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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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婚礼2

  1556年 朽木 近衛稙家


 準備が整い、夕闇を明るく照らす篝火が門前に焚かれ、姫の門出を祝す。今回は嫁ぎ先が武家なのでその習いに従った。此度の護衛役は我が近衛家家司進藤氏の一族であり、六角家の重臣進藤賢盛殿が務められる。京都を宗家として山科・近江に分家がある進藤氏の中で近江の一族の者だ。率いられた兵は2千。皆きらびやかな武具を纏い、よく訓練されていることがわかる。



 「此度の近衛家からの降嫁、六角家を代表して、感謝を申し上げますとともに両家の益々のご発展を長いまして、贈り物がございます。」




 そうして、送られた箱には金銀がぎっしりと詰め込まれていた。これがあと、20箱もある。そのようなことはないのだが、娘と金銭を交換したように思えてしまった。雑念を振り払う。



 「六角殿の領地で無礼を働くものが居るとは思わぬが、万が一のこともある。賢盛殿どうか娘を無事に観音寺城まで送ってくだされ。」



 「主より厳命を受けております。大船に乗った気持ちで安心くだされ。」



 そういって、賢盛殿が席を外される。外には照を乗せた輿が家人の者たちに担がれている。先に出た外に賢盛殿が輿の前で膝まづく。



 「某、六角家家臣進藤山城守賢盛。此度の供を命ぜられました。どうかお見知り置きを。」



 目を覚ますような大声に、照は完全に固まっているようだ。朝倉義景に嫁いだ姉譲りの美貌が強張っておるわ。挨拶を終えた賢盛殿は、繋いであった馬に跨ると全身の号令を出す。行列は軍勢に伴われて粛々と夕闇の中に消えていく。様々な思いを乗せて。




  進藤賢盛


 しきたりに従って、夕方遅くに出立したが暗闇の中を歩き続けるのは愚の骨頂。此度は事前に話を通してある新庄城に宿泊することにする。城に近づいていくと道の両脇に篝火が焚かれ、兵が間隔をあけて立っている。あちら方も相当力を入れておるようだ。



 城主である新庄実秀の出迎えを受ける。近衛殿の姫様にはかなり疲れの色が見えるので饗応は早めに切り上げさせ、御屋敷にてご休息してもらうこととなった。明日は予定の通り、淡海を通って一挙に観音寺城に姫様を届けることができそうだ。



 翌朝、見送りを受けながら大溝に向かう。ここから大船に乗り換えて、八幡に向かうそこから観音寺城まで行くのだ。これならば、時間の短縮となる。



 その後の行程は順調に進んだ。淡海の湖面は凪いでおり、風は適度に吹いていた。5百兵を乗せ、残りは陸路より観音寺城に向かわせる。予定の通り、観音寺城には日が傾く前につくことができた。今夜、祝言が挙げられ、忠定様と近衛殿の姫君が晴れて夫婦となられるのだ。これにて重要なお役目は終わりである。某も着替えて、祝言に参加せねばならん。




   観音寺城 六角忠定


 今日で、自由な独身時代は終わってしまうのである。これからは行動と言動を慎まなければならんとわ。さてさて、お相手はどんな方なのか。今回、お相手の護衛役を務めた進藤賢盛が出立前に聞いてみると、なんと朝倉義景正室で容姿無双と讃えられた方の同母妹であり、同じく容姿端麗な方であるようだ。



 婚姻には今でも気が進まないが、お相手に関しては相当恵まれていることが分かった。何とかして腹をくくらねばならないが、千代女のことをどうするかが頭を悩ませる。側室として迎えることは、既定路線であるが、奥向きのことは正室となる近衛の姫に許可を取らなけならない。さて何時告白すべきか。



 そうこう考えているうちに、祝言の時間となった。もっとも、そんな大げさなものでではなく、家臣達を集めてその前で近衛の姫と並んで宴会を行うのだ。左手に父義賢が座り、その博役である三雲定持が座る。定持の目から大粒の涙が流れている。やっと一人前になった、これで亡き祖父定頼公より頼まれたお役目を立派に果たすことができたといっていたが、その感動はひとしおのようだ。私の直参の家臣たちは下座も下座、遠くで祝ってくれているようだ。



 祝言の宴会も終わるといよいよ初夜である。先に近衛の姫が部屋に入り待っている。部屋の前で呼吸を整え、障子をあけて部屋に入る。部屋の中には、寝具が敷かれておりその上に麗人がちょこんと座っていた。



 「今日一日慌ただしく、確りと自己紹介できなかった。六角右近衛中将忠定である。これから夫婦となるが、こちらは武家故色々と勝手が違うであろうがよろしく頼む。」



 「こちらこそ、まだ名前を名乗っておりませんでした。近衛稙家が娘、照と申します。以後よろしくお願いします。旦那様。」



 確かに、美人であるがどちらかというと可愛い系の顔立ちだ。端正な顔立ちの千代も良いが、照のような庇護欲をそそられるような顔立ちもたまらない。さて、今日の夜も長くなりそうである。

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