★ユリアとクロードの出会い
ユリアはクロードの部屋を出てから気晴らしに屋敷の外に出ていた。森の木々の隙間から夕焼けの光が差し込んでいる。クロードと出会ってから、彼女がクロードを伴わずに外に出たのはこれが初めてだ。
「……クロード」
ポツリと呟き、ユリアはクロードと出会った日を思い出す。
***
ユリアはあまり外に出させてもらえなかった。彼女は外に出てはいけない理由を聞かされなかった。でも勝手に外に出ると叱られる、酷いと叩かれたり殴られたりすることもあった。叱られたくなくて、叩かれも殴られもしたくなくて、仕方なくユリアは家の中に閉じこもっていた。そして、ほぼ毎日のように何かの実験に付き合わされた、実験の被験者として。彼女に実験を拒む術はなかった。何の実験かは知らされていなかったが、実験の中には苦痛を伴うものもあった。
ユリアは苦痛から解放されたかった。だけど、力も知識も少ない彼女が逃げる方法を思い付くことはできなかった。
ある日、ユリアに逃げ出せる好機が訪れた。庭でぼうっと空を眺めていたら、突然話しかけられた。
「……お前、その傷どうした?」
青年が心配そうな表情でユリアを見ている。ユリアの身体には所々に包帯が巻かれている。
「叩かれた、この屋敷の人たちに」
ユリアは自分の背後にある屋敷を一瞥する。
「私はきっと生きてちゃいけないんだよ」
「どうして、そんなことを」
「生きてちゃいけないから……苦しめられるんでしょ?」
ユリアはこの青年がいったいどうやってここに来たのだろうかと疑問を持った。そして、どうして自分はこの青年に自分のことを素直に話しているのだろうと。でも、外から来たこの青年なら自分をどうにかしてくれるのでは、と淡い希望を胸に抱いているのかもしれない。
「お前は、生きていていいんだよ」
「え?」
ユリアは自分の耳を疑った。涙が流れ落ちるのを感じた。嗚咽をこらえてユリアは呟く。
「私は生きていていいの」
「生きることに他人の許可など必要はない」
青年がユリアの方に手を差し伸べてくる。
「オレとともに来るか? オレはクロードだ」
「……うん。私、ユリア」
ユリアはクロードの手に自身の手を重ねた。クロードが自分をここから出そうとしてくれる理由は分からない。そして、この選択が本当に正しいのかどうかもユリアには分からない。分からないけれど、彼とともに行くことで何かが変わることは間違いないと、そしてその何かはきっと自分にとって良いことだとユリアは感じた。
ユリアとクロードは誰にも気づかれずに屋敷を抜け出した。ユリアはクロードからこの先行く場所――クロードの家、そしてクロードの家族についての話を聞いた。そのときのクロードは凄く幸せそうだった。ユリアはクロードが幸せだと自分も幸せになった気がした。
このときユリアはまだ、このあとにクロードが大事なものを失うとは思っていなかった。




