★退く風と闇
ラファールが出て行った後、クロードも外に出ようとして声を掛けられた。
「戦いに行くの?」
ユリアがクロードの元へ駆け寄って来る。
「ああ」
ユリアの方に身体の向きを変え、クロードは答える。
「時間がないんだ。もう行く」
「絶対に無事に帰ってきてね。私を置いていかないでね」
「分かってる」
クロードはユリアの頭を撫で、外へ出て行った。ラファールとローザの魔力を感じた方へと足を進める。
(この戦いに全てがかかっている。ローザが勝ってオレが命を失うか、オレが勝ってローザが権力を失うか、そのどちらかしか選択肢はない)
クロードは気配を消し、ラファールとローザが戦う場へと近づく。
「我が名の下に集いし闇の精霊、闇の世を開き、そして姿を隠せ。夜の道! 灰色の霧!」
クロードは二発続けて魔法の詠唱を行った。彼の言葉に反応し、ラファールの周囲から黒い穴のようなモノが現れ、そこから灰色の霧のようなモノが溢れ出てラファールの姿を隠す。その隙にラファールをその場から離れさせる。
「囮にもなれないとはな」
ローザから少し離れた場所に連れてこられたラファールは、自身の腕についた傷を眺めてポツリと呟く。
「……オレは、回復魔法が使えないんだ」
王族付魔法剣士になる条件の一つに回復魔法が少しでも使えないといけないというものがある。実はクロードは回復魔法の才がなかった故に王族付魔法剣士になるという選択肢を最初から持っていなかった。回復魔法の才が皆無なのは、光と闇属性の魔法を得意とするウォレス家では珍しかった。クロードは光と闇属性の魔法を他の属性よりも得意とするにもかかわらず、何故か回復魔法だけは使えなかった。
「大丈夫だ、これくらいの傷なら」
ラファールはハンカチを巻いてとりあえず応急処置をした。ローザから少しでも離れようと歩み始めた。
「で、どうする? 俺じゃあ、やっぱり相性が悪い。残念ながら俺は風以外の魔法の才はまったくない」
ローザから離れたとはいえ、まだローザは近くにいる。そしてクロードたちを探している。
「回復の術もない。大怪我したら、その時点でオレたちの負けは決定……絶望的だな。ユリアに近づけるわけにもいかないし」
クロードは唇を噛みしめる。見え始めた未来への希望がこうもあっさりと切り捨てられるとは思ってもいなかった。
やはりローザは強い、とクロードは心の中で呟く。一昨日ユリアのブレスレットに全ての魔力を込めてしまったせいで、今の魔力は通常の半分くらいしかない。回復魔法の使えないクロードは魔力の回復が遅いのだ。
(……どうすればいい)
クロードが考え込んでいると、ガサッと背後の草が踏まれた音がした。




