貪り食うだけのこいつを見た時は、時任さん以上に焦っていた。最悪、こいつと縁を切って家から追い出すことも考えていたくらいだ。

 それが今はどうだ?こうして連れ歩くくらいには何ら問題ない程に成長した。積極的に前へ出過ぎず、俺の動きを察して的確な位置取りをする。まるで熟練の秘書のような動きは、今この場で求められる付き人の動きとして理想に近いレベルだ。

 ふむ。


「なかなかに良い動きだったぞ、虎」


 時任社長が別テーブルへ行った隙に、俺は堪らず虎に労いの言葉を漏らしていた。本当は、会が終わった後に言うべきことだが…まぁ、それで調子に乗るようなら、早めに化けの皮が剝がれて良かったと思おう。


「恐縮です」


 だが、虎二の反応はそれだけだった。無駄口を叩かず、次に向けて意識を集中し、しかし笑顔は絶やさずに俺の後ろに佇んでいる。

 まるで主君に仕える小姓だな。今のこいつになら、秘書の真似事も任せられるかもしれん。昔の成績は惨憺たるものだったらしいが、最近のこいつはそれなりに学業も修めているそうだからな。

 何より、俺に語ったプレゼンや、旅行のレポートを読む限りではなかなか筋が良かった。しっかりと目的を見据えての資料作りが出来る時点で、我が社の新卒より使えるレベル。こいつ自身は我が社に入れるか分からんと言っていたが、ただ入るだけなら今の時点でも可能であろう。


 だが、それではダメだ。俺の息子としては落第点。大学卒業までに更なる成長をしてもらい、幹部候補生として堂々と入社するくらいでなければならん。それだけの逸材となれるよう、今からでも鍛え直さねばならん。

 最悪、龍一が"今のまま"であれば、考え直しもあるからな。


「虎二。次は、経団連の副理事に挨拶へ行くぞ」

「はい」


 俺は虎二を連れまわし、次々と挨拶をさせていく。顔を繋ぎ、場数を踏ませていく。

 そうして成長を促すつもり…だったのだが…。


「虎二君は優秀だね。学校でも人気者なんじゃないかい?」

「お言葉は大変有難いのですが…実際は四苦八苦しておりまして」

「ああ、四葉学園に通っているんだっけ?あそこはここら辺でもトップクラスの学校だからね。そりゃ、大変だろう」

「吉田様の仰る通りで。何とかクラスメイト達に置いて行かれないよう、必死に勉強している所でございます」


 不意に振られた話題にも、卒なく答える虎二。それも、随分と下手に出て話の流れに乗っている。

 学園から貰った資料で言えば、学年でもトップクラスの成績であり、吉田副会長が言うように人気もあると書かれていた。噂では、毎日女子生徒に囲まれているとも聞く。

 そんな状態であれば、少しくらい自慢を入れたくなるのがこの年の男子。だというのに、虎は随分と自制している。この場で学生の誇りなどチラつかせても、何の利益もない事を理解している様子だ。


 ふむ。既にある程度は出来上がっているか。ここまで成長している様を見ると、ただ学園の中で揉まれただけとは考え辛い。

 一体、誰の影響だ?芹花や家の者ではないだろう。これまでの虎すら御せなかった奴らだ。

 これも、虎二が惚れたと言う女が影響しているのか?だとすると、その少女も相当優秀だ。

 

「こんばんわ、黒沢社長」

「うん?おや、鈴木社長」


 次に話しかけてきたのは、化粧品メーカー大手の資産堂社長であった。彼女の後ろには、娘さんらしき子が2人佇んでいた。1人は龍一くらいの年だが、下の子は虎二と近いのではないか?

 俺は虎二を前に出し、挨拶させる。相手が女性だろうと、虎二は変わらずに名刺交換をした。

 それは良いのだが、何故娘さんにまで名刺を渡すのだ?彼女達は名刺など用意していないぞ?


