☆領主との対談
翌朝、ローザは領主邸へと向かいながら、考え事をしていた。
――それは、昨夜の出来事。
食事を終え、めぼしい情報も得られなかったローザが宿屋へと戻り、王への一時的な報告を何時するべきか考えていた時に起きた。
草木も眠る深夜、外で騒いでいるのは安いアルコールに己を飲まれた者達だけになっていた頃、ざわりと空気が揺れ、強い魔力が森の方から流れてきたのだ。
ローザは一度窓を開け、外の様子を伺うが、月明かりだけでは確認など出来るはずもない。
森へと向かい何が起きたのか確認すべきか迷うローザ。
その時、ピタリと空気の揺れが収まった。
(なんですの? この魔力は……)
先程から空気を揺らしていた魔力とは別の魔力が、森の方から感じられる。
しかし、それはまるで最初に流れた魔力から何かを守るような異質さがあった。
ローザは眉を寄せると、明日、領主との会話が終わってから森へ行く事を決め、窓を閉める。
窓の下で愛想良く手を振る人々に微笑んで――
***
(領主が話しの分かる人間ならばいいのだけれど……その前にラファールとかいうあの男がどう出てくるか注意しなくては……アレは、地方貴族だというのに、まるで王都にいる貴族のような目をしていて嫌いですわ。あの男が私と同等なはずありませんのに……)
昨日のラファールの様子を思い出したローザは溜息を吐くと、昨日と同じように扉を叩いた。
朝とはいえ、既に街は動き出している。この時間に領主を訪ねようと特に問題は無い。
いや、王族つき魔法剣士である自分が何時訪ねようと、相手は喜んで迎えるべきだとローザは扉が開くのを待ちながら考えていた。
「お待ちしておりました。聖女様」
昨日会った老人が恭しく頭を下げ、ラファールが不在である事、領主が待っていた事を告げながらローザを案内する。
昨日案内されたのとは違う豪奢な部屋へと案内されたローザは、退室する老人に礼を言い、目の前に立つ初老の男性へと目を向けた。
ラファールに似たその男性は人好きのする笑みを浮かべながら、ローザに近寄る。
ローザも微笑を顔に貼り付けると、距離を詰めた。
「昨日は突然の訪問、失礼いたしました」
「いえいえ。こちらこそ、息子ラファールがご無理を言いまして……」
当たり障りの無い会話を続ける気など無いローザは、ラファールの名が出た瞬間、その表情を笑みから憂いの色が濃いものへと変えた。
それに気付いた領主は「どう致しました?」とその表情を曇らせる。
「……いえ。ラファール様から私がこの街へ来た理由はお聞きになられていますか?」
「はい。王都であのような悲劇があったとは……」
「私も未だに信じられません。ロベール……ウォレス家といえば、代々王族付魔法剣士として王に使えてきた名門貴族。それなのに……」
ローザはそう言うと、顔を伏せる。
悲しみを堪えるような声音と姿に領主も何かを思い出すような瞳をしながら「心中お察しいたします」と告げ、自分の指と指を絡ませた。
「……領主殿」
「はい」
「疑いたくはありませんが……領主様が彼らを匿っている……という事はありませんわよね?」
ふっと顔を上げるローザ。その瞳は、悲しげに揺れているように見えた。
領主は「ございません」と答え、「どうぞ、聖女様の御気が済むまでこの街に滞在下さい」と言葉を紡ぐ。
その姿にローザは一度頷くと礼を言い、視線を外に向け、口を開いた。
「領主様、此処は良い街ですわ。静かな森と賑やかな市、親切な人々……ラファール様のような聡明な方もいます。だからこそ……」
ローザは最後まで言葉を紡がず、領主を見る。
領主は「何か分かり次第御連絡申し上げます」と告げると、ローザの言葉を待つ姿勢を見せた。
「……領主様。ご子息……ラファール様が良く行く場所などはありませんか?」
突然の言葉に領主は「ラファールが?」と小さく呟き、考える素振りを見せるが静かに首を横に振る。
その姿にローザは「そうですか」と頷き、手間をかけさせた事を詫びると、何かあればまた来ることを告げ、その場を後にした。
廊下で待っていた老人に礼を言いつつ、見送りを辞退すると静かに屋敷を出る。
「ロベールの居場所も、ラファールの居場所も分からないなんて……」
ローザは領主が無能なのではないかと思いながらも、こんな辺境の街には丁度良いかと思い直し、昨日魔力を感じた森へと向かうのだった。




