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脳筋詐欺にご注意ください  作者: tky@複数作品連載中


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第12話:帝王実業からの刺客と熱力学のサウナ

週末の夜、秀英学園の学生寮を突発的なトラブルが襲った。


ボイラー設備の故障により寮の風呂が使用不可になったのだ。


筋肉のケアには入浴による血流促進が不可欠であるため力也は近所の銭湯へと足を運んでいた。


(くっ、想定外の事態だがたまには広い湯船で広背筋を休ませるのも悪くない)


力也が体を清めてからサウナ室の扉を開けると内部の空気がピリついていた。


ひな壇の最上段を陣取っていたのは隣町の不良校である帝王実業の制服を着た男だった。


金髪に鋭い眼光を持ち圧倒的な体格とカリスマ性を放つその男は帝王実業のトップである獅子王牙である。


獅子王は力也の規格外の筋肉を見るなり好戦的な笑みを浮かべた。


「秀英の筋肉ダルマってのはお前か、噂には聞いていたがなかなかいいガタイしてやがるな」


「俺の筋肉に何か用かな」


力也は表情を変えずに獅子王の隣に腰を下ろした。


「俺がぶっ潰してやるよ、まずはこのサウナで我慢比べだ」


獅子王は額に汗を浮かべながら力也を威嚇した。


(くくく、ただのサウナを我慢比べの場にするとは不良の発想は単純で愛らしいな)


力也の脳内で瞬時に熱力学と人体の生理学の計算が始まった。


(サウナ室の温度は九十度で湿度は十パーセント、この環境下では汗の蒸発による気化熱が体温調節の鍵となる)


力也は自律神経を意識的にコントロールし皮膚の毛細血管を拡張させた。


(さらに呼吸のペースを落とし気道からの水分蒸散を最適化する、これで深部体温の上昇は完全に防げる)


十分が経過した。


獅子王は滝のような汗を流し息を荒らげていたが力也は涼しい顔で座り続けていた。


「ぜぇ、ぜぇ……お前、なんでそんなに平気なんだ……」


「当然だ、俺の細胞一つ一つが大胸筋の指令によって完璧なラジエーターとして機能しているからな」


「ラ、ラジエーターだと……」


「筋肉との対話に暑さは関係ない、むしろこの熱気が筋繊維を喜ばせているのだ」


限界を迎えた獅子王はフラフラと立ち上がりサウナ室から逃げ出した。


(あっはっは、気化熱と自律神経のコントロールを大胸筋の気合いで片付けられる気分はどうだ)


力也は満足げに水風呂へ向かい完璧なクールダウンを済ませて銭湯を出た。


すると路地裏の入り口で待ち伏せしていた獅子王が立ちはだかった。


「サウナじゃ負けたが喧嘩なら俺の圧勝だ、死にさらせ!」


激高した獅子王が力也の顔面に向かって強烈な右ストレートを放った。


(来るのは分かっている、さあ力積と運動量保存の法則の出番だ)


力也は避けようともせず獅子王の拳を己の大胸筋で受け止めた。


しかし単に殴られたわけではない。


拳が触れる直前に筋肉をわずかに後退させ衝突の時間を極限まで引き伸ばしたのだ。


(力積は力と時間の積だ、衝突時間を長くすれば受ける衝撃力はゼロに等しくなる)


ドムッという鈍い音が響いたが力也は微動だにしない。


逆に獅子王は自分の拳が分厚いゴムの壁に吸い込まれたような錯覚に陥りバランスを崩した。


「な、なんだ今の感触は……殴ったはずなのに威力が完全に消えやがった……」


「お前の拳には筋肉へのリスペクトが足りないな」


力也は爽やかな脳筋スマイルを浮かべて一歩前へ出た。


「俺の大胸筋が弾力という名の慈愛でお前の暴力性を包み込んでやったのだ、筋肉の優しさに感謝するんだな」


未知の物理現象を大胸筋の慈愛という狂気のポエムで説明され獅子王は完全に顔を引き攣らせた。


「ひぃっ、こいつ人間じゃねえ、ただのバケモンだ!」


獅子王は自慢のプライドを粉砕され夜の街へと逃げ去っていった。


(完璧な物理演算による防御力を筋肉のトランポリンだと思わせるプレイング、今日も最高だったな)


力也が上機嫌で歩き出すと路地の角から神崎凛がひょっこりと顔を出した。


彼女の髪も風呂上がりで少し濡れており甘いシャンプーの香りが漂ってきた。


「奇遇だね力也くん、女子寮もボイラーが壊れてるから私も今帰りなんだ」


「神崎か、夜道は危ないから俺の広背筋が護衛してやろう」


「ふふっ、ありがとう。さっきの不良さんの相手は、余裕だったみたいだね」


凛は楽しそうに微笑みながら力也の隣に並んだ。


「殴られた瞬間、体を後ろに引いて衝撃を逃がしてたよね、まるで力積の計算みたいだったよ」


力也の歩みが一瞬だけピタリと止まった。


(むっ、こいつ、あの暗がりの中で俺の微細な体重移動を見抜いたのか)


「何のことかな、俺の大胸筋が反射的に敵の拳をハグしただけだ」


「そういうことにしておいてあげる」


凛は少しだけ背伸びをして力也の耳元に顔を近づけた。


「あんなに怒り狂った相手を前にしても息一つ乱れてないし、力也くんの防御力は筋肉じゃなくて完璧な頭脳の計算なんでしょ」


凛は小悪魔的なウインクを残し足早に前を歩き出した。


力也は彼女のシャンプーの香りにほんの少しだけ動揺しながらも邪悪な笑みを噛み殺した。


(俺の微細な体重移動と呼吸の落ち着きから完璧な物理演算を逆算してくるとはな、相変わらず恐ろしい女だ)


力也は知的なスリルを存分に味わいながら寮への帰路についた。

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