★救えなかった彼
ユリアの手を引きながらクロードは屋敷の前までやってきた。クロードは屋敷の庭に庭師がいないことに疑問を抱いた。
「ユリア、ここで待ってろ」
「う、うん」
ユリアが頷いたのを確認したクロードは屋敷の中に入った。
彼は絶句した。
「な、なんだよ、これ……」
広間は血の匂いが充満していた。血だまりの中にたくさんの人が倒れている。どれも見覚えがある。自分の家族や使用人たちだ。その中には敬愛する兄、ロベールの姿も。
「ロベール!?」
クロードは慌ててロベールに駆け寄り抱き起こす。ロベールは胸から大量の血を流していたが、まだわずかに息があった。よく見ると傷口は塞がっていないのに血が止まっている。おそらく止血という魔法を使ったのだろう。止血は光属性の魔法で血を止めることができる。だが、血を止めるだけで傷を癒やすことはできない。
「うっ、クロードか……」
ロベールが呻き声を上げながらクロードに訊ねてきた。
「ああ。ロベール、一体……一体何が……」
「逃げろ、クロード。お前だけでも生き残れ。襲ったのはローザだ、あいつには気をつけろ」
息絶え絶えになりながらも自分を逃がそうとするロベールの姿に、クロードは戸惑った。
「ロベールを置いて逃げるなんて」
「いいから早く逃げろ!」
喋るのも辛そうなロベールが力を振り絞り叫ぶ姿に圧倒され、クロードは屋敷を逃げるように出て行った。
屋敷の外で待っていたユリアの手を掴み、ただひたすら走った。
「クロード? どうしたの?」
ユリアが問いかけてくるが答える余裕はなかった。いや、何を答えてよいのか分からなかったのだ。自分自身何が起きたのか、自分が今何をしているのか、もうよく分からなかった。
足がもつれて転びそうになり、クロードは立ち止まった。長く走った気がするが、さほど長くは走っていなかったようだ。振り返り屋敷の方を見ると――
「……燃えてる……」
屋敷が燃えていた。ただロベールに急かされるがまま無我夢中でここまで走ってきたが、もしかしたらあの屋敷にはまだ生存者がいたかもしれない。少なくともロベールはまだ生きていた、助けることができたかもしれない。
「……オレが、見殺しにした……」
すでに重傷を負っていたロベールは、あの火では今から助けに行ったとしても助からない。ロベールの死が悲しいはずなのにクロードは涙一つ流せなかった。現実を受け入れることができないのだ。
***
「はっ!」
意識が覚醒する。扉に寄りかかったまま、いつの間にかクロードは眠りについていたようだ。
「最悪な夢だ」
あれはあの悲劇の夢だ。脚色など一切ないクロードが体験したあの悲劇そのものだった。
「夢でくらい……助けられてもいいだろ……!」
クロードは苦しげに呟く。




