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008

「逃げずによく来たじゃねぇか。生徒全員の目の前でぶっ殺してやるよ貧民!」


 嬉しそうにするジェイス。


 すると、僕とジェイスの横に台車に乗せられて届いた神鋼が設置される。


 これに触れると、像の形をする鋼が、装着する者のイメージを瞬時に理解し、相応しい姿へと変形する。と、初回の講義後にエー先輩が教えてくれた。


 4日目に行われた実習では、下流階級の僕には機会という名のお鉢は回って来なかったが、実はカイドウ親方のところで1回だけ試したことがある。エー先輩によって、僕のイメージと実物を反映させた特別な形状となった。


「来い! タイガーアビス!」


 吠えるジェイス。神鋼に触れると、眩い光を放つ神鋼がジェイスの全身を包み込み、黄色の鎧へと変形した。顔を包む面には虎の意匠が伺える。


『ふーん。虎ねぇ。ありゃ強そうだ。でも強いったって、1年のガキどものなかで、だけどな。今は断然、お前の方が上だよ。心配せずにぶっ放しな』


 また無責任にエー先輩が述べる。


「ひとつ言っておくぜ貧民! この戦いに俺が勝ったら、テメェを即座に処刑する! けどまぁ、それじゃフェアじゃねえな。万にひとつも勝機はねぇだろうが聞いておくぜ? テメェはなにを望む?」


「え、な、なにを?」


「あ? テメェ………この前の勢いはどうしたぁっ! あんな愉快な虫ケラは初めてでクソ面白かったのによぉ。倒し甲斐のある馬鹿が現れてくれて、暇潰しのおもちゃを得られたと思ったのに………気合いはどうした気合いはぁ!」


『おー。ジェイスって金持ちのボンボンなだけかと思ったけど、案外熱血キャラなんだなぁ。こりゃ嫌いになれそうにないかもな。倒すけど』


 確かにエー先輩の言うとおり、話だけ聞けばジェイスの印象が変わる。自分の実家の権力を振りかざすだけではないのかもしれない。


 エー先輩は嫌いになれそうにないと言ったけど、僕は苦手だ。自分の主張をガンガンと押し付けてくるタイプというのは、僕の意見を聞いてくれそうにないから。でも僕の望みを聞いてくれるスタンスではあるようだし、認識を変えてもいいのかも?


「ぼ、僕は………」


「僕ぅ? お前、先週は一人称が俺だったじゃねぇか。いったいどうなってやがる。ナヨナヨしやがって。やる気あんのかテメェ!」


 こ、怖い………やっぱり無理だ。認識を変える必要なんてなかった。僕は苦手。ただそれだけ。


「望み………お、思い浮かばないです」


『一生パシリとかでもいいじゃないか』


 僕にそんな、ひとを顎で使う趣味も、器でもないのに。


 でも不思議と、エー先輩ならジェイスを自然と使い走りにできそうな気がした。いやこれは僕の勝手な印象なんだけど。


「ハァ………まぁいいぜ。テメェに勝機はねぇ。俺に八つ裂きにされる運命なんだからなぁ! おら。テメェも神鋼を使えよ。授業では1回も使わせてもらえなかったからぶっつけ本番か。でも心配はいらねぇよ。不完全な鎧でも、ちゃんと鎧ごとテメェをぶっ壊してやるからなぁ!!」


「うぅぅ………」


 緊張する。ジェイスの言うとおり、あれから授業ではまともに神鋼に触れさせてもらえなかった。まるで教師たちが個人的な恨みでもあるかのように、僕を遠ざけた。露骨に「触るなぁ!」と怒鳴られたことさえある。


 けれど………それは授業での話だ。


「き………来て! タ(・)キ(・)オ(・)ン(・)!」


 力一杯叫ぶ。声の出し方ならカイドウ親方のところで学んだ。


 イメージが象る形状は、自身の気合いにも連動する。と授業ではまだ教わっていないことをカイドウ親方や職人たちは教えてくれた。現場でも意見だ。


 淡いパールホワイトの色をした、巨大な宝石のような鋼が、僕を包み込む。


「な、にっ!? ………テメェ、神鋼を使いこなせて………しかも、なんだその形状は! そんなの見たことねぇぞ!?」


 ジェイスが喚く。御前試合のために集まった同級生や上級生、教員たちも騒然となった。


 思い当たる節がない、わけではない。騒然となる理由はふたつ。


『な? お前にとっても良いことあったじゃねぇか。あの工房は学園の裏にある。神樹グラディオスから切り出した鋼をすぐ加工するため隣接してる。職人たちが秒で手掛けられる立地だ。つまりそれは、加工されて神鋼になり、学園に納品する寸前の神鋼に触れる絶好の機会でもあった。おやっさんたち、お前が授業でも虐げられてるって知って、この日のために練習させてくれたな。その甲斐があったじゃねぇか』


 エー先輩が何回も頷いて言う。


 そのとおり。カイドウ親方との出会いは、僕にとって利益となった。それは否定しない。


 貧身出身のカイドウ親方たちに出会わなければ、僕は今頃まともに神鋼を纏えなかっただろう。


 そしてもうひとつ。


『ん。細部はちょいと違うし、歪みもあるけど………ハンドメイドならではの味だな。これくらいならあのガキ大将と殴り合っても問題ねぇだろ。これがお前にくれてやる、かつて俺の愛機だったタ(・)キ(・)オ(・)ン(・)を、すっげぇ縮小したり、色々端折ったりした形だ。さぁ行きなエール。俺が教えたタイマンのやり方なら、勝てるぞお前』


