☆彼、彼女の片鱗
パタン……
扉の閉まる音が部屋に響く。
「どうぞ。聖女様」
「有難う御座います。ラファール様」
ラファールの言葉に礼を良い、部屋の真ん中にある革張りの美しい応接セットに優雅に座るローザ。
それを見届けたラファールもローザの正面にゆったりと座る。
間に挟まれた黒く輝くテーブルに映る二人の表情は、微笑んでいるというのにどこか冷たい。
二人の瞳に宿る光はどこか鋭く、固く結ばれた口からは何時までも言葉は出てこなかった。
耳が痛くなるほどの静寂に部屋が包まれかけたその時――
トントントン……
扉を叩く音が部屋に響き、扉の向こうからメイドが入室していいか尋ねてきた。
ラファールの方をチラリとローザが見ると、それを了承と取ったラファールが「入れ」と扉に向かって声を掛ける。
「失礼致します」
恐る恐るといった様子で頭を下げ、メイドは茶器や茶菓子の乗ったワゴンを引いて部屋へと入ってくる。
ゆっくりと紅茶を淹れ、磨き上げられたテーブルに茶器と茶菓子を置くメイドにローザはにっこりと微笑むと「有難う御座います」と礼を言った。
メイドは頬を赤く染め、小さく何かを呟くと深々と頭を下げ、部屋を出て行く。
それを笑顔で見送ったローザは、扉がしっかりと閉まったのを確認するとラファールを見た。
「流石は聖女様。下の者にもお優しいのですね」
「別に……私は……もしかして、ラファール様は嫉妬なされていらっしゃいますの?」
目を細めながらしっかりとラファールを見るローザ。
そんなローザに、ラファールは困ったような表情を浮かべるが、その唇と瞳に隠し切れない苛立ちが宿っていた。
茶色の瞳に宿る光は僅かにローザに向かって殺気を放ち、唇は細かく震えている。
普通の人間では気付かない僅かな変化だが、王族付き魔法剣士として常に人と接しているローザが気付かない訳がない。
「(あのメイドへの嫉妬ではありませんわね。コレは、怒り。私が嫌いか、それとも貴族が嫌いか……まぁ、どちらでも構いませんけれど……田舎貴族の者が考えることなんて、王都貴族の私には分かるわけがありませんもの。私は、私の目的を果たすだけですわ)失礼しました。ラファール様。少々言葉が過ぎたようですわね」
わざとらしくならないように眉を下げ、言葉を紡ぐローザ。
決して顔を伏せないが、大きな瞳を僅かに揺らして眉を寄せるその姿に騙されないものはいなかった。
ラファールも簡単に騙せるだろう……ローザがそう思ったその時――
「いえ。お気になさらないで下さい。王族付き魔法剣士という立場に若くしてつかれたのです。そのような話をする相手もいらっしゃらないでしょうから仕方がありません」
バチリ……!
ローザとラファールの間に火花が散る。
外から入る柔らかな日差しが嘘のように、部屋の空気が冷たくなっていく。
「それで、聖女様。王都で起きた件とは?」
「あら? この地には王都からの連絡は届きませんの? たとえどのような辺境の地でも、必ず王都での事件は通達しているはずですわ」
「通達するほどの話しでは無いと、連絡兵が判断したのかもしれませんね。何せ、此処は辺境の地ですから」
にっこりと微笑むローザに負けじと、ラファールも穏やかな表情で答える。
火花が幾つも飛び散り、窓の開いていない部屋に冷たい風が吹く。
しかし、二人はそんな事を気にも留めず、ただ静かに舌戦を続けていくのだった。




