☆賭け
ロベール……いや、クロードの血とラファールの魔力によって生み出された火の鳥は、まっすぐにローザ目掛けて飛んでくる。
その様子をローザはただ静かに見つめていた。
(やはり……あの時、死にましたのね。ロベールは……)
自分の目的の為に葬った人間へ特別な感情を抱くこともせず、ただ冷静に現実を見つめるローザ。
迫り来る炎など、その碧い瞳には映っていないようだ。
ラファールとクロードもそんなローザと自分達が操る火の鳥の距離が縮まっていくのを静かに見つめている。
火の鳥が纏うに熱により、木々は炭と灰になり、ローザの金色の髪がその熱気により乱れていく。
あと少しで、火の鳥がローザを飲み込む。そうクロード達が思った瞬間――
「……コレで理由が出来ますわ」
ローザは小さくそう呟き、レイピアと革鎧に魔力を纏わせると、火の鳥に飲み込まれた。
「精霊が、聖霊を呼んだ私を焼きますの?」
冷たい声が炎の中から聞こえ、火の鳥はローザから離れ大きく揺れると声にならない声を上げた。
突然の事にクロード達は言葉もなく、ただローザと消えいく火の鳥を見つめるしか出来ない。
「……なにが……」
やっと声を上げたのはラファールだった。
自分とクロード、二人で作り上げた火の鳥が、たった一言の言葉で消えたという事実に、驚きが隠せない。
クロードも表情こそ変えていないが、危機感を感じているのか、その額に汗をかいている。
「通常の精霊とその精霊を支配する聖霊。どちらが上か、子供でも分かることですわ」
「まさか……」
「えぇ。先ほどの魔法――灰の踊り子で呼び出したのは、精霊ではなく、聖霊。いくら自由を愛す方々でも、自身の存在を滅しかねない相手にその自由を振りかざすことはしないでしょう?」
フワリと笑い、二人と距離を詰めるローザ。
火の鳥の中に閉じ込められても、無傷だった彼女の存在はクロード達に恐怖を植え付ける。
「魔宝石が壊れた時に気づきませんでしたの? ロベール」
「…………」
「私、楽しみにしておりましたのよ? 私がつけた傷を癒やし、屋敷を燃やし、此処迄なんの手掛かりも残さず逃げてきた貴方との手合わせを……。常に私に意見し、手合わせの時ですら、得意の闇魔法も光魔法も使わず、『女』である私を下に見ていた貴方との本当の殺し合いを」
ローザの言葉に怒りと憎しみ、ほんの僅かな悔しさが滲む。
ジリジリと心を焦がしてきた炎が吹き出すように、ローザの周囲で火花が散る。
「決めて下さいな、ロベール。此処で私と手合わせをするか……何もせずに、此処で散るか……別に散ってくださっても良いのですよ? 王都に住む者達を裏切った貴方に待つものは『死』のみ。最も、此処で何もしなければ、貴方だけでなく、この街に住む者達全員に死が訪れることになりますけれど、ね」
ローザはそう言うと、無邪気に笑いながら指を弾いた。
それを合図とするように、ローザの体を光が包んだ。
「詠唱を……」
突然の事に、ラファールが声を漏らす。
それに気づいたローザは口角を上げると、口を開く。
「詠唱しなかった訳ではありませんわ。ご存知なさそうですから、お教えしますけれど……コレは、森に入ってすぐに用意しましたの。指を弾くことで動くようにしただけ……」
「一体何をするつもりだ。ローザ」
沈黙を守っていたクロードの言葉に、ローザは笑みを崩すこと無く告げる。
「そんな怖い顔しないで下さいな。私はただ、一つの賭けをすることにしましたの」
「賭け?」
「えぇ。もし、私が勝つならこの魔法は不発動に終わる。けれど……貴方方が勝ったら……魔法が発動し、私は死ぬ。貴方方に害はありませんから、安心してくださいな」
「馬鹿な……!」
理解できないといった表情をクロードとラファールは浮かべ、ローザを見つめる。
ローザはそんな二人に笑うと「私を裁いていいのは、私だけですもの。当然ですわ」と言い切り、視線を二人の背後に向けた。
「そういう訳ですから、手出しは無用ですわよ? 領主様方」
その言葉にクロード達が反応をするのを待たず、ローザは距離を詰め、クロード目掛けてレイピアを振るうのだった。




