★真の歴史と望み
ラファールは耳を疑った。
「おい、貴様、今、何て言った? ウォレスが……カルマを救う?」
「ああ、そうだ。ウォレスはカルマを救うために辺境に追いやったんだ」
クロードは同じ言葉をもう一度繰り返した。
「……どういうことだよ」
「カルマはかつてウォレスと同じ王族付魔法剣士だった」
クロードは静かに語り始めた。ラファールはとりあえずクロードの話を聞くことにした。ここまで来てしまった以上、話くらい聞いても良いだろうと判断したのだ。
「オレの曾祖父が当主をやっていたころ、カルマは衰退し始めていた。呪文なしで風の魔法が使えるのは貴重だと判断したその当時の王様は、無理やりにでもカルマの人間に力を目覚めさせようとして、カルマの人間は幾度となく命の危機にさらされた。命の危機ならば力が目覚めるかもしれないという王様の妄想によるものだったらしい。結局どんなことをしても力が目覚める事はなかった」
クロードは一息つき再び語り出す。
「傷ついていくカルマを救うためにオレの曾祖父はカルマの当主に、王都での贅沢な暮しを捨てて命の危機が脱するために辺境に行くことを選ぶなら、一芝居うってもいいと提案した。カルマの当主は辺境に行くことを選び、オレの曾祖父は王に力がないものは王都には不要だと進言した。それにより、カルマは王都を追い出され、この辺境の地に送られた」
クロードの長い語りは終わった。ラファールは目を見開き、クロードを見ていた。
「その話……聞いたことがある」
「聞いたことがあるのにウォレスを恨んでいたのか」
ラファールがこの話を知っていることにクロードは驚いた。知らないからウォレス家を恨んでいるのだと思っていたから。
「……あの御伽噺は本当にあったことだったのか」
「は?」
突拍子もない答えにクロードは呆然とする。
「俺の祖父がその話を御伽噺のように、俺の小さいころに語ってくれた。まさか真実だったとはな」
ラファールは項垂れた。祖父が語ってくれた御伽噺に出てきた英雄がウォレス家だなんて思ってもいなかった。
「似ているとは思ってた。だけど、王都の貴族は高慢で、どうせウォレスもそうなんだと……所詮御伽噺の英雄のような貴族なんていないんだと、そう思ってた」
クロードはラファールの言葉をただ黙って聞いていた。
「……権力に惑わされていたのは、ウォレスではなく、俺の方か」
ラファールは強く拳を握り締める。今までの自身の行いを振り返れば振り返るほど、権力に振り回されていたことを自覚させられる。
「ここの人たちはお前たちカルマを慕っているのが、オレにでも分かる。ここではなるべく人との関わりを避けている。だが、一度街に出れば必ずカルマに対する尊敬の言葉を聞く」
クロードはこの街でカルマ家を嫌っている人に出会ったことが一度もない。王都では貴族を嫌う民衆など山ほどいる。地方貴族といえども貴族だ、クロードが今まで訪れた地方でその地を治める地方貴族を好いている民衆はあまりいなかった。ラファールの言うとおり、貴族は大半が高慢だ。
「……そうだな、俺たちはこの土地の人たちに慕われている……その人たちを捨てて、俺は王都に行こうと、していたのか……」
ラファールは貴族が――特に王都の貴族が嫌いだ。他の貴族と同じになりたくなくて、常に民衆と同じ目線で接しようとしてきた。己が貴族であることさえ忘れてしまいそうなほど自然に民衆の中に溶け込めたのが嬉しかった。なのに、見捨てようとしていた己を責める。
「諦めるか? 王都へ行くことを」
「ああ。俺はウォレスに復讐したかった。この地で豊かに暮らし、皆に慕われることで、俺たちはたとえ辺境でも生きてゆけるのだと示して、ウォレスを怒らせたかった。けど、もうそんなことどうでもいい。ウォレスが復讐の対象じゃないと分かったから……いや、たとえ対象であったとしても本当はそんなことどうでもいいんだ。俺はこの地で生きてゆくのが何よりも楽しいから」
そう口にして、ラファールはようやく己の本当の望みに気がついた。王都でも暮らしとか王族付魔法剣士という身分とか、そんなことはどうでも良かったのだ。いくら自分に風を操る力が宿っていようと一人ではどうすることもできない、本当は心のどこかで分かっていた。
「襲って悪かった、とあの娘に謝っておいてくれないか?」
「ユリアに? 分かった」
クロードはラファールの中で気持ちの整理がついたのだろうと推測した。
「俺はもう帰る。見送りはいらない。聖女様には気をつけろよ」
「分かってる」
ラファールは客室から出て行った。




