☆聖女と呼ばれた者の最期
自分を吸い込もうとする門を、ローザはただ静かに見つめていた。
ローザが身に纏っているのは、光魔法ではなく炎魔法だ。
この門を壊すには、相殺させる為の光魔法か別の闇魔法を放つしか無い。
しかし、ローザは光と闇の魔法の能力はほぼ無く、この門を壊す術を持っていなかった。
「……負けのようですわね」
誰にも聞こえないほど小さく呟いたローザは、目の前に立つクロードを見た。
その瞳には、自分への強い憎しみが宿っている。
本来ならば、あのような瞳を格下の相手に許すことはしない。
しかし、今のローザにはクロードがどんな瞳をしていようと関係はなかった。
油断をすれば確実に自分の命を吸い込むであろう門に背を向け、ローザは領主達の方へ向き直る。
自分との勝負を捨て、ラファール達を襲うつもりなのかとクロードはローザの視線の先へ自身の視線も移した。
すると其処には――
「……ロベール……兄さん……?」
決して忘れることのない……大切な家族の姿があった。
あの日、自分を逃し、自身は儚く散った彼――敬愛する兄 ロベール――が、あの日と変わらぬ姿で其処にいる。
到底信じられない目の前の光景に、クロードは言葉を続けることが出来ない。
ロベールはクロードを見ると何も言わず頷くと、ローザを睨んだ。
先程まで擦り寄っていた火が、ロベールの感情を現すかのようにジリリと音を立てて燃え上がる。
「……その魔法を使う為、わざと屋敷に火を放ちましたのね。ロベール」
「お前が何をするか、理解していたつもりだ」
「そうですの……理解、ですか……ならば、貴方は王の為、国の為に命まで捧げたとおっしゃるのですね」
ローザはそう言うと、先程とは違う確実な殺意と怒りを瞳に宿した。
それに呼応するように、ローザの身を包んでいた光が強くなる。
「……お前は……」
「何もおっしゃらないで頂けると嬉しいですわ。ロベール。いえ、例え何を仰っても、私は『否』と答えます。代々名門貴族として王に仕えてきた……いえ、男として生まれ、当然のように王族付魔法剣士になった貴方が理解できることなど……何もありません!」
ロベールの言葉を遮り、半ば叫ぶように告げるとクスクスと笑い出した。
その様子に、ロベールは眉を寄せ、クロード達は身構える。
「あぁ……とんだ誤算でしたわ」
「誤算?」
ローザの言葉に、領主が眉を寄せながら聞き返す。
いまだクスクスと笑っているローザは「えぇ。誤算ですわ」と呟くように告げると、クロード達から距離を取る。
その姿はまさに貴族の令嬢というに相応しく、優雅で気品のあるものだった。
「私は、負けるつもりなどありませんでしたし、ロベールは、私に負け死したのだと思っていました。でも……私はこうして負け、ロベールは自ら死を選んだも同然……なんて、愚かなのでしょうね」
ローザはそう言うと、笑みを浮かべる。
何かを覚悟したような、穏やかな笑みを……。
「待て!」
ローザが何をするか予想がついたのか、ロベールが声を上げ、駆け寄ろうとしたその瞬間――
ブワリ……
ローザを囲うように、火柱が上がった。
誰も近寄らせないと言わんばかりに燃え盛る炎。
ローザのみを包んでいた光も、その火柱に混ざり合うように消えていく。
「死ぬつもりか!」
クロードの怒鳴り声が周囲に響く。
ラファールと領主達は何も言わず、ローザを見つめる。
「言ったはずですわ。私を裁けるのは、私だけ。例え、王でも、私を裁くことは許さない」
「勝手な……」
「貴方方は本当に……私の嫌いな方々でしたわ」
ローザはそう言うと、フワリと笑い言葉を続けた。
「コレが私の……王族付魔法剣士 ローザ・カッツェの最期の魔法。その目に焼き付けるといいですわ。炎の聖霊達よ。盟約により、この身に美しき最期を……終焉の炎」
ローザの詠唱が終わると同時に、火柱からまばゆい閃光が放たれた。
クロード達は思わず目を瞑る。
「……馬鹿な……」
光が収まり、クロード達が再びローザのいた場所に目をやると、其処にローザの姿はなかった。
常に身に纏っていた革鎧もレイピアも無く、残っているのは、灰や炭となった草木と焦げた大地だけだった。




