★対峙した二人
あれほど恐怖を感じた存在がこうもあっさりと消え去ったことに納得がいかずクロードは、ローザがいた場所を呆然と眺めていた。
「クロード」
懐かしい声、二度と聞けないと思っていたロベールの声が聞こえた。いつの間にかロベールが目の前まで来ていた。
「ロベール兄さん」
「ローザは俺が裁く」
ロベールはそれだけ言うとクロードに背を向ける。ロベールに擦り寄る火が大きく燃え上がり、ロベールの姿を隠す。その光景はローザが消えたときと似ていた。
「待って」
クロードはロベールがローザと同じように消えるつもりなのだと悟り、止めようとする。
「クロード、お前は俺の分まで生きろ」
その言葉を最後に燃え上がる火は跡形もなく消え去った。
「どうして、どうしてだよ、ロベール兄さん……せめて、どうしてローザに殺される道を選んだのかくらい教えてくれよ……」
クロードは顔を下に向け、苦しげに言葉をこぼす。彼は分かっていた。ロベールが実は無事だったのではなく、魂だけを魔法でこの世に留めているだけだと。
「クロード様」
名を呼ばれ、ゆっくりと顔を上げると領主がこちらを見ていた。
「こちらはロベール様が生前あなた様に宛て書いた手紙です。もしクロード様に会うことがあれば渡してほしいと頼まれていたものです」
「ロベール兄さんが……」
クロードは領主が差し出した手紙を受け取った。
***
気がつくとローザは真っ白な空間に立っていた。
「ここが……死後の世界……」
「信じるのか、死後の世界を。意外だな」
何もないところから火が現れ、そこからロベールが出てきた。火はまた甘えるようにロベールの髪にまとわりつく。
「死んでなお、あなたと一緒になるとは思ってもいませんでしたわ」
「安心しろ、ここはまだ死後の世界じゃない。その一歩手前ってとこだな。俺たちはまだ魂が死んでない。いや、お前の魂を俺が無理やり引きとめた」
ロベールは魂だけをこの世に留める魔法を使った。その代価は肉体の死。魂だけの存在であるロベールは他の魂を引きとめることができてしまう。
「何故わざわざそんなことを?」
「お前が好き勝手言いやがるから言い返してやろうと思ってな。お前はいつも俺にこう言ってたよな、得意の闇魔法も光魔法も使わないなんてどれだけ見下せば気が済むのか、って。俺がお前に闇魔法と光魔法が得意だなんて言ったことがあったか? ないよな」
ロベールは腰に差していた剣を鞘ごと外し、柄にはめ込んであった二つの魔宝石を取り外した。
「見ろよ、これが闇魔法も光魔法も使わない理由だよ。集え、闇の精霊」
本来なら剣の周りに闇の精霊が集まってくるのだが一向に集まる気配はない。火の精霊がロベールの周囲に擦り寄っているのでここに精霊が来ることができないわけではない。
「俺はな、得意じゃないんだよ、闇魔法も光魔法も。この魔宝石で闇魔法と光魔法の威力を上げていただけだ」
落とした魔宝石を拾い上げ、もう一度柄にはめ込む。
「本当に才能があるのはクロードの方だ、あいつは凄い。呼ばずとも勝手に精霊も聖霊も集まって来る。精霊と聖霊の自らの意思でクロードの所に集まるから、得意じゃない俺が使ってもなかなか集まってくれないんだよ。クロードの、あいつの魔力が高ければ魔法剣士にもなれただろうな」
ロベールは昔のことを思い出す。魔力が低いせいで精霊が集まってきても上手く魔法を発動させられず落ち込んでいたクロードの姿を。そのクロードが今回聖霊を使った魔法を発動させたことに驚いた。弟もいつの間にか成長したのだなと心の中で呟く。