 そう思ったが、彼女達からの反応は上々であった。名前を覚えてもらった虎二は、娘さん達からも学園での生活ぶりを質問され、それを虎は誇張して伝える。

 ソフトボールで記録が0mだったとか、盗撮魔に間違われて連れて行かれそうになったとか、そんな作り話を披露する。


 だが、それはなかなかに好評であった。娘さん達は楽しそうに笑い、少し高揚した表情で虎二を見ていた。

 ふむ。なるほどな。

 俺が気付くのと同時に、鈴木社長も娘達を見てニヤリと笑みを浮かべる。そして、虎二に聞いてくる。


「虎二さんは、良い人はいらっしゃるのかしら?」

「はい。心に決めている方が居ます」


 即答する息子。

 おい、おい、お前。

 俺が眉を顰めていると、鈴木社長が俺の方に視線を寄越した。


「それは、許嫁ということでしょうか?」

「虎二にそのような者は居ません」

「ですが、確かに愛しております」


 尚も頑なに拒む虎二を睨みつけ、俺は鈴木社長に頭を下げる。


「息子が失礼を」

「いえ。ハッキリと意見が言える気持ちの良い子ですわ。ねぇ?貴女達」

「はい、お母様」

「とても誠実な方だと思います」


 あれだけ拒否されたと言うのに、鈴木社長も娘達も、虎二に好意的な視線を向けている。

 それに、虎二は大きく頭を下げた。


「大変失礼な物言いとなってしまい、申し訳ございません。このように虚勢を張らねば、お美しいお二方の魅力に心が揺れ動いてしまうと思いまして」

「まぁ」

「お上手ですわ」


 好意的どころか、かなり熱の籠った視線を送り始める娘達。

 ほぉ、やるな虎二。こうして引いて押すことで、より自分に惹き付けるとは。

 やはりお前は、俺の息子…。


「虎二様。もしよろしければ、この後我が家にいらっしゃいませんか?」

「是非、私達の事を深く知って頂きたく思います。そうしたら…」

「とても光栄なお話ではございますが、申し訳ございません。何分私は、不器用なもので。今は一つの事を追い求めるので、精いっぱいなのでございます」


 嘘だろ、おい。こいつ、ワンナイトの誘いまで断りやがった。

 流石にそこまで行くと、鈴木社長達も諦めたみたいで、「是非またの機会に」と言って去って行った。

 信じられん。今のはもう、2人の後ろについて行くだけで、今宵は楽しいひと時を過ごせたと言うのに、こいつときたら…。

 

 俺は少々不満に思いながらも、挨拶回りに再び動き出す。そうすると、虎二もピッタリとくっ付いて来て、率先して重役たちとの会話に加わる。

 何と言うか、虎よ。お前、おっさん達と会話する方が楽しそうではないか?まさかお前、そっちの気があるのか?


 気になった俺は、帰り道の車内で確認する。

 すると、虎は全力で否定する。


「断じて違います、お父様。ただ、同性であれば間違いが起きませんので、まだ気楽に感じただけです」

「間違いだと?」


 驚いた。こいつ、あの2人の意図に気付いていて、それで尚も拒否したと言うのか。

 それだけ、お前の彼女を思っていたと言うのか?

 いや、待てよ。もしや…。


「余程の鬼嫁なのか?お前の彼女というのは」

「いいえ。寧ろ、天使みたいに優しい娘ですよ、ジュンさんは。そもそも、まだお付き合いもしていないんですよ」

「なにっ!」


 付き合ってもいないと言うのに、あのチャンスを棒に振ったのか?何て勿体ない事を…。俺がお前くらいの頃は、そりゃ毎日女を侍らせていたというのに。

 それ程にいい女と言う事なのか?あの写真の中で笑っていた少女は。

 確かに見てくれは良かったと思う。そこそこ売れたアイドルくらいには整った顔立ちをしていたし、スーツ越しでも分かるスタイルの持ち主ではあった。

 いや、そうか。そう言う事か。


「ならば虎よ。今度、系列会社が行う水着コンテストがあるのだが、その審査員で出てみるか?タレントはグラドルを集めておるから、お前好みの爆乳…」

「お父様。容姿に釣られて、彼女を好いた訳ではありません。俺は純粋に、彼女の優しさに心打たれたんです。デブであった時も、彼女だけは俺に声援をくれましたから」


 なっ、何だと?そんなことで落とされたのか?本当にこいつは、俺の息子なのか?

 俺は開いた口を塞げず、ただただ息子を見ていた。

 それでも虎二は、平然としていた。赤裸々に己の恋心を暴露したと言うのに、何処か誇らしそうにすら見える。


 いや、違うか。恥ずかしいと思っているのは俺の方なのかもしれない。俺はこいつを見て、俺自身を恥ずかしいと思っているのかも。

 俺の視線は、自然と己の手へと落ちていた。女を落とすだとか、侍らせることで自信を保とうとしていた自分を見下ろして、それが小さな事だと分からされてしまった。

 幾ら女性を侍らせようと、開いてしまった心の隙間は埋まらない。あの日開いてしまった溝は埋められはしなかった。それが、答えなのかもしれない。

 

「……虎二よ。お前に出席して欲しい催しがあるのだが」

「ええ、はい。分かりました。詳細を教えて下されば、準備を致します」

「うむ。その会には是非とも、お前の想い人も誘いなさい」

「えっ?」


 久しく表情を変える息子に、俺は少し優越感を覚えた。

 そして、試練を与える。


「今週末、黒沢グループの立石部長の息子さんが結婚式を挙げる。そこに、お前もカップルとして参加するのだ」

「けっ、結婚式…」


 言葉少なく驚く虎二。

 そうだ、驚け。そして再認識しなさい。お前が大事に守るその恋心が、果たして結婚というゴールに結びつくものなのかを。

 まだ結ばれていない今だからこそ、今一度考えてみるんだ。俺が出来ず、あいつが踏み外そうとしている黒沢の道を。

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