☆今に繋がる過去
時は、僅かに遡る。
それは、王都に二人いる王族付魔法剣士が一人になった時の事――
「……それは、真か?」
「はい。とても心苦しいのですが……今、私が報告したことは、全て……真実ですわ」
薄暗い部屋に響く男女の声。
時刻は既に夜半を過ぎ、男女が二人きり出会うには様々な憶測が飛び交うような時間である。
しかし、その二人にはそのような憶測が飛び交う事も、甘い香り漂うような雰囲気もありはしない。
何故なら、今言葉を交わしているのはこの国の王――プパッツォ・ディ・ネーヴェと王族付魔法剣士の一人――ローザ・カッツェだからだ。
蝋燭が照らす二人の表情は暗く、口にする言葉は重い。
二人が話しているのは、もう一人の魔法剣士――ロベール・ウォレスについてだ。
「しかし……ロベールが裏切りなど……」
「私も仲間たるロベールを疑うなどしたくはありません。しかし……王都内は、この噂で持ちきりです。城内でもロベールを不安視する者は多く……火の無い所に煙は立たないもの。それに、もしその噂が本当ならば……」
「うむ……そうだな……ローザ」
「はい」
「その噂の真意、調べてこい。もし、事実ならば……」
「仰せのままに」
プパッツォの言いたい事を察したローザは一礼すると、部屋を後にする。
その口は小さく弧を描いていたが、プパッツォは気づかず、その背を見送った。
「フフッ……」
思わず零れた笑みに、ローザは口元をそっと押えた。
誰もいない廊下で笑むローザの姿は、皮鎧を纏っているというのに、とても艶やかだ。
「さて、どうしましょうか? ねぇ? ロベール」
怪しい光を宿した瞳で、ローザは城下町を見下ろすと、そう呟いた。
数日後――
ローザはロベールが家族と住む屋敷の前にいた。
手入れの行き届いた庭には、さんさんと光が降り注ぎ、鳥達が心地良さそうに羽を休めている。
「ローザ様?! ロベール様に何か御用でしょうか?」
庭の手入れをしていたのか、僅かに顔を泥で汚した庭師がローザに気付き、声を掛けた。
いつもの皮鎧に身を包み、腰にレイピアを差しているローザをみた庭師は、返事も聞かずに屋敷内へと戻り、ローザの来訪を告げている。
その姿を僅かに眉間に皺を寄せながら見ていたローザは、執事が出てくるのを見て、ゆっくりとそこへ近付いた。
「ご機嫌よう」
「ローザ様!? 少々お待ちを! いま、ロベール様を……」
「いえ、私が行きますわ。ロベールは書斎に居まして?」
「は、はい」
執事が慌てて返事をするのを見ながら、ローザはさっさと屋敷の中へと歩を進める。
しかし、階段を目の前にして、ローザはその足を止めると、クルリと執事達へ向き直った。
「そうだ。皆様にも話がありますの。広間に集まっていてくださると嬉しいですわ」
「畏まりました。皆に、集まるように伝えておきます」
「お願いしますわ」
ローザはそう言うと、今度こそ書斎へと向かっていった。
「ロベール、私です。いらっしゃいまして?」
ノックをしながらそう告げるローザ。
扉の向こうから何か呟く声が聞え、ガチャリと音を立てて鍵が開いた。
「何の用だ」
扉が開くと同時に聞えたのは、不機嫌な男の声だった。
「よかった。本当に居ましたのね。ロベール、急に来た事は謝りますわ。でも、王より命じられたことですの。広間に来ていただけません?」
ローザの言葉に、男――ロベールは眉を寄せる。
しかし、「王より命じられた」というローザを追い返すわけにも行かないと思ったのか、綺麗に輝く赤髪を軽く撫でると、静かに広間へと向かった。
「それで? ローザ、王からの命とは……ぐっ?!」
広間に全員が集まっていることに首をかしげながら、後ろにいるローザへ声を掛けたロベール。
しかし、その言葉が全て口にされる事は無く、途中から苦しげな呻き声と呼吸に変わった。
それもそのはずである。ロベールの胸には、ローザのレイピアが刺さっていたのだから。
「ロ……ザ……きさ……」
「ごめんなさいね。ロベール」
全く悪く思っていない声音と変わらない微笑を浮かべたままそう口にしたローザは、迷う事無くロベールからレイピアを抜くと、驚きのあまりその様子をジッと見ているだけの使用人達にその刃を向けたのだった。




