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脳筋詐欺にご注意ください  作者: tky@複数作品連載中


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第5話:抜き打ち部屋点検と重量超過

週末の夜、秀英学園の学生寮に緊張が走った。


寮長の東雲宗谷による抜き打ちの部屋点検である。


規律を重んじる東雲は、違反者を見つけ出してペナルティを与えることに執念を燃やしていた。


力也の部屋のドアが乱暴にノックされ、東雲が足を踏み入れた。


「中山、抜き打ち点検だ」


東雲はバインダーを片手に、鋭い視線で部屋の奥へと目を向けた。


その瞬間、東雲の動きがピタリと止まった。


一般的な高校生の部屋にあるべき本棚や学習机は部屋の隅に追いやられている。


代わりに部屋の中央を陣取っていたのは、鉄パイプを溶接して作られた巨大なパワーラックと、無造作に積まれた大量のコンクリート製プレートだった。


「な、なんだこれは……ここは工事現場か」


「ようこそ先輩、俺の筋肉の聖域へ」


力也はパンプアップした上腕二頭筋を誇示しながら爽やかに笑った。


「ふざけるな、この異常な量の鉄とコンクリートはなんだ」


東雲は銀縁メガネを押し上げ、バインダーでパワーラックを指差した。


「寮則では持ち込み品の重量制限が明確に定められている、これだけの重量物を置けば床が抜ける危険があるだろう」


東雲は勝利を確信したように冷たい笑みを浮かべた。


「即刻退寮レベルの重大な違反行為だ、直ちにこのガラクタを撤去しろ」


(くくく、真面目なメガネ先輩がまた寮則を盾に突っかかってきたな)


力也は内心で邪悪な笑みを噛み殺しながら、部屋の隅に置いてあった小さなホワイトボードを引き寄せた。


「先輩、大胸筋がその指摘を不当だと怒っています」


「はあ?床が抜けるという物理的な事実から目を背けるな」


「床は抜けませんよ、この寮の筋肉が俺の筋肉を受け入れているからです」


力也はホワイトボードに素早く建物の梁と柱の断面図を描き始めた。


「建築基準法施行令第八十五条における住宅の居室の積載荷重は一平方メートルあたり千八百ニュートンと定められています」


「な、なぜお前が建築基準法を知っている」


「筋肉の直感です」


力也は迷いなくチョークを走らせ、構造力学の複雑な計算式を書き殴っていく。


「この自作パワーラックの総重量は約三百キロですが、四本の支柱の設置面には厚さ二十ミリの合板を敷き、荷重を分散させています」


東雲はホワイトボードに書かれた完璧な応力計算に目を剥いた。


「さらにこの部屋の床下にある大引きと根太の配置を歩行時の振動から逆算し、最も曲げモーメントに対する耐性が高い、つまり建物の体幹が強い位置にラックを配置しています」


力也はチョークを置き、自慢の広背筋を広げるポーズをとった。


「よって許容応力度計算において、この床が崩壊する確率はゼロです」


「な、なんだその完璧な構造力学の数式は……」


「俺の筋肉が、建物の筋肉である梁や柱と対話して最適なポジションを見つけ出しただけですよ」


東雲は自身の得意分野である理系の計算で完全に論破され、しかもそれを筋肉のせいにされるという屈辱と混乱で震え上がった。


「理屈は合っているのに……なぜ筋肉が建物の構造を理解しているんだ……」


東雲は理解不能な恐怖に顔を引き攣らせ、逃げるように部屋から立ち去った。


(あっはっは、いい気味だ。ルールで縛ろうとするから、法律と物理学の暴力で脳を破壊されるんだよ)


力也はホワイトボードを片付けながら、満足感に浸っていた。


「さっきの計算、完璧だったね」


不意に背後から涼やかな声がして、力也は肩をビクッとさせた。


振り返ると、開けっ放しになっていたドアから神崎凛が忍び込んでいた。


「神崎か、勝手に男子の部屋に入ると寮則違反だぞ」


「力也くんがドアを開けっ放しにしているから、つい気になっちゃった」


凛はふわりと微笑みながら、力也のベッドに腰を下ろした。


シーツの上にちょこんと座る美少女の姿に、力也は僅かに動揺を覚えた。


(こいつ、男子のベッドに無防備に座るとか、距離感がおかしいだろ)


力也は平常心を装い、プロテインのシェイカーを手に取った。


「俺の筋肉の聖域に何の用だ」


「東雲先輩を追い詰めてる時の力也くん、また悪い顔をしてたよ」


凛はベッドの上で足を組み、楽しそうに力也を見上げた。


「あんな完璧な構造力学と建築基準法、普通の高校生は知らないよ」


「俺の大胸筋が建物の悲鳴を聞き分けただけだ」


「ふふっ、本当に嘘が下手だね」


凛は少しだけ身を乗り出し、甘い声で囁いた。


「ねえ、私の部屋にも本がいっぱいあって重いんだけど、床が抜けないか心配なの」


凛は上目遣いで力也の瞳を見つめた。


「力也くんのその凄い頭脳で……じゃなくて、筋肉で、私の部屋の構造計算も教えてくれないかな」


力也はプロテインを飲む手を止め、口角が自然と吊り上がるのを隠した。


(ただのイタズラのつもりだったが、こいつの挑発に乗るのも悪くない)


「俺の筋肉の指導は厳しいぞ、覚悟しておくんだな」


「お手柔らかにお願いね、先生」


凛は小悪魔のようなウインクを残し、素早く部屋を後にした。


力也の部屋には、彼女の微かな香水と、知的で危険な遊戯の余韻だけが残されていた。

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