★嘘と連想
身体を小刻みに震わせ続けるクロードの背に、温かいものがくっついた。突然の出来事にクロードはビクッと身体を大きく震わせる。
「クロード、大丈夫だよ」
優しい声が耳元で聞こえた。
「……ユリア」
光を失っていたクロードの瞳に光が戻った。背中の温もりはユリアだった。彼女がクロードを背後から抱き締めていたのだ。
「……いつから、聞いていた?」
掠れた声でクロードは問う。
「今さっき来たばっかり。扉を開けたら、クロードが苦しそうで心配で……なんとなく抱きしめてみた。クロードが抱きしめてくれると、私、安心するから」
ユリアは嘘をついた。心配だったのも、抱きしめられると安心するのも本当のこと。でも、今来たというのは嘘。本当はもう少し前から来ていた。来ていたけど、中に入ることができなかった。
『ユリアと離れるしか……ない、のか』
この言葉を聞いてしまったから。この言葉を聞いて、ユリアは頭が真っ白になった。ユリアにとってクロードが何よりも大事、クロードから離れるなんてこと考えられない。クロードも自分から離れられないとユリアは考えていた。だけど、違った。そのまま立ち去ろうと思ったが、クロードの部屋から彼の弱々しい声が聞こえて、心配になり中に入ることを決めた。中に入るとすぐ目の前でクロードが自分の身体を自分の腕で抱きしめながら震えていた。ユリアはいつもより小さく感じられるその背にくっつき肩から前に腕をまわして、今に至る。
「そうか。もう大丈夫だ。心配かけて悪かったな。部屋に戻ってくれないか。今は……一人でいたいんだ」
ユリアが来てくれたことは嬉しかった。嬉しかったが、今はどうしても一人になりたかった。このままここにユリアにいられると、彼女に弱い自分を見せることになってしまう。
「……分かった」
ユリアは悲しげな顔をしながらクロードから離れ、自室へと向かう。俯いていたクロードはユリアが悲しげな顔をしていたことに気付けなかった。
クロードはゆっくりと立ち上がり、ユリアが開けっ放しにした扉を閉めた。そして、窓際に置かれたソファに座る。
これからどうするのかまだ決められていない今は、どんな選択でも取れるようにユリアとある程度は距離を置かなければいけないと、クロードは考える。あとは、ユリアに気付かれないようにしないと、もしかしたらユリアと離れなければいけないかもしれないということに。
ユリアのことを考えると、どうしてもロベールの姿が脳裏に浮かんでしまう。ユリアはロベールと同様クロードにとって大事な人、その共通点がロベールの姿を浮かばせる原因だろう。
ロベールはクロードだけでも生かそうと必死だった。彼のおかげでクロードは今も生きているのだ。
クロードは頭を振りかぶりロベールのことを考えないようにするが、ロベールのいる屋敷が火に包まれる光景が脳裏にこびりついて離れない。あの日以来、ロベールを見捨てて逃げた自分自身をクロードはいつも心の中で責めていた。




