☆風の翼と炎
(何処に……何処に……向かっていますの?)
風魔法でラファールの気配を探りながら走るローザ。
細い路地を縫うように走るラファールの気配を追っているものの、見失ったあの姿を見つけることが出来ない。
ローザは、逸る心を抑えながら足を前へと出す。
カツカツと響く足音に余裕はなく、その表情もいつになく険しい。
「……風の精霊よ。今、我が名の下に集い、この背に翼を! 風の翼!」
ローザの声に反応し、風が集う。
天使の羽の形をとった風はローザの背につき、その体を宙へと浮かせた。
ローザは慣れた様子で空へと飛び、ラファールの姿を探す。
しかし、簡単にその姿を見つけられるわけもなく、ローザは炎を呼び出すと周囲に陽炎を作り自分の姿を隠した。
静かに瞳を閉じ、気配を追いながら頭のなかにこの街の地図を浮かべたローザは、「もしかして……」と小さく呟くと風の翼と陽炎を身に纏ったままあの場所を目指して飛び始める。
そう……ローザが目指すのは、この街の外れにある森。異質な魔力残滓があった場所だ。
「急がなければ……」
誰に言うでもなく、ローザはそう呟くとちらりと領主邸へ視線を向けた。
既に屋敷の人々には、自分がラファールを追っている事を気づかれているだろう。
もし、領主が王都に連絡を取り今の状況を説明すれば、確実に王族付魔法剣士というローザの肩書はなくなる。
それどころか、王都に居る事も、貴族と名乗ることもできなくなり、待っているのは罪人としての生のみ。
そんな未来を歩むくらいならば、この生命を捨ててしまおうとローザは固く決心すると、ラファールの気配が森からすることを確認し、翼を大きくはためかせた。
***
静かに森へと降りたローザは、ラファールの気配を慎重に探る。
周辺一帯を燃やしてしまうという方法も考えたが、相手に反撃を許す理由を自ら作るなど愚かしいと首を横に振った。
「……念の為、ね」
ローザはそう呟くと、細い糸のような炎を自分の身と鎧、そしてレイピアに纏わせた。
一歩、また一歩、ローザはラファールの気配がする方へ近づく。
その時――
ヒュッ……
風がローザの頬を掠め、赤い線を引いた。
指先でその赤をなぞったローザは足を止め、周囲を探る。
「偶然……なんてことはありませんわよね」
ため息混じりにそう呟いたローザは、ほんの少し悲しげに瞳を揺らすと小さく口を開いた。
「炎の精霊よ。今、我が名の下に集え」
ローザの声に反応し、幾つもの炎が集まる。
ジリリと何かを焼くような音と強くなっていく熱を感じながら、ローザは一点の方向を指さす。
炎は静かに集まると矢のような形を取り、ローザの指し示す方へまっすぐに飛んでいった。




