★救われた命の使い方
ユリアはクロードとの出会いを思い出し、顔を歪める。
(あの日クロードに会えたから、今の私がいる。……でも、もし、クロードがあの日私のところに来なかったら、クロードの家族は……死なないですんだかもしれない……)
自分の存在がクロードを苦しめているのなら、クロードのためにも離れなければいけない。
(今から、ここから……出て行こうかな……)
無意識のうちにユリアは拳を握り締める。離れたくないけど、クロードを苦しめるのは絶対に嫌だ、それなら自分が出て行くしかない、クロードの手を煩わせちゃいけない。
そう思ったユリアが一歩足を動かすと、ガサッと草が踏まれる音が聞こえた。音の方へと視線を向けるとそこには――
「あなたは……」
一人の男性がいた、ユリアを今朝襲った男性が。男性が纏う冷たい空気に恐怖を感じ、ユリアは後退する。
「ここにいるんだろ、あのウォレスのヤツが」
男性は今朝と全く同じことをユリアに訊ねる。ユリアは必死に首を横に振り「知らない」と何度も答えた。男性は顎に手を当て何か考え込む。
「貴様、その瞳は生まれつきか?」
「え? うん」
あまりにも突発的な質問に、ユリアは男性の意図が理解できなかったが、素直に答えた方が良いと思い答えた。ユリアの返答を聞いた男性は幾分か冷たい空気を抑えて別の質問をした。
「……なら、ここに、クロードってやつはいるか?」
「え?」
冷たい感じがなくなったことにユリアが驚いていたら、男性の口から聞き慣れた名前が発せられた。
「……クロード?」
ユリアはポツリと言葉をこぼす。ウォレスは知らない、けどクロードはよく知っている。自分を救ってくれたあの日から一緒にいてくれるクロード。彼がいったい何だというのだろうか。
(偽りの英雄……クロードはそう呟いてた。この人がその偽りの英雄? でもクロードはこの人のことを知らなかった。なら、この人は……)
ユリアの口から声がこぼれ落ちる。
「……偽りの英雄の支持者」
「何だと!? 俺が、この俺が、あの聖女様の支持者だと!! ふざけるな!!」
男性はユリアを怒鳴りつける。先ほど抑えた冷たい空気が再び戻って来る。
「え、えっと、ごめんなさい」
ユリアは何故男性がここまで怒っているのか分からなかったが、このままでは襲われると思い必死に謝る。
だが、怒りで半ば我を失っている男性の耳にはユリアの謝罪は届いていない。今朝ユリアを襲ったときと同様に、男性の周りに竜巻のようなものが起きる。
「……いや、助けて」
クロードと言おうとして言葉を飲み込む。クロードは出ていってほしいと思っているのに、助けてもらうことなんてできない。
(どうしよう、どうすれば……死にたくないよ)
クロードに救われた命、無駄にしたくなんてないのに。そう思っているユリアの方へ竜巻が襲ってくる。
「死にたくない……死にたくないの!!」
目を閉じて叫んだユリアの声は森に響き渡たる。そして、ユリアの周りから波紋のようなモノが現れ、辺りに広がる。
「これは……」
男性は目を見開いた。自分が生み出した竜巻が止まっている、彼女の前で。
「時が、止まってる」
その男性の声にユリアは目を開いて、驚く。竜巻が自分の前で何故か止まっていたのだから驚くのも無理はない。




