67話〜いいや。今来たとこだよ〜
なかなかに大変だった誕生パーティーが終わった翌日。俺は少しオシャレをして、駅前で行き交う人達の波を眺めていた。
今日はジュンさんとの初デートだ。気合いを入れて、集合時間の30分前から待機している。
ジュンさんを先に待たせたりしたくないからね。彼女の容姿で1人にしたら、野生の野郎どもが群がってくるのは必然。そうならない様に構えていた。
本当なら、俺が車で迎えに行って、そのままデート会場まで移動したかった。だがジュンさんから〈なるべく2人で行動したい〉と言う要望が来たので、全力で実行している所だった。
つまりはあれだろ?護衛とかを抜きにして、普通の高校生としてデートしたいって事だろ?
任せてくれ。護衛がいないデートの方が慣れている。
…そもそも、お家デート以外が初めてのチェリーボーイなんだがな、俺。
「虎ちゃーん!」
そうして人間観察をしていると、元気な声が聞こえる。
見ると、ジュンさんが手をブンブン振りながら、こちらに小走りする姿があった。
ああ、走らなくて良いのに。
俺は彼女が少しでも走らなくて良いようにと、全力で彼女の元へと馳せ参じた。
「おはよう、ジュンさん。早いね。まだ集合時間まで10分もあるよ?」
「虎ちゃんが早く来ると思ってなんだけど…結構待たせちゃった?」
「いいや。今来たとこだよ」
おっ。デート定番の常套句を、まさか言う日が来ようとは。
おっと、感動している場合じゃない。もう1つ、言わねばならん言葉があるだろう。
「しかし、今日も可愛いね、ジュンさん。その服も、今日の君にとても似合ってるよ」
「そっ、そうかな?ありがと…」
ジュンさんは頬を染めながら、恥ずかしそうに微笑む。
だが、本当に可愛らしい。服に詳しくないので名前まで分からないが、チェックのブラウスに白のスカートが、彼女の可愛らしさを倍増させている。このデートの為にと時間を費やしてくれたのだと思うと、喜びもひとしおだ。
でもそのせいで、周囲の野郎どもの視線が彼女に集中する。露出している肩とか太ももとかを見て、鼻を伸ばしている。
くっ、やはり恐れていた通りだったか。
「では、早速行こうか。ジュンさん」
「うん!行こ、行こ!…って、何処行くの?」
「うん。色々と考えているんだけどね…」
ジュンさんにスマホ画面を向けて、考えておいたプランを一通り見せる。
朝早くから行動しているから、出来る事は色々だ。さて、ジュンさんは何を選ぶかと見ていると…。
「じゃあ、これにしよ?」
ジュンさんが選んだのは、映画と勉強会のセットプランだった。
「おや?これでいいのかい?」
水族館へ行くプランや、海辺を歩くプランも用意していた。そちらの方が、一日中遊べて満足度も高いと考えていたのだが…?
「うん。だって再来週はテストでしょ?虎ちゃんならこっちを選ぶかな?って思ってさ」
なんと、俺のことを考えての事だった。
正直、不満も感じた。俺の事は考えず、もっとワガママに振舞って欲しいと思ってしまう。
でもそんな思いよりも、嬉しさの方が勝っていた。俺の事を考えてくれる彼女の優しさが、ヒシヒシと伝わって来る。
「ありがとう、ジュンさん」
「ううん。虎ちゃんだけじゃなくて、あたしも勉強しないとだし。赤点取ったら、京都旅行の準備も出来なくなっちゃうからさ」
確かに。追試の勉強しながら買い物なんて出来ないから、準備はかなり慌ただしくなるだろう。
折角ここまで作り上げた旅行だ。是非とも赤点ナシの万全な体制を整えたい。
「よし。そうと決まればモールの映画館へ出発だ」
「しゅっぱーつ!」
と言う事で、我々の行き先は大型ショッピングモールとなった。
奇しくも、一昨日ノゾミさんと一緒に行った場所だが、あそこには何かあるのか?
