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脳筋詐欺にご注意ください  作者: tky@複数作品連載中


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第14話:夏祭りの射的と弾道計算の奇跡

夏の夜風が吹き抜ける地元の神社で盛大な夏祭りが開催されていた。


寮の門限が特別に延長され力也たち寮生も浴衣姿で境内の屋台を巡っていた。


「くそぉ、また外れた、絶対にあのフィギュアの重心おかしいよ」


射的の屋台の前で星野が頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


すでに数千円を溶かしているらしく屋台の店主はニヤニヤと笑っている。


「坊主、射的ってのは気合と根性だ、お前の腕が悪いだけさ」


店主の安い挑発に星野が涙目になっているところへ力也が歩み出た。


「星野、君の敗因は筋肉へのアプローチが間違っていることだ」


力也は店主の前に百円玉を数枚置きコルク銃を手に取った。


「おや、今度は筋肉自慢のお兄さんかい、せいぜい頑張りな」


(くくく、ボッタクリの射的屋か、だが俺の計算能力の前ではただの的当てゲームに過ぎない)


力也は手渡されたコルク弾を指先で軽く転がし質量と偏心率を瞬時に測った。


さらに銃を構えて銃身のわずかな歪みを確認し周囲の提灯の揺れから風速と風向を割り出す。


(コルクの不規則な空気抵抗、銃身のブレによる初速の低下、そして横風による軌道のズレ、これら全ての変数を偏微分方程式に代入し最適な射角を導き出す)


力也は一切の迷いなく引き金を引き続けた。


パンッ、パンッという乾いた音と共に星野が狙っていた高額なフィギュアや大型のゲーム機が次々と台の上から転げ落ちた。


「な、なんだと、あの景品は底に重りを入れて倒れにくくしてあるのに」


店主は目をひん剥いて驚愕し景品を回収する手すら止まっていた。


「重心がどこにあろうと運動エネルギーを最適化して物理的に押し出せば落ちる、ただそれだけのことだ」


力也は全ての弾を撃ち尽くし戦利品を星野に押し付けた。


「り、力也くんすごすぎるよ、どうやってあんなに百発百中で当てたの」


星野が目を輝かせて尋ねてきた。


「簡単なことだ、俺の上腕三頭筋の強靭なバネが銃身のブレを完璧に相殺したのだ」


力也は浴衣の袖をまくり上げて逞しい腕を誇示した。


「弾道のズレなど筋肉の安定感でいくらでもねじ伏せられる、要は筋肉の気合いだ」


「き、筋肉で弾道が変わるの、よく分からないけど力也くんの筋肉は神様みたいだね」


星野は感動のあまり完全に思考を放棄して力也の言葉を受け入れていた。


「ひぃぃ、今日のところは勘弁してくれ、これ以上当てられたら赤字で店が潰れちまう」


涙目の店主を尻目に力也はご機嫌な足取りで人混みへと戻っていった。


(あっはっは、ボッタクリ店主の絶望顔と星野の盲信っぷり、今日も最高のエンターテインメントだったな)


やがて祭りの終了時刻が近づき寮生たちが帰路につく中力也は人混みで皆とはぐれてしまっていた。


静かになった神社の裏参道を歩いていると横にふわりと人影が並んだ。


「奇遇だね力也くん、私もみんなとはぐれちゃったみたい」


紺地の浴衣に身を包んだ神崎凛が楽しそうに微笑んでいた。


「神崎か、はぐれたのなら俺の広背筋が寮まで護衛してやろう」


「ふふっ、ありがとう、それにしてもさっきの射的すごかったね」


凛は歩幅を合わせて歩きながら少しだけ首を傾げた。


「上腕三頭筋のバネで当てたって言ってたけど、力也くん撃つ前に銃身の歪みを見たりコルクの形を指で確かめたりしてたよね」


力也の歩みが一瞬だけ不自然に遅れた。


(むっ、こいつ、俺の準備動作から弾道計算の根拠を看破しやがったか)


「俺の指先の筋肉がコルクのコンディションを確かめたがっていただけだ」


「それに、狙う時にわざと的から少しズラして撃ってたのも見えてたよ」


凛は悪戯っぽく笑い力也の顔を下から覗き込んだ。


「銃のクセと風の向きを計算して完璧な弾道を導き出したんでしょ、力也くんって本当に意地悪で頭がいいよね」


「……俺の筋肉が風を読んだだけだ」


力也はそっぽを向いて反論したが凛は突然力也の大きな右手に自分の左手を絡めてきた。


「えっ」


「はぐれないように、筋肉でしっかり繋いでおいてね」


凛はほんの少しだけ頬を染める力也の反応を楽しみながらギュッと手を握り返した。


力也は彼女の手の柔らかさと微かな甘い香水に動揺しつつも邪悪な笑みを噛み殺した。


(俺の視線と指先の動きから弾道計算を読み取りその上で手を繋いできやがるとは、本当に恐ろしい女だ)


力也は知的なスリルと少しの胸の高鳴りを感じながら夏の夜道を歩き続けた。

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