表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の拳とこの魂で、砕いてやるぜ!そのハーレムを!  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/100

82話〜お前さぁ、いい加減にしろよ?〜

※ご注意を※

 〈是非来てくれ!〉と、虎ちゃんから色よい返事を貰えた。

 彼が否定なんてしないのは分かっていたけど、あたしを快く受け入れてくれた彼に安心する。早く会いたくて、あたしはハンドバックを片手に立ち上がる。

 途端に、ルームメイトがニヤケ面を向けて来る。


「なに?ジュン。気合入ってんじゃん。好きピのとこ?」

「ええっ!何で分かるの?」


 エリって、エスパーなの?

 

「顔に書いてあるもん。ジュン、分かりやす過ぎぃ~」

「黒沢君によろ~」

「もぉ~」


 トワ達が揶揄うから、ちょっと顔が熱くなっちゃった。

 あたしは廊下に出て、顔を仰ぎながら虎ちゃんの元へと急ぐ。

 部屋に着くまでに、顔の赤み引くかな?ちょっと冷ましてから行く?ううん。虎ちゃんはきっと、あたしのことを待ってくれてる筈。早く行かなくちゃ。


 早足で廊下を進んでいくと、中央通路が見えて来る。まだまだ就寝時間まではあるし、先生も簡単に通してくれるよね?

 そう思ったけど、そもそも先生が居なかった。いつも彼らが座っている所には、疲れたように座る生徒が1人。その子がふっと顔を上げて、あたしと目が合った。

 

「あっ!ジュン!」

「えっ?」


 その子は、上郷君だった。


「お前!ちょっと、こっち来い!」


 大きな体と大きな声で近付いて来る男性に、あたしはビックリして足がすくんでしまった。

 そんなことはお構いなしに、上郷君が迫って来る。自分を守る為に出したあたしの左腕が、ガシッと彼の手に掴まれてしまった。

 ミシッて、腕が軋む。


「痛いっ!離して!」


 走る様な痛みに、あたしは自然と声が出ていた。

 それを、彼は鼻で笑う。

 

「離してだぁ?お前なぁ、お前らがなかなかトイレから出て来なかったから、俺のスマホが壊れちまったんだぞ?ちゃーんと責任、取ってもらうからな?」


 えっ?スマホの、責任?

 一体、何を言って…。

 

「待ってよ。スマホが壊れたのは、上郷君の使い方が悪かったからじゃないの?」

「お前なぁ、全く反省してねぇじゃねぇか…。良いか?俺がどれだけ心を痛めているか、少しはその足りない頭で考えろよ。そんでちょっとは、俺の事を敬いやがれ」


 上郷君がグイグイと、あたしの腕を引っ張る。

 それに、あたしは両足に力を入れて抵抗する。


「いや、放して!」

「お前さぁ、いい加減にしろよ?」


 あたしが確かに嫌だって言ってるのに、何故か上郷君は呆れ顔を向けて来た。


「そうやって、嫌だとか、止めてだとか、心にもない事を言ってさぁ、俺の気を惹こうとしてるんだろ?好き避けとかって言うらしいけど…ぶっちゃけ面倒なんだよ、お前らのそういう所がさ。俺の事が好きなら、好きだって素直に態度で示せよ」

「えっ?何の事?」


 この人は一体、何を言っているの?嫌だから嫌って、そう言ってるだけなのに…。

 訳が分からなくて、あたしは彼を見上げる。すると彼は、あたしを見てニヤッといやらしく笑った。


「だからさ、もういいって。そうやって(とぼ)けても、俺は全部分かってんだぞ?本当は、嬉しくて仕方ねぇんだろ?俺がこうして、お前を構ってやってる事がよ。全く、全部バレバレだっつうの。下手な演技しやがって…そう言うの面倒なんだよ。ぶっちゃけ俺は、従順な奴の方がタイプなの。俺の言う事をちゃんと守って、俺が呼んだらすぐ駆けつけて、俺の横でバカみたいに笑ってる奴の方が、ぶっちゃけ俺の好みなんだよ」


 えっ?この人って、こんな酷い人だったの?自分勝手な奴だとは思っていたけど、こんなにもワガママで、幼稚な人だったなんて…。

 あたし、こんなのが好きだったの?


