☆真偽の分からぬ二つの笑み
「……というわけで、私は王の命の下、彼らに関わった人間を探していますの」
ローザがラファールに話したのは、この事件のほんの一部。王都に流れた噂、その真意を調査し、ロベールが裏切り者だと分かった事、王に事実を話どう処罰するか話していた所で屋敷が燃えたこと、遺体が見つから無かった事、自分以外のカッツェ家の人間が何者かに殺された事……そして、もしかしたら、この街に、ロベール達が隠れているかもしれない事。
ローザはそれらを説明すると、調査の為の協力と自分の滞在の許可をラファールに再度求めた。
目の前で静かに目を閉じ、説明に聞き入っていたラファールは腕を組み、小さな唸り声を上げる。
「……お話は分かりました。けれど、聖女様。この街に、王族付魔法剣士であった方が潜むでしょうか? 聖女様もお分かりの通り、王都から離れたこの場所では、王都貴族である方々は退屈で仕方の無い……不便でしかない辺境の地。流行の物や娯楽に重きを置く方々では……」
「あの方はそんな方ではありませんわ。寧ろその逆……それに、此処は身を隠すのには良い場所です。森もあり、適度に人や物が流れる市がある。情報もまた然り……あなたも、ご存知だと思っていましたわ」
ローザはそう言うと、挑発的な目でラファールを見た。
このままラファールが挑発に乗れば、ローザは大した苦もなく、逃げたロベールを探すことが出来る。
しかし、その想いはすぐに砕けた。
「流石は聖女様ですね。王都貴族、王族付魔法剣士という座にあられるだけあって、この街をよくご覧になられている。父も喜ぶでしょう」
にっこりと笑い、そう言葉を紡ぐラファール。
その姿にローザは「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」と微笑を返す。
しかし、二人の間では再び小さな火花が散り始めていた。
(何を隠していますの?)
依然として、余裕ある態度を崩さないラファールに、ローザは焦りを覚える。
自分と彼の立場を入れ替える、何か決定的なものがあるような気がしてならない。
しかし、ソレが何か分からないローザは、再び紅茶を口に含むとラファールを見た。
「何か?」
「いえ……ラファール様はどう思われるかと思って……」
ローザはそう言うとカップを置き、少し顔を伏せた。
明らかに気落ちしているような姿。
先程とは違い女らしさが滲むその姿にラファールは「どうとは?」とだけ返した。
「領主殿は……貴方のお父上は、力を貸してくれるでしょうか?」
つっと上げられた瞳は、僅かに潤み、唇が小さく震えている。
「大丈夫ですよ。聖女様。父ならば、きっと聖女様の力になってくれるでしょう。私も微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「本当……ですか?」
「はい」
フッと口元に笑みを浮かべるラファールに、ローザも少しだけ口角を上げ、微笑を返す。
「王の為、国の為に、頑張りましょう? 聖女様」
「そうですわね。有難う御座います。ラファール様」
互いに軽く握手を交わすと、別れの言葉を交わしローザは一人街へと戻る。
明日またこの屋敷を訪れる事を約束して……
「ラファール殿が居ない場合は直接領主殿達と話す事になるのですね。寧ろ、そのほうがいい気がしますけれど……ラファール・カルマ……彼は、いまいち信用が出来ません」
誰に言うでもなく一人そう呟いたローザは、昨日泊まった宿に再び訪れ、驚く店主に「暫くお世話になります」と微笑んだのだった。




