★家族
クロードは受け取った手紙を広げられずにいた。この手紙にロベールがローザに殺される道を選んだ理由が書かれているのだろうか。読みたいけど怖い。自分一人が生き残ったことをロベールは、本当は恨んでいるのではないか。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
手紙は屋敷に戻ってから読もうと決め、クロードは領主たちを帰らせることを優先した。
「いえ、何もお役に立てず申し訳ないです。我々は退散いたします」
頭を下げて領主は兵を引き連れて森を出て行った。
「クロード、今度はおまえが俺の屋敷に来いよ。歓迎する」
「ああ」
ラファールは一度手を振り領主のあとを追いかけた。誰もいなくなりクロードは屋敷に戻る。
「ユリア」
ユリアが玄関の前で座り込んでいた。クロードはユリアに駆け寄る。
「クロード!」
クロードの姿を見つけたユリアは立ち上がってクロードに抱きつく。クロードは少しよろめきながらもユリアを抱きとめた。
「おかえり」
「ただいま」
クロードたちは屋敷の中に入る。ユリアはクロードの手に封筒があるのに気づき訊ねる。
「それは?」
「ロベール兄さんからの手紙……生きていたころにオレ宛に書いていたらしい。今から読もうと思って」
「私、部屋に戻ってるね」
ユリアは自分が踏みこんでよい領域ではないと思い、クロードを一人にさせようとした。
「いや一緒にいてくれ」
「いいの?」
「ああ」
話しているうちにクロードの部屋に辿りつき、いつものようにソファーに並んで座った。
クロードはゆっくりと封筒を開け、手紙を広げた。手紙に書かれていたのはたったの一文だけ。
『お前のことは誰よりも愛している』
この手紙は何度も書き直したらしく紙が薄汚れている。長文の内容にしたこともあるようで紙の端から端まで何かを書いて消したあとが残っている。
(悩んで、結局書いたのがこの一文……俺が知りたかったことは何一つ書いてない、書いてないけど……)
ロベールがクロードをどれほど大事に思っていたのかが伝わってきた。クロードは静かに涙を流す。
王族付魔法剣士になる資格がないと知った日からクロードは家に居づらくなって各地を旅するようになった。ロベールとの間に何か問題があったわけではないが、心のどこかで邪魔に思われているという気持ちがあった。
「なあ、ユリア」
「ん?」
「オレはちゃんと愛されていたんだな」
愛されていることを信じきれなかった己を責めた。ロベールだけは王族付魔法剣士になれないと分かったあとも魔法の練習につきあってくれていたのに。家に帰ったときに旅の話をロベールにするのがクロードの一番の楽しみだったのに。
「……どうして、信じきれなかったんだ。どうして、救えなかったんだ……!」
涙を流すクロードの肩にユリアは寄りかかる。
「……私は、クロードに救われたよ」
クロードはユリアを抱きしめる。ユリアなりに自分を慰めようとしてくれているのが分かった。
(ロベール兄さん、救えなくてごめん。今度は絶対に守るから、ユリア)
ロベールを救えなかったことに対する後悔は消えない。たとえロベールが自ら望んだ死だとしても。ロベールが死を選んだ理由は気になるが、当の本人が語るつもりはないのならそれで良い。
「(オレは前に進まないといけない……)ユリア、ここでずっと暮らすか?」
「うん」
ユリアは元気よく返事をする。
クロードはあの悲劇の日に家族を全て失った。だが同じ日に実は新たな家族を手に入れていたのだ。今まで意識していなかっただけで。
血のつながった家族はもういない。けどこれからは血のつながらない家族、ユリアとともにこの屋敷で暮らしていくことをクロードは決意した。




