70話~買い出しに行かない?~
三方議員のパーティー。そして、ジュンさんとのデートを終えた俺は、月末の期末テストに向けて猛勉強モードに入っていた。
勉強して、息抜きにトレーニングをして、また勉強をする。そんないつものサイクルを繰り返した。
ガードマンの弥冨さんからは「それで頭に入ってるんですか?」と言われてしまったが、それが逆に追い風となる。見せてやろうって気合が入った。
だから久保さん。彼を睨みつけるのはやめて下さいね?一応、貴方の先輩でしょ?
「それでは…はじめ!」
そうして迎えた期末テストだが、前回受けた中間テストよりも広範囲となっていた。なので、問題数がいつもより多い気がした。数学ですら、ちゃんと時間配分を気にして解かなかったら時間切れになりそうだ。
それとは逆に、社会科は比較的楽に感じた。
前回はすっかり忘れてしまっていた範囲の問題も、今回は明確に覚えていたし、引っ掛け問題も簡単に見分けられた。煩わしい年号問題も自信を持って答えられたし、結構良い感じなのでは?
これも、ノゾミさんのお陰だ。彼女が進めてくれた参考書をやっていたから、記憶力が上がっていた。似たような問題も出て来たので、ウハウハである。
所謂、「あっ、これ進○ゼミでやったとこだ!」状態である。
「はい!そこまで!」
4限目の英語のテストが終わると同時に、生徒達からは「はぁ~」とか、「やっと飯だぁ」と疲れた声が漏れ聞こえる。中には「おわたー」と言う声も聞こえたが…まだテストは終わっていないぞ?それとも、結果が終わっているという意味だったか?
「虎二君」
さて、ジュンさんの所に行こうかと思っていると、ノゾミさんが駆け寄ってきた。
「どうだった?テスト」
「かなり良いよ。あの参考書のお陰だ」
「でしょ?似たような問題も出るから、得点アップ間違いなしだよ」
「ああ。教えてくれたノゾミさんには、感謝しかないよ」
俺が改めて礼を言うと、彼女は笑みを隠し切れないでいた。そして、ちょこんとその場で座り込んで、俺を上目遣いで見上げた。
「ねぇ?虎二君。お昼休みなんだけど、一緒にテストの答え合わせをしない?」
うん?答え合わせ?
「だが俺は、そちらのグループには混ざれないよ?」
そうは言ったが、内心ではヒヤヒヤしていた。何せ、ナツ先輩とは和解してしまったからだ。今の彼女なら、俺がセイジ達の昼食会に参加しても斬りかかってきたりしないだろう。
だから、参加自体は出来てしまう。それが、ノゾミさんにバレないかとドキドキしていたのだが…。
「分かってるわ、虎二君。だから私だけ、君のグループに入れて欲しいの?」
「俺のグループに?」
「そう」
ノゾミさんは小さく頷いて、後ろを振り返る。そこには、机に突っ伏すセイジの姿が。
「あいつと一緒に食べても、テストの話が出来ないのよ。どうせ、『テストの苦しみを思い出すからやめろ!』みたいな事を言い出すに決まっているんだもの」
「ああ、言いそうだね」
「でしょ?」
ノゾミさんが嬉しそうに笑って、また見上げて来る。その大きな瞳を潤ませて、可愛らしく小首を傾げる。
「テストの会話が出来るのは、君だけなの。お願い!」
「うん。そうだな…」
手を合わせる彼女に、俺は考え込む。
そこに、ノゾミさんが追撃してくる。
「約束するわ。ジュンと喧嘩しないって」
「うん。まぁ、それなら…って、ええっ!?」
なんで、なんでジュンさんを!?