そう思いながらも、我々はモール行きのバスに乗り込む。
「虎ちゃんとバスに乗るなんて、なんか新鮮だね」
後ろの席で隣合って座ると、ジュンさんが俺とバスの風景を見比べながらそう言う。
「ああ、そうだね。俺達は専ら、車移動だったから」
少なくとも、俺が覚醒してから公共交通機関を使用するのが初めてだ。
「その割に、バスに乗るのには慣れてそうだったね?」
「いやいや。内心はちょっとビックリしていたよ?」
俺の記憶よりも、内装がガラッと変わっていたからね。階段が随分と緩やかになったし、通路も凄く広くなっている。バリアフリーって奴かな?
あと、殆どの人がICカードやスマホで決済している。誰も両替機を使おうとしておらず、降りる時もスムーズだ。
乗り慣れない人が、降りる時になって両替機し始めて、運転手にキレられるって光景は見られなくなった。
懐かしい。そもそも、自動運転バスも結構普及しているんだとか。
「だから、俺にとっては新鮮で、この時点で楽しい非日常だよ」
「そうだよね。護衛の人達も居ないし」
「うっ…」
「う?」
しまったな。先ずはそれを言わねばならなかった。
俺は軽く頭を下げる。
「済まない、ジュンさん。完全に護衛を外す事は出来なくてね。今も何処かで、俺の動向は監視されているんだ」
「えっ?何処?」
ジュンさんはキョロキョロと車内を見回すが、そこじゃないだろうな。
俺はバスの後ろを指さす。
「きっと、このバスの後ろを着いてきているんじゃないかな?同じ空間には入らないけど、SOSがあったら駆けつけられる位置に居ると思う」
「あっ、そう言う事ね。それは仕方ないんじゃないかな?虎ちゃんのお父さんは有名人だし」
ジュンさんは直ぐに、優しい表情に戻る。
「ありがとう、ジュンさん」
「ううん。あたしこそ、頑張ってくれてありがとうだよ、虎ちゃん」
うん。まぁ、正直この条件を勝ち取るのもちょっと苦労した。ちゃんと護衛を置くべきだと、過保護な母親を説得するのに夕飯が冷めてしまったからね。
でも最後は、俺が緊急用のブザーと熊よけスプレーを携帯する事で納得させた。まるで小学生みたいなこの対応だけは、決してジュンさんに見せられない。
「そう言えばさ、昨日のパーティーはどうだったの?」
「ああ、あれね。なかなか骨が折れたよ」
俺が昨日の出来事を端的に聞かせると、ジュンさんは1つ1つに良いリアクションをしてくれる。
お酒を勧められそうな所では慌てた表情になるし、ナツ先輩と会った所では驚き顔になっていた。
白月嬢との話では、随分と不安にさせてしまったみたいだったが、ナツ先輩とのダブルカポエイラで撃退した事を教えると、明るい笑顔になった。
「そっか。あたしとのレッスンが生きたんだね」
「ああ。凄く助かったよ。あれのお陰で、議員とも仲良くなれてね。こうして個人携帯番号も交換させてもらったんだ」
「えっ!?その議員さんって…女性?」
「お爺ちゃんだよ。恰幅が良くて、でも優しそうな瞳をした人さ」
まぁ、議員さんだから、腹の中までは見えないけどね。
しかし、議員が女性なのかって聞かれるとは…ジュンさんは俺を、女ったらしと思っているのか?