 廃材を組み立てて人形を作らされた理由が、これ。


 タキオンという巨大な、人形? みたいなものを手のひらサイズにすることで、僕のイメージに刷り込んだという。確かに毎日あれを見ていれば、もう実物を見なくても細部まで再現できる。なぜなら最初から最後まで僕が作ったのだから。忘れるはずがない。


 ついに出揃った鎧。僕たちは対面し、構えをとる。僕はエー先輩から教わった構えに移行した。ここ数日の授業で、鋼鉄騎士候補となるべく修練を開始した生徒が、鎧を纏った際に最初に教わる型のようなものがあるが、それを一切排した独創的な構え。といっても半身になり、左足をじゃっかん前に、斜めに構えつつ両腕はわずかに広げる。そんなところだ。


 それを見たジェイスは、やはり戸惑いを隠せなかった。エー先輩が言うには、見たこともない型であれば、出方が予想しにくくて混乱する。あるいは───


「へっ。貧民なりに考えたみたいだが、屁っ放り腰が隠せてないみてぇだなぁ!」


 ジェイスは吠えた。


『ん、やっぱな。あいつ、お前を舐めてるぞ。勝率が90パーセントになった』


 エー先輩は笑いながら告げる。


 これから始まる試合で、僕はとある戦法に全振りしなければならない。ルールに違反してはいないが、高度な技術を要すると授業で習った。実際に習得したのは昨日だけど、本当に勝てるのかと不安になる。


 空気が張り詰める。強者と弱者という、もはや見るまでもない茶番であると、参加した者たちは思っているだろう。このなかで弱者である僕の勝利を信じて疑わないのはエー先輩くらいだ。


 審判役となった最上級生の担任をしている教員が僕たちの間に入ると、ジェイスは大矛を構える。


「………エール・ノア。一応聞いておく。その鎧に武器はあるのか?」


 教員の、もはや同情じみた視線とともに投げかけられる質問。


「いいえ。僕の今の鎧の武器は、拳ひとつです」


「………そうか。悔いがないように」


 死を悼むかのような言葉。僕が自棄になっていると思っている。仕方ないじゃないか。エー先輩はなにも用意してくれなかったのだから。


「では、これより試合を開始する。両人、アスクノーツの新入生の代表として力を示し、異形を振り払う矛と盾を与えたもうた神へ、感謝の念と、武人としての一歩を示せ! 試合、開始!」


「しゃああああ! 死ねぇえええええ!!」


 解き放たれた猛獣が、鎖を引きちぎったかのように猛然と迫る。


 動物をモチーフにしているだけあって、重厚な鎧をしていても俊敏性があった。


『よしエール。やれ』


「う………は、はい。気が進まないけど………お、おい! この臆病者め! 丸腰の貧民相手に、なに調子乗ってんだ! お前、家柄だけがご立派なだけなのに、それを鼻にかけて恥ずかしくないのか? ああ、そう。わかった。丸腰の貧民相手でも武器がないと勝てないんだ?」


「………あ?」


「お、男なら、武器を捨ててタイマンしよう、ぜ! それともあな………お前、やっぱりその大きな矛がないと、怖いのかなぁああああああ!!」


「な………なんだとテメェェエエエエエエエエエエ!! 上等だよこのゴミクズ! 武器なんていらねぇ! それが望みなら、殴り殺してやるぜええええええええ!!」


『一丁上がりぃ。ま、煽り方は及第点かな。次はもうちょっと極悪な笑顔を浮かべてみな? きっとサマになるぜ?』


 指示どおりの文言を述べると、ジェイスは大矛を捨てた。


 これで条件は揃ったけ。すべてエー先輩の思惑どおりに進む。


 観客席で僕が肉塊になる光景しか予想できなかったのだろう。悲鳴や怒号が連鎖する。


 なら………そろそろ僕も覚悟を決める時なら。やってやる。


 ジェイスを返り討ちにする。個人的には恨みなんてないのだけど、僕が強くなるための最初の難関であるなら………いや最初の難関にしては、ちょっと高くないかな?


「死ねぇええええええ!!」


「し………死にたく、ない!」


 ジェイスが拳を振り抜いた。


 僕は引いたまま構えていた右腕を、それに合わせて振り抜く。


 狙いはただひとつ。ジェイスの胴体………ではない。


 その虎の爪の意匠がある、拳へ。


『まぁ、小手先の技術や、知恵とか、幼少の頃から培ってきた経験の差はデカいよ。そこはまず、お前じゃ勝てない。でもな、確実にあるんだな。お前がジェイスに勝てること。お前が目が良い。相手のパンチに合わせて、自分のパンチを当てられること。あともうひとつは………この俺がセコンドについてること。ほら、見てみ? ガキ大将の鎧。砕けてらぁ』


 あっはっは。とエー先輩は笑う。


 僕が後出し同然にジェイスのパンチに拳を突き合わせると、確かにジェイスの腕部の鎧が砕ける。


 でもそれは、僕が纏っているタキオンの腕部も同じだった。


 けど、それだけでは勝敗は決まらない。


「それがどうしたってんだよぉ!」


 ジェイスが叫ぶと、タイガーアビス全体が閃光を発し、砕けた右腕が元通りになる。


 そう。これは誰でも知っている。集中できなかった僕でも実際に授業で見た。


 損傷した鎧は、修復できるのだと。



リアクションありがとうございます!

エー先輩がかなり極悪になってきて、書いていて楽しいです。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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