俺が驚くと、ノゾミさんは意味深に小さく笑った。
「知ってるよ?ジュンと何時も、お昼を一緒に食べてる事はね」
「…マジか」
こいつは不味い。セイジに告げ口されたら、かなり面倒なことになるぞ。
俺はチラリとセイジの方に視線を向ける。奴はまだ机と一体化しており、随分と落ち込んでいる様子だった。
そんな俺の視線を追ってか、ノゾミさんも奴を見る。そして、小さくため息混じりに言葉を零す。
「私も、偶には彼から解放されたいの」
「ぐっ…。そうか」
それは、何とかしてやらないと。
「分かった。ジュンさんに聞いてみるよ」
「ありがとう!」
ピョンと小さく跳びはねるノゾミさん。
うん。そうやって喜んでくれるのは、俺としても嬉しい。
だが、
「あと一つお願いしたいんだが、この事は…」
「大丈夫。あいつには言わないわ」
ノゾミさんが人差し指を口に当てる。
そうだな。折角の避難場所を、自ら潰す事はないか。
そして俺は、ノゾミさんを連れていつもの部屋へと入る。ジュンさんは既に来ており、俺達2人を出迎えてくれた。
「やっほー、2人とも。テストどうだった?」
「期末だから、範囲が広いわね。ちょっと怪しいところがあったわ」
「ええ~。ノゾミでもそうなんだ」
どうなるかと思ったが、案外仲良く会話を始める2人。事前にノゾミさんが来ることを、ジュンさんに相談していたのが良かったのだろう。
ただ、ノゾミさんが俺のすぐ隣に座るもんだから、ジュンさんも反対側にぴったりとくっ付いて来てしまう。
広い部屋なのに、何故かこじんまりと座ってしまう我々3人。
「虎ちゃんはどうだった?」
「俺かい?そうだね…前回の中間テストよりも、更に手ごたえを感じているかな。特に、社会科が悪くない感じなんだ」
「ええ~。凄いじゃん。もしかして、1位取れちゃう感じ?」
「そいつは無理じゃないかな?そもそも、隣に現役チャンピオンが居るからね。そんな戦線布告みたいなことは言えん…」
俺がノゾミさんの方を気にすると、彼女と視線が合う。
可愛らしく、小首を傾げる彼女。
「あら?そんな弱気でどうするの?虎二君」
「そうそう。虎ちゃんはもっと強気で行かないと」
えぇ…。
なんか、仲が良いを通り越して、タッグを組んで俺を攻撃してきたんだけど?
流石は親友だな。こっそりハーレムを離脱したジュンさんだったが、開いてしまった親友との距離は、既に修復している様子。
ノゾミさんもハーレムを抜けられたら、2人はまた仲の良い親友に戻れるのだろうか?そしたら俺、お払い箱とかにならないよね?
ちょっと怖い想像をしている間に、両側から俺の弁当へと、追加のおかずが次々と入れられていた。
しまった!2人が揃うと、この攻撃が始まるんだった!
「いっぱい食べて、午後のテストも頑張ってね?虎ちゃん」
「これで私を超えるのよ?」
「それは…まぁ、くれるのは有難いんだが、2人もちゃんと食べなよ?」
「ありがと、虎ちゃん。やっぱ優しいね」
「大丈夫よ。こうなると思って、多めに作ってきたから」
こうなるって、3人で食べる計算していたの?もしかして俺は、君の手のひらの上で転がされている最中なの?
どちらにせよ、このままでは俺のキャパを超えちまう。
よし、矛先を変えよう。
「ジュンさんはどうなんだい?今回のテスト、どんな感じ?」
「うん。あたしも結構いい感じかな?虎ちゃんと一緒で、中間テストの時よりも分かる問題が多い気がする」
「おお。ってことは、平均点超える?」
「超えちゃうかも。虎ちゃんのお陰だね」
ジュンさんが手を上げるので、俺もそれに合わせて「「イェーイ」」とハイタッチを決める。
それを、ちょっと不服そうな顔のノゾミさんが見上げる。
「まだ全部終わってないのに、ちょっと楽観的過ぎないかしら?」
「まぁ、確かに。まだ2教科残っているからね」
残るは得意な理科系だけだからと、ちょっと浮かれ過ぎていたか。
俺が気を引き締めていると、不満げだったノゾミさんの表情が明るくなる。
「でも、みんな赤点の心配は無さそうね?だったら今日の放課後、宿泊学習の買い出しに行かない?」
「買い出し?」
「そう。服とか日用品とか、色々買い足しておきたいじゃない?」
「あっ。あたし、旅行カバン買いたい!」
「でしょ、でしょ?」
ふむ。確かに、宿泊学習は来週にも始まるから、余り時間がない。家にある物を適当に詰め込めばいいかとも思ったが…みんなで見て回った方が楽しいかも知れん。
「ならば俺は、ヒデちゃん達を誘うかな。2人も友達を誘って…」
算段を立てていると、ノゾミさんの鋭い瞳が俺を射貫く。
ひょっ?
「何を言っているの?虎二君。私達3人だけで行くのよ?」
「3人デートだね!」
なぬっ!?そう言う感じなの?
俺は驚き、胸に手を当てる。
こんな美少女2人に挟まれて、俺の心臓は持つのだろうか?
