☆明かされる胸の内
王族付魔法剣士ではなく、ただ一人の兄の顔をしているロベールを目の前にしたローザは、先程の言葉を心の中で繰り返す。
確かにロベールが自分に『闇魔法と光魔法が得意だ』などと言ったことはない。
手合わせの度、自分を見下しているのかと叫ぶローザに、困ったように微笑む姿ばかりが思い出される。
「……知りませんでしたわ」
「言っていないからな。この事は、俺の両親も知らない」
そう告げるロベールはどこか懐かしそうな顔をする。
「……どうして……」
私に言いますの? そう聞こうとして、ローザは言葉を飲み込んだ。
自分達は死人だ。今更、自分の胸に秘めていたことを口にしても問題は無い。
そのことに気づいたローザは、この真っ白な空間で言葉を交わすことも悪く無いと考え、ただ静かにロベールの言葉を待つ。
「魔宝石を使って威力を上げればどうにかなるのが幸いだった。そうでなければ、ウォレス家は王族付魔法剣士の座を退かなければならないし、最悪一族全員が処断される」
「そうでしたの。それは……失礼な事をしましたわね。ごめんなさい」
「素直にお前が頭を下げるとは……珍しいものを見た」
「失礼な! 自分に非があるならば、頭を下げるのは当然ですわ」
驚くロベールに、ローザは不満の声を上げる。
フンと鼻を鳴らすローザに、ロベールの中にあるローザの姿が変わっていく。
女の身ながら、父の後を継ぎ王族付魔法剣士となったローザは、気と我が強い、いうなれば何もかも力で押し、自身が中心でなければ納得出来ない自己中心的人間なのだと思っていた。
しかし、実のところただ純粋で真っ直ぐな……狭い世界しか知らないお嬢様だったのかもしれないとロベールは思い直す。
「なんですの?」
驚いた表情から真剣な表情に変わったロベールが何も言わず、自分を見ていることに耐えられなくなったローザは半ば睨むような目つきで尋ねる。
ロベールは「いや……」と短く答えると、何かを思い立ったかのように口を開いた。
「お前が死後の世界を信じていることも、素直に謝るのも意外だと思ったんだが……何を言われても『否』と答える。と言っていたのはなぜだろうと気になった」
ロベールの言葉に、ローザの表情が変わった。
火の精霊達がざわめくのを感じながら、ロベールはローザの言葉を待つ。
「……つまらないことを覚えていますのね」
ハァと息を吐きながら呟いたローザは、それでも話す気になったらしく「本当につまらないことですわよ」と前置きし、話し始めた。
「私の家は、数代前に王族付魔法剣士となった。それは、カルマ家の詠唱なしで風魔法を操るという能力が失われ、王族付魔法剣士の任を解かれたから」
「あぁ」
「王族付になった私の家はたちまち尊敬を集め、人々は私達を持て囃し始めた。当然ですわ。才も力も富も得ているのですから……でも、王城内は違う。常に私達を新参者扱いし、私達を……私の力を認めない。常に男である自分達の方が上であり、女である私はただ子に恵まれなかった父の後釜……大した才など無いと……不当な評価しかしない……」
ローザの言葉に怒りと悲しみ、そして思い出しているのであろう人々への恨みが滲む。
近くに居た火の精霊だけでなく、何時の間にか集まっていた他の精霊達もその怒りに煽られるように騒ぎ出した。
「だから……欲しかったのですわ。誰にも何も言わせない力と地位が……」
「それで、俺達を……」
「えぇ。貴方を裏切り者として殺し、私が王の絶対的信頼を得ようと思っていましたの。その為に噂を流し、王に決断させた。そして……ただ王への忠誠を誓うだけだった父と『女』であることに囚われ、私を理解しようとしなかった母を手に掛け……」
ローザはそこで言葉を切ると「後は貴方も知っているでしょう?」と微笑んだ。
その姿にロベールは小さく頷き「だから『否』と答えると言ったんだな」と告げたのだった。