「分かったか?分かったら、ほら、大人しく付いて来いよ」


 あたしがショックを受けている間にも、上郷君はグイグイあたしを引っ張っていく。

 そんな彼の様子が怖くて、あたしは震えが止まらなくなっていた。それでも、頑張って声を上げる。

 

「ちょっ、ねぇ。お願い、離してよ。あたし、行くところがあるの。だから…」

「おいおい。何言ってんだよ?お前が居るべきところは、ここしかねぇだろ?俺の左隣。それがお前の指定席だ。そんで、右側がノゾミで、前がコハル。後ろがナツな。ちゃんと約束通り、取っておいてやったんだから、ワガママ言ってんじゃねぇよ。他に3人も居るんだから、ちゃんと自分の立場を(わきま)えろよ」


 はぁ~…と、大きなため息を吐きながら、上郷君があたしの腕を引っ張る。幾ら「痛い」って言っても、全然放してくれない。本気で、あたしが照れ隠しで嘘を言っていると思っているみたい。


 怖い。

 彼が、怖い。

 話が通じなくて、意志が通じなくて、思いが通じなくて。

 彼が理解できなくて、堪らなく怖い。

 彼の考えが分からず、この後何をされるのかも全く見えなくて、あたしは全力で彼を拒否する。両足をいっぱい踏ん張って、出来る限りの抵抗をした。

 でも、


「ったく、こいつ…また俺の気を惹こうとしやがって。よーし、分かった。そんな悪い子のジュンには、俺がタップリとお仕置してやるからなぁ」


 恐ろしい言葉を吐きながら、非常階段の方へと連れ込もうとした。

 お仕置きって、何をする気なの?そんな人気の無い所に連れ込んで、あたしをどうする気なの!?

 嫌だ…嫌だ!


「いやぁあ!助けてぇえ!虎ちゃぁあん!」


 余りの恐怖に、あたしは泣き叫んでいた。

 それに上郷君は「なに、誤解されるようなこと言ってんだよ」と呆れた様子で返すけど、あたしの中にあった恐怖は消えていた。

 肩を竦めるその人の向こう側に、待ち望んだあの人が見えたから。


「ジュンさーーん!!」

「虎ちゃん!」


 あたしが彼の名前を叫ぶと、上郷君も後ろを振り返る。こちらに全速力で迫り来る虎ちゃんを見て、「ひっ」と短い悲鳴を上げた。そのまま、壁際まで大きく飛び退いた。


「大丈夫か?ジュンさん。一体、何をされ…」

 

 そんな上郷君を無視して、虎ちゃんがあたしの両肩を持つ。息を切らせて、あたしの顔を覗き込む。

 途端に、彼の目が鋭くなる。あたしの左腕を見て、そこに刻まれた赤い痕を目にすると更に、鋭く危険な色に変わる。

 黒色から、紫眼へと。


「……」

 

 紫の閃光が、壁際を向く。そこで、不満そうな顔を向けていた上郷を睨みつける。無言で、壁際へと向かう。

 その言い知れぬ圧力に、上郷君が慌てた様子で両手を突き出す。


「ちっ、違うぞ。黒沢。騙されるなよ?今のはジュンが演技しただけで、俺を好き過ぎて悪ふざけしてるだけなんだ。だから、俺は何も悪くな…」

「……」


 情けない言葉を並べるその人に、虎ちゃんは止まらない。震える拳を硬く握りしめ、それを高く掲げた。

 上郷君に狙いを絞り、大きく引き絞る。

 あっ!


「ダメぇ!」


 咄嗟に叫んだあたしの声に、虎ちゃんはピクリッと反応した。繰り出した拳を、上郷君の顔面スレスレで止めてくれた。


「ひっ!ひぃい!」


 拳の風圧を顔に受けた上郷君が、情けない悲鳴を上げながら尻もちを着く。ガクガク震えながら、虎ちゃんを見上げる。

 虎ちゃんは少しの間、彼を見下ろした後、あたしに振り返る。まだ薄ら紫色の瞳を携えて、でも、何時もの優しい顔に戻って、あたしの元へと小走りで駆け付ける。


「済まない、ジュンさん。遅くなっ…」

「虎ちゃん!」


 あたしは堪らず、彼の胸へと飛び込んでいた。

 彼の顔を見た途端、色んな感情が溢れそうになった。さっきまで感じていた恐怖と、信じていた彼が来てくれた事への喜びが入り混じって、あたしを前へと突き動かしていた。


 そんなあたしを、虎ちゃんは受け止めてくれる。力強く、優しく包み込んでくれた。

 途端に、胸の中にあった破裂しそうな感情が全て涙となって溶けだし。ひび割れた心の隙間に心地良い感情が入り込む。大きな安心感で、満たされていく。


「虎ちゃん…虎ちゃん…」

「ああ、もう大丈夫だ。ジュンさん。もう、大丈夫」


 泣き止まないあたしに、虎ちゃんは優しく声を掛けてくれる。大きくて少し硬い手のひらで、あたしの頭を撫でてくれた。

 彼の暖かさで、乱れていたあたしの心が、少しずつ落ち着いてきた。

 と、そこに。


「なんやありましたか?お客様」


 別の声が入り込む。

 見ると、着物を着た女性がこちらへと歩いてきていた。

 確か、副支配人さんって名乗っていた人だ。


「廊下が騒がしい言うて、他のお客様から苦情が来てはったんやけど…」


 副支配人さんはそう言って、あたしを見る。あたしの泣き腫らした顔を見て、目を細めた。


「痴情のもつれ、やろか?」

「そっ、そうなんだよ!」


 急に、上郷君が声を上げる。怯えもすっかり取れた彼は、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて立ち上がり、副支配人さんへと近付く。


