77話~…じゃあ、行ってくるから~
何時もご愛読下さり、ありがとうございます。
前半胸糞…じゃなくて、他者視点です。
最近、2人の様子がおかしい。なんだか余所余所しくなったと言うか、以前ほど俺と一緒に居る時間が無くなっていた。
最初はジュンの奴だった。勉強会に来ないだけじゃなく、昼休みも、放課後も姿を見せなくなった。メッセージも読まないし、電話も出なくなった。
そして、次におかしくなったのはノゾミだ。勉強を教える時も、普段の会話も何処か冷たさを感じた。偶に、俺を見る目もキツくなったように感じていた。
何か、ヤベェ事が起きているんじゃないか?
そう思い始めていたが…。
「なぁ、ノゾミ」
「なに?」
バスの中。隣に座るノゾミに話しかけると、直ぐに反応した。
「あー…いや、何でもねぇよ」
「何よ、それ」
そう言って”微笑む”こいつは、俺がよく知るノゾミだった。従順で良い子な、何時ものノゾミ。
なんだよ。俺の取り越し苦労だったのか。ジュンの奴も今朝、朝食会場で捕まえて「いい加減にしろよ?」って声を掛けたら、素直に俺達の後ろをついて来るようになった。
何だったんだろうな、この1か月間。ただこいつらの機嫌が悪かっただけ?それとも…やっぱツンデレって奴か?この前見た映画のヒロインが、まさに今の2人みたいだったもんな。
もしかしてノゾミは、あれを見て真似してたのか?俺に気に入られようとして、ワザと冷たい態度を取っていたってことかよ…。
もしもそうなら、すげぇ面倒な事だ。
俺は今の生活に十分満足しているのに、それを壊すようなことはして欲しくない。5人で騒いで笑い合って、偶に遊園地とか行って、ちょっとエッチなハプニングが起こるってのが最高に楽しいんだ。それが、何よりも心地良かった。
それなのに、誰かが欲を出したりしたら歪んじまう。俺がこの中の1人を選んだりなんかしたら、折角の関係が壊れちまう。俺が築き上げたこの空間が、無くなっちまう。
そんなのは嫌だ。他の4人だって、嫌だと思っている筈だ。誰か1人が選ばれたりしたら、選ばれなかった他の3人が可哀そうだからな。
やっぱり、みんなで楽しく遊ぶのが一番だ。俺はその為にも、しっかりとクールに対応しないとダメなんだ。俺がちょっと本気を出したら、みんなコロッといっちまうから。
ただ、楽しい時間ってのが何時までも続かないのは知っている。来年にはナツさんが卒業しちまうから、この4人で居られるのも後1年もない。
まぁそしたら、また新しい仲間を見繕えば良いだけの話だ。来年には新入生も入って来るし、そこから可愛い子を何人か引っ張って来れば良い。もしくは、コハルの友達を入れてやるのも良いな。
誰だっけ?なんか、いつも一緒に居るお嬢様っぽい奴が居たよな。別に、そいつでも良いんじゃないか?体は幼いけど、顔はそれなりだったし。何より、お金を持ってそうだからな。遊ぶのに、色々と便利そうだ。
「よーし。お前ら、そろそろ到着するが、くれぐれもルールは守れよ」
「「はーい!」」
おっ。もう到着か。
俺はスマホを取り出し、ジュンの奴にメッセージを飛ばす。
〈バス降りたら、ソッコーでこっちに来い〉って送ったけど…あいつやっぱり、既読もしやがらねぇ。こりゃ、今日の荷物持ちは決定だな。
俺は、ノゾミを連れてバスを降りる。丁度その時、俺の目の前を黒沢が通った。難しい顔で、俯きながら遠くのベンチに座った。
なんだ?あいつ。1人であんなところ座って。
もしかして、誰にも誘われなかったんじゃねぇの?それとも、まさかまだ、ノゾミ達と一緒に回ろうって考えてんのか?
そういや、前に図書室で2人を見かけた時も、黒沢が一緒に居た。だから、あの時は俺もちょっとだけ焦っちまったけど…。
結局、あれは旅行の計画を立てていただけで、他には何もなかったみたいだ。黒沢はただ便利な奴ってことで、ノゾミ達にパシられていただけ。だから今、2人はこうして俺の元に居るんだ。
何だかんだと偉そうだった黒沢も、所詮は他のモブ男子と同じ脇役だったって事だ。そして俺は、みんなから好かれる主人公。
まぁ、俺は優しいからな。だから、女の子はみんな俺に集まって来る。優しくて、リーダーシップもあって、でも女に言い寄られても平然と出来るクールさを持っている主人公。その俺が、人気者になるのは当たり前。
焦る必要なんて、全くなかったんだ。
「ごめーん!」
俺が自信を取り戻していると、向こうからジュンが走って来た。
「おう。おせぇぞ、ジュン。あと、ちゃんと俺のメッセ見ろよ」
”ヘラヘラ笑ってる”バカなジュンに、俺は早速、俺の荷物を持つ名誉を与えてやろうとした。
でも、俺がカバンを投げつけるより先に、ノゾミがジュンの元に駆け寄り、俺に向けて手を上げる。
「私達、ちょっと準備してくるから」
はぁ?
