☆二人
ロベールの言葉に静かに頷いたローザは、「本当に愚かでしたわ」と自嘲の笑みを浮かべた。
「お前がそんなことを言うとはな……」
「女でありながら、王族付魔法剣士として居続ける為には、常に自信ある態度でいなければいけませんもの。貴方もその点は理解出来るのではなくて?」
いつもの挑発的な物言いに戻ったローザに、ロベールは小さく笑うと「そうだな」と頷いてみせる。
「……本当に、貴方のような方は嫌いですわ」
「そうか」
「えぇ。常に余裕がある態度も、全てを知っているような態度も……」
ローザはそう言うと、指先に火の精霊を集め、遊ばせる。
猫が毬にじゃれるような仕草に、ロベールは思わず目を細めた。
「本当に得意なんだな」
「……私は、自分の能力を偽ったりしていませんわ。どこかの名門貴族の方と一緒にしないで下さい」
「お前も名門貴族の一人だろ」
「有する歴史が違います。一緒にされるのは不愉快ですわ」
フンとそっぽを向くローザ。
王族付魔法剣士として肩を並べていた時よりも縮まっている心の距離に、ロベールは内心で喜ぶ。
「……良かったのですか?」
「ん?」
「貴方は、貴方の命を懸けてでも守りたい存在が居たのでしょう? 此処に私と留まっているということは、もうその方と会うことは出来ませんのよ」
ローザはそう言うと、瞳を揺らした。
誰かを思い出しているのか、ほんの僅かに噛まれた唇がその赤さを増す。
「……あいつには、手紙を残してきた。言いたいことは全て……ソレに託したからな。後悔はない」
「王と国の心配はなさらないのですね」
「あぁ。王は存命、国の平和を揺らがせる者は居ない。俺達の後を継ぐ者もすぐに見つかるだろう」
「……カルマ家が王族付魔法剣士の座から退いたその時、カッツェ家がすぐその座についたのがいい例ということですわね」
ローザの皮肉とも取れる言葉に頷いたロベールは、自身もその指先で火の精霊を遊ばせる。
「――ければ……」
「どうした?」
「なんでもありませんわ。ところで、ロベール」
「なんだ?」
「いつまで此処に留まるつもりですの」
ローザはそう言うと、視線を上へと移す。
其処には、何時の間にか扉が一つ存在していた。
金色に縁取られた白い扉は美しく、ただ静かに二人を見下ろしている。
「……そうだな。いくか」
「えぇ。これ以上、此処で貴方と話していても、何も変わりませんもの」
ローザはそう言うと、詠唱しその背に風で出来た羽を生やした。
なんの迷いもないようにロベールを置いて飛び立つローザに、「やれやれ……」と小さく呟き、同じく背に風の翼を纏うとロベールも扉に向かって飛び立つ。
ロベールがローザの隣に並び立つと、沈黙を守っていた扉がゆっくりと開かれた。
ローザとロベールは顔を見合わせ一つ頷くと、二人一緒に扉をくぐる。
『男女の差も家のしがらみもなければ……』
そんな言葉を、二人を見送る精霊達と共に真っ白な空間に残して――