そうして迎えた放課後。周りがテスト結果で一喜一憂している間に、俺はノゾミさんを連れてクラスを脱する。途中でジュンさんとも合流し、事前に呼び寄せておいた迎えの車に滑り込んだ。
「ふぅ。何とか、誰にも捕まらなかったな」
「チャイムと同時に動いたものね。セイジも気付かなかったみたいだし」
「その上郷君は、置いてきて良かったのかい?」
「良いの。赤点3つも取っている人に、自由なんてないんだから」
おいおい。赤点が1個増えとるではないか。それなら、また急に現れる事もないか。
「ところで、ここにみんな居るって事は、赤点無しって思って良いんだよね?」
俺が恐る恐る聞くと、ノゾミさんだけでなくジュンさんも胸を張る。
…あんまり張り過ぎないでね。視線のやり場に困る。
「勿論、私は今回も総合1位だったわ」
「流石ノゾミだね。あたしはそこまでじゃないけど…ジャジャーン!二桁番台いったんだよー!」
「凄いじゃない!ジュン。99位なんて…過去一でしょ?」
「そそ。全部平均点越えてるし、これも虎ちゃんのお陰だよ」
ジュンさんが喜びで声を上げると、ノゾミさんが「え”っ?」と聞いた事のない低い声を出す。
やっべ。
「よしっ!みんなが赤点クリアしたらな、俺が何かプレゼントをしよう!」
「わーい!」
良いぞ、ジュンさん。そのまま盛り上げてくれ。
ああ、でも待てよ。
「そういや、何処に行くか決めてなかったね」
それによっては、プレゼントなんて出来ないかもしれないぞ?
俺が2人を見ると、ジュンさんも口を開ける。
「そうだった。何処にする?」
「ショッピングモールが良いわ。色んなお店があるでしょ?」
「えっ!?」
ノゾミの提案に、今度はジュンさんが過剰に反応してしまった。
それに、ノゾミさんの鋭い視線が彼女へと向かってしまう。
「どうしたの?ジュン。そんなに驚いて。何か隠しているの?」
「なっ、なんでもないよ。楽しそうな場所だなって、思っただけだよ」
目を逸らせて、明らかに何か隠している風のジュンさん。
隠し事が出来ないタイプなのかな?とても可愛いけど、今はそれだと不味いぞ。
何とかしてあげたいが、俺も先ほど怪しまれたから、下手にフォローすると墓穴を掘ってしまう。
ならば、
俺はホンの少しだけ、ノゾミさんから体を離す。ちょっと重心を移動させて、密着していた肌を離した程度。それでも、彼女は再び俺に視線を向けた。
よし。思った通り。
「ねぇ、虎二君。ちょっと聞いても良い?」
「うん?何かな?」
「この前の週末。何処かお出かけしたかな?」
「うっ…」
俺が言葉を詰まらせると、ノゾミさんがグッと顔を近付かせる。そのハイライトが消えた目で、ジッと俺を見上げて来る。
「どうしたの?何処に居たの?」
「…分かった。正直に言おう」
俺はそう言って、ノゾミさんに向き合う。真っ直ぐに、彼女の怖い目を見る
「実は、とある議員さんの誕生パーティーに参加していたんだ」
「えっ?パーティー?」
予想外の答えに、ノゾミさんはポカンとした。
嘘では無いぞ?あれも土曜日の出来事。週末に変わりない。
「議員って…お父さんのお手伝い?もしかして、宿泊学習の事で?」
うぉっ。そこに考えが行き着くとは、流石はノゾミさんだな。
俺は彼女の頭に良さに感心する一方、両手で合掌し、頭を下げる。
「黙っていて済まない。実は、予算を出して貰う為の交渉カードだったんだ」
「そんな…ジュンも知っていたの?」
「う、うん。虎ちゃんが何か隠してそうだと思って、後で聞いてみたんだ」
俺達の告白に、ノゾミさんは呆気にとられたままだ。もう、勉強会やモールの事は頭に無さそう。
「そうだったんだ。また君は、1人で頑張っちゃってたのね…よしっ、決めたわ」
「えっ?」
何を思ったのか、ノゾミさんが俺の左腕に抱き着いて来る。そして、反対側のジュンさんに視線を向ける。
「ジュン。今日は虎二君を、うんと労ってあげるわよ!」
「おっけー!ノゾミ!」
ジュンさんまで、俺の右腕を抱き着いてくる。
ヤバいって。もうこの時点で、心臓が飛び出しそうなんだけど?
「俺は、君達がそう言ってくれるだけで十分だよ?」
「ダメよ、虎二君。君に拒否権はないから」
「えぇ…」
そんな強権を発動させる程、俺は心配されているのか?
分からんけど…そんなに強く抱き締めないでくれ。マジで理性が暴走しちまう。