「準備って、何の準備だよ」
「女の子の準備よ。決まってるでしょ?」
「ちっ。何だよそれ。めんどくせぇな」
ああ、思い出した。こいつら何時もこうだった。出かける前も時間かかるし、トイレも長いし、飯も遅い。俺が優しいから待ってやっているだけで、本当だったらブチギレてたからな?
まぁ、いいや。優しい俺は、ゲームでもして待っていてやるからよ。
「早くしろよ。じゃねえと、今日の昼飯はお前らの奢りだからな」
「…じゃあ、行ってくるから」
うん?何か一瞬、ノゾミの目が怖くなった気がしたけど…気のせいだよな。もうこいつらはツンデレのデレ状態だから、俺に冷たくするなんて有り得ない。寧ろ、俺が待ってやることに感謝してる筈だ。
俺は2人が公衆トイレに入っていくのを見届けて、近くのベンチに座る。スマホを取り出して、早速ゲームを始めた。
最近ハマっている、カードバトルゲームだ。
「うわぁ。最初から高ランカーとマッチングしちまった。……くそっ、こいつ引き良過ぎだろ。チート使ってんじゃねえか?」
俺は頑張って、チート野郎と戦う。けれど、結局負けちまった。
くそっ、再戦を申し込んでやる。絶対に、お前の吠え面を拝んでやるからな。
「……よっしゃっ!勝った。ざまぁみやがれ、このチート野郎が」
俺は気分が良くなって、もう一戦始める。でも、ちょっと不安になった。
あれ?あいつら遅くね?もう出て来てたりしないよな?
気になって、俺はこっそり女子トイレの方を覗く。仕切りがあるから中は見えないけど…誰も出て来た様子はない。
安心して、俺はベンチに座り直す。すると、丁度トイレから人影が出てきた。
ああ、もう出てきたか。
まだゲームがしたかった俺は、ちょっと残念に思いながら顔を上げる。でも、そこから出てきたのはジュンでもノゾミでもなく、スーツ姿の女性だった。帽子を被って顔は見えないけど…まぁ、1人だけだし、あいつらじゃねえな。
俺は胸を撫で下ろして、ゲームに戻る。
でも直ぐに、また1人トイレから出て来た。今度の子はギャルだ。モコモコの服に、ジャラジャラと歩くだけで邪魔になりそうなアクセサリーを大量に付けている。
ショートパンツから見える足は綺麗だけど、こいつはヤベェ。目を付けられたら怒られるかもしれんから、視線は絶対に向けちゃダメだ。
賢い俺は、再びゲームに戻る。
「あっ、くそっ。俺が見てない間に好き勝手しやがって。ぜってぇお前も、倒してやるからな」
俺は気合を入れ直し、ゲームの世界へと入り込んだ。
〈◆〉
自由行動時間が始まり、みんなは好きな人と固まって公園を出発する。中にはこの段階でチームを組もうとアタックする猛者も居り、なかなかに盛り上がりを見せている。
ボッチには厳しいイベントだって?大丈夫だ。そういう人達の為に、ちゃんとツアーも用意している。何処に行くのか考えるのが面倒な人達も合わせて、再びバスに乗り込んで出立したところだ。
なので、今ここに残っているのは、お目当ての人にラストアタックを仕掛ける人か、俺の様に迷っている人だけだ。
俺の場合、迷うと言うより考えを整理したくて残ったんだけどね。
さて、では整理しよう。
今朝見たセイジのハーレムメンバー達は、以前の状態に戻った様に見えた。もしもセイジの魅了がより強力となっており、彼女達を引き戻したのだとしたら、それはかなり厄介な事だ。セイジの脅威を、見直さねばならない。
どうするべきか。攻め方を変えるか?既にダイエットは終えているから、各々が興味ある方面でアピールできる武器を持たねばならない。
ジュンさんならアクセサリーだ。彼女自身も作ると言っていたから、俺も何か手を出してみよう。教室に通い、行く行くは彼女にも教えを乞うのだ。
ノゾミさんは勉強だな。もっと勉強を頑張り、テストで彼女を越える外ない。
状況は悪化した。だが、最悪ではない。ここ2か月で彼女達と接点を得たから、2人の趣向は把握した。どれだけ魅了で潰されようと、この経験は潰れやしない。俺の努力は、砕けない。
やってやろうじゃねえか、セイジ。何度でも、この侵略戦争を繰り返す。
焦土と化そうと、お前との戦争は終わらせんぞ。
「お待たせ」
「うん?」
思考の外から、不意に声が降りかかって来る。そちらを見ると、アクセサリーを大量に付けたギャルっぽい子が立っていた。
ノゾミさんだ。その恰好は…もしかして?
