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001

『ふーん? ここは王都サフラビオロス。で、巨大湖ペンタリブルに浮かぶ巨大学園街。学園の名称はアスクノーツねぇ。いや、マジで出来過ぎだろ』


「なにがですか?」


『あー、いや。俺が知ってる世界と名称がそっくりでさ。学園なんてまんまそうだし。しかもお前をスカウトした司祭の名前がドルテで、学園長がクランド………ハァ。マジかぁ』


 僕が召喚してしまったエースというひとは、さっきからずっとこんな感じだ。


 僕の話を聞いて、明るくなっては落胆して、また明るくなっては落胆してを繰り返す。もう10回くらいか。


『このままでいくと、ソータとかも出て来そうだな』


「ソータ? 英雄様のことですか?」


『ほーらやっぱり。………英雄って?』


「この王都の主戦力を讃え、傑物となった人物を英雄と呼んでいます。8人もいるんですよ」


『8人………まさかさ。ソータの他に………ユリン、ハーモン、コウ、シェリー、ヒナ、シドウ、アイリって名前じゃないだろうな?』


「すごい! 当たりです!」


『ハァ………今わかった。これ、パラレルワールドだわ。あークソ、完っ全にパラレルワールドだわ。むしろパラレルワールドじゃなかったらなんなんだよ。俺の夢の世界? はは。ざけんなっ』


「パラレル、え?」


『ごめん。なんでもない。気にすんな』


 床に敷かれた薄い敷物の上に座る僕。隣を勧めたのだけど、エースさんは座らなかった。ふわふわと宙を浮いている。やっぱり幽霊なのか?


『ハァ………英雄は放置してもいいだろうな。まずはお前』


 ビシッと指をさしてくる。高圧的だけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。僕を蔑んでいるわけではないからだろうか。


『お前の現状もわかった。貧民出身で、ステータスも平均以下どころかドン底。ユニークスキルだけが特化したみたいに優れてるからクランドに注目されて入学を許可されたと。家庭環境を憂慮され学費は免除されたっぽいけど、結果を出さない限り居心地は最悪。退学も視野に入れると。………はぁ。どこぞのライトノベルや漫画の、序盤の成り上がり主人公みたいな設定だなぁ! ったくよう! そんなお前に俺が憑いてなにするかってぇ? 決まってるよなぁ! 環境改善! 魔改造! このパッとしねぇ野郎を鍛え直せってかぁ? あの赤い悪魔どもめっ! なにをとち狂えばそうなる!? メタ要素満載にも程があるぞ! 俺とこいつになにを望んでやがる! はぁ、クソ! これって………考えようによっちゃ、二度目の転生かぁ? でも幽霊だしなぁ。別に死んだわけじゃないけど。あぁぁ………エール。まずはお前に、最大の同情をくれてやらぁ』


「ど、同情? えと………ど、どうも。ご丁寧に」


『馬鹿。喜んでんじゃねぇ! お前、利用されてるかもしれねぇんだぞ!』


「え、誰に?」


『それは………まぁ、追々説明するとしてだ。今度は俺な。俺はエース・ノギ。前世の名前は小此木(おこのぎ)瑛亮(えいすけ)。歳は前世じゃ20歳だったけど転生してからは………あー、意識してなかったし、いつの間にか過ぎてたな。18くらいか』


「ま、待って。待ってください。前世って?」


『あー、俺転生してるんだわ』


「テンセイ?」


『生まれ変わってるってこと。前世じゃ死んでもいないのにな。気付いたらこの姿になって、こことは文明も技術も違うけど、ひとつの世界を救ってる』


「じゃあ、エースさんは英雄なんですか? 今は英霊っ!?」


『そんなすげぇもんじゃない………おい。だから露骨にガッカリするなって! こっちだって感情があるし、グサッとくるんだよ。それから、今お前15歳くらいか? エースさんって呼ばれるのもなんだし、これから俺のことはエー先輩って呼べ。親しい年下連中にはそう呼ばれてた』


 結局は僕の高望みで終わる。落ち込んだら顔に出てしまったらしい。注意を受けた。


 エースさん改めエー先輩は、自己の認識が厳しいだけで、他人から見れば英雄なのかもしれない。なら、その可能性に賭けてもいいかも。世界を救ったとエー先輩が言ったのだから。


