↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋詐欺にご注意ください  作者: tky@複数作品連載中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/32

第4話:筋肉式学習法とヒロインの秘密の称賛

放課後の教室で鈴木栞が黒板の前に立っていた。


クラスの学力底上げを目的とした自主的な勉強会である。


スポーツ推薦で入学した力也も当然のように参加者としてカウントされていた。


「いいですか皆さん、もうすぐ最初の中間考査がやってきます」


鈴木は銀縁メガネを押し上げながら教鞭で黒板を叩いた。


黒板には難解な空間ベクトルの図形問題が描かれている。


小鳥遊をはじめとする生徒たちは完全に頭を抱えていた。


(くくく、高校一年生には少しハードルが高い応用問題だな)


力也は退屈そうに頬杖をつきながら内心でほくそ笑んでいた。


(真面目な委員長殿がどうやってこの馬鹿どもに理解させるのか見物だ)


「誰かこの問題の解き方が分かる人はいますか」


鈴木の問いかけに教室は静まり返った。


力也はわざとらしく大きなため息をついて立ち上がった。


「仕方ないな、俺の大胸筋が答えを叫んでいるから代弁してやろう」


「中山くん、ふざけないで真面目にやってください」


力也は鈴木の警告を無視して黒板の前に立った。


チョークを手に取ると図形の中に迷いなく直線を引いていく。


(空間ベクトルの内積と法線ベクトルの計算など三秒で終わる)


力也の脳内では瞬時に完璧な数式が組み上がっていた。


しかし口から出る言葉は全く別の次元のものだった。


「この図形をインクラインダンベルプレスを行う際のベンチに見立てる」


「は?」


鈴木が素っ頓狂な声を上げた。


「大胸筋上部にピンポイントで刺激を入れるためにはベンチの角度が重要になる」


力也は図形に記されたベクトルを指差した。


「このベクトルAを重力の負荷としベクトルBを腕の押し出し軌道とする」


「ちょっと待って、何の話をしているの」


「最適な負荷をかけるための軌道を割り出すとこの交点における角度は必然的にこうなるはずだ」


力也はスラスラと複雑な計算式を書き殴り最後に完璧な正解の数値を叩き出した。


「よって答えはこうだ、筋肉の理想的な軌道を追求すれば自ずと真理に辿り着く」


力也はチョークを置き得意げに上腕二頭筋を見せつけた。


教室中がポカンと口を開けて静まり返っている。


鈴木は手元の解答用紙と力也が黒板に書いた答えを見比べた。


「う、嘘でしょ、正解してる……」


「当然だ、筋肉は嘘をつかないからな」


「でも計算の過程がおかしいわ、ダンベルの軌道なんて数学には関係ないのにどうして答えが合うのよ」


鈴木はあまりの非論理的な正解を前にアイデンティティの危機に陥っていた。


「言っている理屈はめちゃくちゃなのに数式として成立しているなんて私の脳が処理しきれないわ」


鈴木はフラフラと教壇に手をついて頭を抱え込んだ。


(あっはっは、いいぞその顔。論理と狂気の挟み撃ちで委員長の真面目な脳髄がショートしていく瞬間は最高だ)


力也は爽やかな脳筋スマイルの裏で邪悪な笑いを噛み殺していた。


勉強会が終わり力也は図書室へと足を運んだ。


筋肉バカのフリをし続けるのもそれなりに気を使うため一人で静かにクールダウンする時間が必要だったのだ。


窓際の席に座り難解な洋書を開いた直後だった。


「お隣、いいかな」


聞き覚えのある涼やかな声がして神崎凛が向かいの席に座った。


「神崎か、君も勉強の続きか」


力也は咄嗟に洋書を伏せいつも通りの熱苦しい声で返した。


「ううん、たまたま通りかかっただけ」


凛はふわりと微笑みながら机の上に頬杖をついた。


「さっきの勉強会、すごく面白かったよ」


「俺の筋肉理論がクラスメイトの知的好奇心を刺激したようだな」


「ふふっ、相変わらず意地悪だね」


凛は声を潜め力也の方へと少しだけ身を乗り出した。


「ダンベルの軌道に例えてたけど、力也くんがチョークを動かすスピード、一瞬の迷いもなかったよね」


力也の眉がピクリと動いた。


「あれだけ複雑な計算、普通は少し立ち止まって考えるはずなのに、まるで最初から答えと数式が頭の中にあるみたいにスラスラ書いてた」


(むっ、こいつ。また俺の行動の矛盾点を突いてきやがったか)


力也は動揺を隠し腕を組んで見せた。


「筋肉の反射速度は思考を上回る、それだけのことだ」


「そういうことにしておいてあげる」


凛はイタズラっぽく目を細めた。


「でも、委員長さんが頭を抱えているのを見てる時の力也くん、すごく楽しそうだったよ」


図星を突かれ力也は僅かに言葉を詰まらせた。


「あんな風に完璧な数式を筋肉のせいにしちゃうなんて、力也くんって本当に意地悪だよね」


凛は力也の顔を覗き込むようにウインクをした。


「次はどんな手で周りを驚かせるのか楽しみにしてるね」


凛はそれだけ言い残すと静かに席を立ち図書室を出て行った。


力也は彼女の残したかすかな甘い香りを嗅ぎながら小さく息を吐いた。


(ただの筋肉バカを演じているだけなのに、こいつの前では常に油断ができないな)


力也は口元に手を当て自然と吊り上がる口角を隠した。


(だが、俺の完璧な偽装のわずかなほころびを見つけて楽しむとはいい度胸だ)


一人になった図書室で力也の邪悪で知的な高校生活へのモチベーションはさらに高まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。