俺は驚き、彼女に声を掛けようとした。でもその前に、ノゾミさんは俺の顔を見るなり「ひっ」と息を呑んで一歩引いてしまった。
…見ただけで引かれる程、嫌われてしまったか?
「虎ちゃん!」
ノゾミさんの後ろから、ジュンさんが走って来る。そして、俺の前に立つと、大きく頭を下げてきた。
「ごめんね、虎ちゃん。心配かけちゃって」
「ジュンさん…」
ああ、そうか。
俺は心が軽くなり、ベンチから立ち上がる。
どうやら、俺の思い過ごしだったみたいだ。彼女達は強力な魅了にかかった訳ではなく、こうして予定通り変装をして抜け出して来てくれたのだ。その証拠に、彼女達の後ろにセイジは居ない。
俺も頭を下げる。
「俺の方こそ済まない。約束したのに、まだ着替えてなくて」
「ううん。あたし達が悪いよ。だって、虎ちゃんに何も相談しないで上郷君について行っちゃったから、そんな顔をさせちゃった。だから…」
ジュンさんが両手で、俺の顔を挟み込む。固まっていた俺の表情筋を、優しく解してくれる。彼女の暖かさが伝わって来て、冷え切っていた心まで温かくなる。
心地よい、温かさ。
俺は彼女の手に、自分の手を重ねる。彼女へと半歩近づく。
「良いんだ、ジュンさん。今となってはどうでも良い事だ。今こうして、君がここに居てくれることが何よりも嬉しい」
「虎ちゃん…」
彼女の潤んだ瞳が、俺を映す。大人っぽい紅色の唇に、心が強く惹き付けられる。
このまま、彼女を奪い去りたくなる。
セイジに奪われる前に、今すぐにでも。
そんな、焦りに似た感情を抱いていると、横から衝撃が加わった。
「ごめんなさい!虎二君」
ノゾミさんだ。彼女は、俺の体に抱き着いていた。
えっ!?
「ノゾミさんっ。そんな…そこまで謝るようなことは何も」
「いいえ。この作戦は、私が考えた事なの。これなら、しつこいセイジも上手く撒けると思って。虎二君に伝えなかったのは、その方が効果があると思ってだったの。でも、私が間違っていたわ」
「いや、それは効果的だ。敵を欺くには先ず味方から、という言葉もあるからね」
それに、それは俺も使用した手法だ。
球技大会のバスケ決勝戦。あそこで使った技を、彼女は応用した。ただそれだけのことだった。
「だから、そんなに気負う必要は無い。2人の思いやりは十分に伝わったから、俺はもう大丈夫だ」
それに、彼女達のお陰で気付かされた。最近の俺が、腑抜けていたことを。
大切な人が奪われてしまうかもという危機感が欠如し、いつの間にか俺は、セイジに勝っていると勘違いをしていた。
それではダメだ。それでは何も得られない。大切な人を失ってしまう。
そう気付かせてくれたのは、とても大きい。
そう、俺は思っているのだが、
「ダメよ。それじゃ、私の…私達の気が収まらないわ。貴方の為に、何かさせてちょうだい」
「うん?今、何でもするって言ったかな?」
戯けて言ってみたが、それを受けたノゾミさんは真剣な顔で頷く。
「ええ。何でもしてあげる」
「…えっ?」
いや、冗談なんだけど?ほら、俺の目が笑っているだろ。
そう強調しても、ノゾミさんは本気な目で打ち返してきた。
う…なんでそんな、赤い顔で見詰めてくるんだい?俺がそんな、下種な人間に見えるかい?
「あ~…分かった。ならば、少しお願いしたい事がある」
「ええ、良いわよ」
「あ、あたしも、その、何でもしちゃうから」
いや、ジュンさんまでそんな事を言い出さないでくれ。
ごほんっ。
「では、2人は今日という日を存分に満喫し、共に回る俺を楽しませてくれたまえ」
筆を折る事にならないで良かったです。
「もう少し書き続けるのだ」
最後まで書きますよ。
あと22話。