まぁ、仕方ない。ノゾミさんとの事があるからな。これは、ハーレムメンバー以外の女性は極力近付けない方がいいぞ。
俺が肝に銘じる横で、ジュンさんは「あっ、じゃあ」と何かに思い至る。
「議員さんとも仲良くなれたなら、お父さんからもいっぱい褒められたんじゃない?」
「…ああ、実はそうなんだよ」
「やっぱり!でも…あんまり嬉しそうじゃないね?」
「ああ、正にそうなんだよ」
俺は大きく頷く。
パーティーが終わった夜。俺は約束通り父とオンライン会議を行った。取り敢えず名刺は配りましたよ〜程度で終わらせようとしていたのだが、会議の冒頭で父から褒められてしまった。
『三方議員から直接連絡があってな。お前の事を大層お褒め下さっていたぞ!』
そう言う父の顔は、父親として誇らしいと言う笑みの他に、経営者としての黒い物も垣間見えた。
そして彼は『次のパーティーも出席する様に』と、謎のタスクを俺に押し付けて来たのである。
「そっかぁ。お父さんに認められたのは嬉しい事だけど、パーティーに出なくちゃいけないのはメンド臭いよね?」
「ああ、かなり面倒なことになった」
「また女の子に言い寄られるかもしれないし…」
「…それは、どうかと思うけどね?」
今回はたまたま、ビッチな令嬢と出くわしだだけだろうし。
俺はそう思うが、ジュンさんの顔は晴れない。う~んと可愛らしく悩んでしまった。
「あたしもパーティーに参加出来たら良いのに…」
「おお。そうしてくれたら嬉しいね」
ジュンさんの呟きを、俺は即座に拾い上げる。
すると、ジュンさんは「えっ!」と驚きの声を零す。
「そんなこと出来るの?あたし、ただの一般市民だし…」
「俺だって貴族ではないさ。ただ親が金を持っているだけのボンボン」
「いや、虎ちゃんはそれ以外でも凄いし…じゃなくて、パーティーに参加するには色々と条件みたいのがあるんでしょ?」
「まぁ、招待状は必要だが、俺の同伴って事でなら通るだろう。ただ、それなりの理由が必要になるけど」
ただ俺が選んだ人…というだけでは、あの父親は許可しないだろう。だから、それなりの理由…例えば、ダンスのパートナーだとでも言えば通ると思う。
昨日のパーティーも、あのダンスが評価された面がある。だから、そのダンスを教えてくれた人と共に参加すると言う理由でなら、父の許可も下りるだろう。
…まぁ、余興にダンスが組み込まれているパーティー限定にはなるけどね。
「そっか。じゃあ、パーティーに参加するなら踊らないといけないって事だよね?あたしのダンスで良いのかな?」
「君のダンスは素晴らしいよ。見ていて元気になるからね」
ダンスが楽しいって思いが、良く伝わって来るし。
「そ、そう?でも、みんなの前で踊るなんて…ちょっと恥ずかし」
「そうかい?もしもダンスではない方法で参加するなら…俺のパートナーとして出席してもらうかなんだが…」
「ぱっ!ぱっとなっ!」
ジュンさんが恥ずかしがるから別案を出してみたのだが、思った以上に驚かれてしまった。
「済まん、ジュンさん。あまりに軽率な提案だった。君の気持も考えないで…」
「う、ううん。あの、そうじゃなくて…突然で驚いただけで…別に、嫌とかそう言う訳じゃなくて…」
えっ?嫌じゃない?
「…では、パートナー路線で行く?」
「そ、それは……考えさせてください」
真っ赤な顔を伏せてしまうジュンさん。
まぁ、そうだろうな。多少の好意は持ってくれているかもしれんが、流石にそんな立ち位置にハマるなんて嫌だと思う。全力で拒否されなかっただけ、彼女との仲が深まっていると信じたい。
…単に、ジュンさんが優しいだけかもしれんけど。
「おっ、着いたみたいだ。行こうか、ジュンさん」
「はっ、はい!」
俺が手を出してエスコートすると、ジュンさんは顔を真っ赤にして立ち上がり、その手を恐る恐る取った。
う~ん…イカンな。パートナーとか言ってしまったから、ジュンさんが変に意識してしまったぞ?これは、映画の前にワンクッション入れた方が良さそうだ。