「それがさ、聞いてくれよ。俺とジュンが”楽しく”歩いてたら、急にこいつが”割り込んで”来てさぁ。俺がモテるからって”怒鳴り込んで”きて、俺を殴ろうとしてきたんだぜ?そのせいで俺、倒れちまって怪我するとこだったんだ。ほら、見ろよ!手もこんな、赤くなっちまってよぉ」


 馴れ馴れしい口調で、上郷君は副支配人さんの肩に手を置く。相手が女性だからって、もう自分の味方みたいに接していた。

 でも、副支配人さんはその手をパンッと払い除けて、その狐目で睨み上げた。


「タヌキやな」

「はぁ?タヌ?」

「薄汚いタヌキ言うたんや。なぁ?そないな妄言で、うちを騙せると思うてはるん?その良う回る舌、引っこ抜いて鍋ん中に放り込んだろか?」

「あっ、なに?」


 味方かと思っていた相手から、急に厳しい言葉を吐かれた上郷君は、ただ口を開けて情けない声を上げるしか出来なかった。

 そんな彼を見て、副支配人さんは胸元から扇子を取り出し、それで口を隠す。


「誰がどう見たかて、あんさんが悪いんは一目瞭然やろ。女の子を泣かせといて、タダで済むと思わんといてな」

「いや、あの、俺は、別に…ジュンが泣いてるのは、”黒沢のせい”で…」


 尚も言い訳を述べようとする上郷君。

 それに、副支配人さんは扇子をピシャリと閉じる。その先を上郷君の胸に突きつけ、鋭い視線を飛ばす。

 怒気を、飛ばす。


(はよ)う、散りなんし」

「はっ、はひっ!」


 悲鳴を上げて、上郷君は逃げ出す。途中で盛大に転んで、後ろを振り向き、まだ自分を睨みつけている副支配人さんを見て、また慌てて駆け出す。

 何度も転びながら消えていった彼を見送ると、副支配人さんがクルリとこちらに振り向く。鋭かった目を細目の中に隠して、あたし達に向かって小さく頭を下げた。


「お見苦しいところをお見せしました。(ふこ)う、謝罪致します」

「いえ。こちらこそお騒がせして、申し訳ありません」


 すぐに虎ちゃんも頭を下げたので、あたしも彼から離れ、彼の隣で頭を下げる。


「ごめんなさい」


 ぺこり。


「ええんですよ。学生さんやからね。色々あるんは理解しとります。それを(ぎょ)せんかったんは、うちらの力不足や」


 また頭を下げた彼女に、虎ちゃんが慌てる。

 

「そんなっ、ホテルの対応に過失は無く…」

「お客様に怖い思いさせたんは事実やさかい。責任取らせたってな」


 彼女に言い切られて、虎ちゃんは口を閉じる。

 それを見て、副支配人さんは目を細めたまま笑みを浮かべ、「どうぞ、こちらに」と言ってあたし達を何処かに誘う。

 どうしようかと思ったけど、虎ちゃんが付いていく風だったので、あたしもそれに付き従う。

 

 虎ちゃんはあたしの手を握り、もう片方の腕で肩を抱いてくる。もう襲われないようにと、周囲に目を光らせている。

 ちょっと過保護だとは思う。すぐ側に虎ちゃんが居て、目の前には副支配人さんも居る。こんな心強い人達に囲まれたら、あたしに近付くことすら出来ないと思うから。

 でも、過保護なくらいの方が安心できた。もう大丈夫なんだって体から伝わって来て、とっても安心する。彼から伝わる優しさが、とっても嬉しかった。


「こちらです」


 そうして着いた場所は、このホテルの最上階。そこの天空レストランのオープンテラスへと、あたし達は通される。


「営業時間外やけど、今夜は特別に開けときます。京都の夜空を、どうぞ堪能しとくれやす」


 副支配人さんは深く頭を下げて、静かにテラスから出ていった。

 そこに残されたのは、あたしと虎ちゃんの2人。そしてあたし達の頭上には、満点の夜空が広がっていた。


「キレェ…」


 露天風呂からも見えた空だけど、ここからの方がより広く感じるそして鮮明に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
能力を引っこ抜いてやれば、ダメンズシンキングも正常化して七音さんと幼馴染関係の回復余地もあるのかね 研ぎ澄まされつつも荒事行使が制限された中の人、という運用条件実現には記憶喪失は必須要素だったのかも…
セイジくん もう全然能力無くなってますね 全く説明されないまま 効いている時は副支配人さんへの態度の通り 全然知らない人でも女性なら味方してくれたんでしょうね。 残り話数も少ないし ここら辺の話はコ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