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秘める聖女と優しき逃亡者  作者: 黒羽、冥月 霜華
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★クロードの決意

 ラファールと別れたクロードは今、彼の部屋でユリアと隣り合わせでソファに座っている。


「ユリア」

「ん?」

「お前はここを出て、どこかの家で暮らしてくれないか? 養ってくれるところは、オレが責任を持って探すから」


 事情を話せば、ウォレス家と交流が深かった家が彼女を引き取ってくれるだろう。


(この先ローザとの接触を一切絶つのは不可能だ。仮にこの屋敷を出たとしてもオレの存在を知られてしまった以上、ローザはどこまでもオレを探し続けるだろう。そうすれば、いずれまたどこかで会う。ユリアを連れて逃げていては、ユリアをまた傷つけることになるかもしれない)


 クロードはユリア一人さえ守れない己を責める。


「……いやだ、クロードと離れるのはいやだ」


 一度は迷惑をかけたくなくて自らクロードから離れようとしたユリア。だが、やはり離れたくない、その想いが強かった。


「お前には傷ついてほしくないんだ。だから、頼む、オレから離れてくれ」


 クロードはユリアの肩をつかみ、必死に訴える。我ながら弱気な発言ばかりしているなと自嘲した。


「私にはクロードしかいないの。クロードから離れるのは、私が傷つくよりもつらいの」


 ユリアはクロードの手に自分の手を重ねる。クロードは手に伝わってきた暖かさにより、気が落ち着くのを感じた。


(分かってたんだ。どんな言葉を並べようと、オレたちが離れられないことくらい。ユリアにとってはオレが全て。家族を皆失ったオレにとってもユリアが全て。それ以外のことはもう何もかもがどうでもよかった。ただオレたちはともに生きていきたいだけ)


 クロードはあの悲劇の日に心を失いかけた。あまりにも衝撃的すぎた。ローザたちカッツェ家とウォレス家が対立していることは知っていた。けど、まさかカッツェ家がウォレス家を殺そうと思っているとまでは思っていなかった。

 自分一人生き残るくらいならいっそのこと死んでしまおうかとも考えたが、ユリアのことを思うと死ねなかった。


「悪かった。オレも無理だ、お前から離れるなんて。今度こそオレが守るからそばにいてくれ」


 クロードはユリアの肩から手を離し、抱きしめる。


「そばにいる。何があってもクロードから離れない」


 ユリアはクロードを抱きしめ返した。


「ユリア。オレは戦うよ、ローザと」

「ローザ? 偽りの英雄?」

「ああ。オレがお前に偽りの英雄なんて言ったことあったか?」


 クロードはユリアを離し、首を傾げた。今までユリアに偽りの英雄――ローザの話をした覚えはクロードにはない。だが、ローザを偽りの英雄と呼んでいるのはクロードだけ。


「昨日、クロードが偽りの英雄って言葉こぼしてた」

「ああ、声に出てたのか」

「そういえば、昨日のあの人は、ローザって人のこと聖女様って呼んでたよ」


 確かにローザは巷では聖女と呼ばれている。ラファールも聖女様と呼んでいたが彼の場合は悪意を感じる、とクロードは苦笑いする。


「そうだ、その昨日の人、ラファールって名前なんだけど、そいつがユリアのこと襲って悪かったって謝ってたよ」

「悪い人じゃないの?」

「ああ、ちょっと誤解してただけだ」


 いつもと変わらない調子でユリアと話していると、やっぱりユリアと離れるのは無理なのだとクロードは実感した。この平穏を続けるためにはローザと決着をつけなければいけない。兄のロベールでさえも適わなかったローザに、どうすれば勝てるのかは分からない。ただ全力で戦うほか勝つ方法はないだろうとクロードは考えた。

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