☆彼女のみが知る事実と、思い出した歴史
今朝引き払った部屋を再び借りたローザは、ベッドの端へ座ると強く目を閉じた。
思い出すのは、今日一日の出来事。
思い返せばとんでもない一日だった事が分かる。
街では死んだと思っていたロベールに会い、領主邸に行けば、明らかに格下の地方貴族である筈のラファールに自分のペースを乱された。
そこでローザは再び目を開くと、溜息を吐きながら窓の外へ視線を向けた。
真っ赤に空を焦がす夕焼けに、あの日見た炎が重なる。
(あの炎の中、どうやってその命を繋げたといいますの? ロベール)
ジワリと赤が滲む。
ローザはそのままベッドに横になると、別の赤を思い出す。
それは、誰にも――王にもラファールにも告げなかった、ローザだけが知るもう一つの事実。
***
「どういうことだ! ローザ」
「急になんですの? お父様」
王族付魔法剣士がローザ一人になってから数日の事。
ロベールの死により、王宮から帰ることが出来なかったローザが自分の屋敷へと帰ってすぐにソレは起きた。
ローザが普段身につけている皮鎧とレイピアを外そうとした時、ローザの父が怒鳴りながら部屋へと入ってきたのだ。
突然の事に状況が飲み込めないローザは、目を見開いたまま動きを止める。
「とぼけるな! ウォレス家の件と伝えれば分かるか、この痴れ者が!」
その言葉に、ローザの表情が変わり、外されかけていたレイピアが元の位置へ戻る。
ローザの父はその間も勢いに任せるように言葉をつなげるが、半分もローザの耳に入ってこない。
「王に報告し、然るべき処分を求める! 偽りの情報を流し、無意味に多くの血を流させたお前には……がっ……!」
興奮し顔を赤くした父の口から、赤い液体が零れる。
その姿にローザは口元を僅かに緩めると、レイピアを抜いた。
ドクドクと溢れる血液――それは、ローザの父から溢れ、床を紅く染めていく。
「貴様……」
「さようなら。お父様」
ローザは美しい笑みを浮かべると、父の喉をレイピアで突いた。
ドサリと音を立てて倒れる父の横を通りすぎ、ローザは廊下にいたメイドや執事達をも同じようにレイピアで突いていく。
あの日、ロベール達を殺したように……。
ローザは最後に母をその手にかけると、自分の体にもレイピアで幾つもの傷を作り屋敷の外へ出た。
血に塗れたローザを通りすがりの人間が見つけ、王へ連絡を取るように仕向ける為に。
そして、ローザは手に入れたのだ。
ロベールを殺す機会を――
***
「何を思い出しているのかしら」
自嘲の笑みを浮かべたローザは、勢いに任せて起き上がる。
そのままぼんやりと日が沈むのを見つめながら、ローザは何故かカルマ家の歴史を思い出していた。
それは、カルマ家が風を操る特別な力を持っており、昔はカッツェ家の代わりに王族付魔法剣士の地位にいた事。そして、その力が徐々に失われ、最終的にはウォレス家に王都からこの辺境の地へ追いやられたという歴史。
ローザはゆっくりとベッドから立ち上がり、市場へと向かう。
今日の食事とロベール達に繋がる情報を得る為に……




