☆二つの魔力残滓と考え
森へと入り、魔力の残滓を辿り昨日何があったのか調べるローザ。
木々の間を通りぬけた風のように幾つもの筋を残しているソレを見たローザは、呼ばれたモノは風に類するものだろうと検討をつけた。
その間も歩みを止めず、ローザは歩き続ける。
「此処は……」
ローザは一度目を細め、足をピタリと止めると周囲を見渡した。
一見すれば今まで歩いてきた道と変わらないこの場所。強いて言えば、少し木々が減り開けた場所というところだろうか。
普通の人間ならば特に気にも留めず移動するその場所で、ローザは足を止め一向に動こうとしない。
(……この魔力はラファールのモノだと思うのだけれど……)
その場に膝をつき、地面を見つめるローザ。
ほんの少し、注意してみても見落とすかもしれないほどの傷が、地面についている。
まるでそこだけ竜巻が起きていたかのように……。
しかし、周囲の木々に目立った傷は無く、枝も落ちては居ない。
ローザは小さく息を吐き「光魔法は苦手なのに……」と誰にも聞えない小さな声でそう呟くと、掌に光を集め始めた。
眉間に皺を寄せ、険しい表情を浮かべながら地面に手を翳すローザ。
その姿は「聖女」から遠い場所にあるように思えた。
「……魔力がもう一つ?」
掌に集まっていた光は、その呟きに反応するように霧散し、跡形も無く消え去った。
明らかな魔法の失敗に、ローザの表情が醜く歪む。
(……聖女がコレではいけませんわね)
誰も自分を見ていないことを確認しながら、ローザはいつも通りの優しげな表情へと戻る。
溜息をつきながら周りを眺めると、低木の一部に傷があるのが見えた。
ローザはそこに近寄ると、ゆっくり手を伸ばす。
「木の枝が……誰かが此処に寄りかかった? それとも、魔法か何かで傷つけられた?」
もう一度光を呼び、情報を得ようか考えるローザ。
しかし、今さっき失敗している事を思い出したローザは首を横に振ると、立ち上がった。
「私が失敗など……この低木はどうせ、この辺で猟をする者達がつけたに決まっていますわ。えぇ、私が気にすべきなのは、此処に何故魔力が残っているかであって、低木の傷を誰がつけたかではありませんわ」
誰に言うでもなく、ローザは早口にそう言うと気分が悪いといった様子で来た道を戻り始める。
(魔力は二つ。一つは、ラファール・カルマの物。もう一つは……誰ですの? 私が知っている魔術師にあんな強い残滓を残せるものは居ない。たとえ、ロベールといえどあんな……そもそも、あの魔法はなんですの? 風魔法は魔力残滓からしてラファールが呼んだモノ。そう、そこに間違いは無い筈ですわ。けれど、もう一つは……放たれた魔術の時を止める様な……いえ、ありえませんわ。普通の人間の魔力で魔法を打ち消すではなく止めるだなんて……)
ローザは足早に森を抜けると、再び領主邸へと向かった。
今度は領主ではなく、ラファールに会う為に……。
このとき、ローザの思考を二つの考えが埋め尽くしていた。
一つは、ロベールを匿っているのは領主ではなく、ラファールではないかというモノ。
そして、もう一つは……今の自分の地位を守るために、カルマ一族も闇に葬るべきなのではないかというモノだった。