 ………なぜだろう。今日、ついさっき会ったばかりのエー先輩の、隠し事をしないオープンな性格もあってか、僕はエー先輩を信用し始めていた。


『今日はもう寝ていいよ。俺はちょっと、そこらを散策してくるから』


「え、あ、ちょ───行っちゃった」


 エー先輩は僕が召喚した幽霊みたいなものだからか、壁を自在に擦り抜けられるようだ。


 僕が止める前にどこかに行ってしまった。


 追うべきか。と考えたけど、幽霊だし、他の誰かに見られない………と思って、寝ることにした。


 もし誰かに見られたら「知りません」と言おう。今なら通用する気がする。






 翌日早朝。


 窓にガラスが用いられているため、朝日が差し込んだお陰で早朝に起床した。


 僕は早起きが得意だ。というのも日課である畑仕事をしていたから。手入れ、種まき、水やり、収穫。オールシーズンこれをこなしていた。やらなければならない仕事だ。さもなくば餓死する。まだ幼い弟と妹を食べさせなければならない。


「父さんと母さん、僕がいなくても大丈夫って言ってたけど………なんともないのかな」


 不安は尽きない。ここから遠くにある故郷を思い、一着しかない肌着のまま外に出る。


 アスクノーツ学園は素晴らしい環境にあった。畑はない。その代わりに芝生がある。グラウンドには小石ひとつも落ちていない。毎日誰かが訓練するために整備されている。


 日課の畑仕事の代わりに、まだ朝日が昇った時間、誰もいないことを確認して走り込みをすることにした。誰かがいては嘲笑を受ける。この時間しか自己研鑽ができない。


『お。自主練とは精が出るな。やるじゃねぇかエール』


「おはようございます。エー先輩。昨日はどこに行ってたんですか?」


『職(・)員(・)室(・)』


「え゛!?」


『大声出すなよ。まだみんな寝てるだろ? 迷惑だ』


「あ、ごめんなさ………じゃなくて! 職員室だなんてなに考えてるんですか!?」


 僕はエー先輩のことをなにひとつとしてわかっちゃいなかった。


 いきなり職員室を訪問するとは予想もしていなかった。精々、土地勘を得るために外を彷徨くとか。


『心配ねぇよ。試しにそこら歩いてる大人の目の前に、尻を出して挑発してみたけど無駄だった。お前以外見えてねぇんだ。だから職員室も侵入し放題! いやぁ、有意義な時間だったぜ? 俺はなにも触れねぇけど、見ることはできるからな。そこらに書類が置きっぱなら読み放題。お陰でこの世界についても少し知ることができた。………ここも殺伐としてやがんのな』


 エー先輩は世界を救った。それだけの戦いがあった。敵がいた。


 それはこの世界も同じだった。


『無限に発生する敵。その敵を討つために組織された養育施設。それがアスクノーツ学園。目的は鋼鉄騎士の育成。鋼鉄騎士は、この学園にもある神樹グラディオスから削り出される鋼が、搭乗者のイメージによって形を変えてできる鎧。鋼鉄騎士こそモンスターを討伐できる。………犠牲者は毎年出てるみたいだな。お前の故郷も』


「………はい。だから僕は、最終的に鋼鉄騎士になれなくても………家族を守れるようになりたいんです」


『心掛けは立派だが、今のままじゃ無理だな。でも安心しろ。お陰で指針が決まった。俺も死んでるわけじゃない。一刻も早く元の世界に帰りたいんだ。そのために調べたいことが山ほどある』


 僕と並走するエー先輩の横顔は、まるで戦士そのものだった。


 なぜだろう。何回も思わされる。


 僕はきっと、エー先輩になにかを感じている。


 だから、僕はエー先輩こそ指針に相応しいと信じて疑わなかった。


 足を止める。エー先輩は正面に回り込む。


『手を貸せエール。俺が元の世界に帰るために。その代わり、俺はお前に知識とか、必要なものすべてをくれてやる。鋼鉄騎士、諦めさせはしねぇ。俺が導いてやるよ。最短でな』


 エー先輩は手を伸ばす。僕も応じた。


 触れられはしないけど、ふたつの手は確かに僕の目の前で重ねられた。


ブクマ、評価、ありがとうございます!

最初から自分勝手で破天荒なエー先輩ですが、これでいいんです。もうエー先輩は異世界慣れしてます。悟りを開いてます。自分でチュートリアルを始められます。それが強みです。

剣と魔法の世界で、どうエー先輩の強みが発揮されるのかは、次回からご期待ください。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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