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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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漫遊4

三河国 岡崎城


 取次ぎをしてもらっている数日間、私を初めとする一行の主要な者は岡崎城城下にある山岡殿の屋敷に厄介になっている。どうやら、三河各地の有力国衆では親今川・反今川で親子兄弟・主君と家臣が対立し、反乱を一か所を鎮めれば他の二か所で反乱が起きる。まるでいたちごっこをやているような状況に置かれているようだ。



 後に三河忩劇と呼ばれ1558年まで続くこの反乱。1556年9月に入ると、足助城の鱸兵庫助が美濃国の遠山氏と共に反今川の兵を挙げ、続いて三河への帰国を許されていた西尾城の吉良義安も織田方だった緒川城の水野信元と結んで挙兵。1556年、今年に入ると、松平氏の重臣でありながら半ば自立した存在であった上野城の酒井忠尚も挙兵、2月には酒井は降伏したものの、今度は青野松平家で内紛が起きて今川方の当主の松平忠茂が討死。



 なぜこのようなことが起こっているのか。それはこの時代を語るのに欠かせない一揆という存在だ。特にこの三河忩劇は二つの縁によって結ばれた一揆が大きくかかわっている。一つ目は、東三河の奥平氏・菅沼氏・牧野氏を始めとする諸氏の間で結ばれた婚姻関係などを通じた血縁的結合に基づく一揆だ。二つ目は、先に挙げた三氏に松平氏・鈴木氏・吉良氏などを加えた地縁的結合に基づく一揆だ。この二つの縁によって構成された一揆が今川氏の三河支配の強化に抵抗する反今川の動き、あるいは尾張の織田氏と結びついた親織田の動きとなって反乱がおこったのだろう。



 これに対して今川氏としては三河支配を確立するためにもこの一揆を解体する必要がある。そのためには軍事的な解決だけでなく一族内部の内紛を利用してそれぞれの内部に介入することでそれを成し遂げる必要がある。史実では一揆の完全な解体を見ることなく桶狭間の戦いに突入していくのだが。



 さて、屋敷にて手持ち無沙汰に過ごしていると何やら客人が来たようだ。



 「三雲、一体だれが何の用で訪ねてきたのか。今川殿からの御返事であろうか。」



 「若様、此度我らを訪ねてきたのは奥平貞治と名乗る若武者でございます。お会いになられますか。」



 「わざわざ我らに会いに来てくれたのだ。すぐに会おう。」



 三雲定持が奥平貞治を呼びに行っている間に三雲成持を近くに呼び寄せる。



 「成持、奥平という家について聞いたことはあるか。」



 「流石に三河までうちは手を伸ばしてはいないから、兄貴の質問に答えられることはないかな。一応、ここらで聞いた話だと、当主の奥平貞勝が嫡男奥平定能と一族の大半によって領地から追い出され次男常勝、三男貞治とここ岡崎に避難してきているらしいことは分かっているよ。」



 「そのような背景があったのか、なら客人が切り出す話題も搾れるというもの。これからも情報収集を頼んだぞ。」



 さすがは甲賀の者。岡崎の町をぶらぶらしていると思ったらこのような情報を得ているとは。しかし、この奥平氏、あの長篠の戦いで活躍した一族に違いない。なれば此度私を訪ねてきた貞治もなかなかの雄の者に成長するに違いない。



 「お初にお目にかかり申す、某村上源氏赤松氏の流れを組む奥平家当主奥平定勝が三男奥平貞治にございます。此度は突然の訪問にも関わらず六角伊賀守忠定様への御対面をお許しいただき、なんと御礼のお言葉をもうしあげるべきか。」



 たしかに、史実で活躍した人物らしく凛々しい顔立ちに才気煥発さが体からあふれ出ているような気がする。これは将来良き武将になると確信をもって言うことが出来るだろう。



 「奥平殿、よくぞ参られた。私と其方は聞くところによると同い年。公式の場ではない故、畏まらずに肩の力を抜かれよ。しかし、如何なる用にてこの忠定を訪ねてきたのか。」



 まどろっこしい挨拶は抜きにして、早速今日此方を訪ねてきた用事を聞き出す。



 「この貞治、六角伊賀守様に仕官したくお尋ねいたしました。」



 「なんと。奥平殿は現当主の三男。そして、ご嫡男は今川殿に反乱を起こしていることを考えれば、当主は難しくとも御一門として熱く遇されるのではあるまいか。なのにわざわざ縁も所縁もない近江の大名に仕えようとされるのか。」



 「いきさつから話しますと。兄定能が父定勝に謀反を起こしたときに父に連れられてここ岡崎に逃れてまいりました。この時、日乃本の広さを知ると同時に家督継ぐことはおそらく叶わぬことを痛感しました。兄にはもう男子が生まれておりまして、兄が追い出されるとしても兄の子が継ぐでしょう。我ら兄弟の出る幕はありません。また我ら一族は本拠地のある奥三河の作手亀山城の周辺に集まっており、この地域は武田や今川・斎藤に強く影響を受ける場所。何時没落するかわかりませぬ。そこで六角伊賀守様御一行が岡崎に滞在されていることを知りました。そこで父に願い出て、この貞治の立身出世と血の継承を考え仕官を願い出た次第であります。」



 思ったよりも壮絶な決意だったが、有能なものが自ら配下になりたいと申し出ている。これを断る理由はない。



 「なんと壮絶な決意。ここまでの意思を固めた者を追い返したとあらば武門の恥。良かろう。奥平貞治殿を我が家臣として受け入れよう。」



 ここに有能な人材を新たに人材に招くことが出来た。

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