プロローグ01
「宿命合体! ───グラディランド!!」
年甲斐もなく、こんな台詞を叫んだことは覚えている。
覚えていること───戦争が一旦、落ち着いたこととか。
俺こと小此木瑛亮という名前のただの大学生は「天破のグラディオス」という超絶人気アニメの世界に転生し、エース・ノギというモブキャラとなった。
原作アニメ知識と、持ち前の度胸と、他人から「狂人」とまで言わせしめたド変態的ムーブで、数々のイベントを攻略し、戦死するはずだった主要キャラクターたちを救い、最終的には人類を滅ぼそうとする未知なる敵、アンノウンとの最終決戦まで、命懸けで漕ぎ着けた。
色々なことがあった。
主人公のソータとヒロインのアイリを狂愛していた俺は、第1クール終盤でふたりを相思相愛の仲にしてやった。あれは実に爽快だった。本編では決して叶わなかったカップルになったので毎日ハッピー。やっぱりふたりを狭いロッカーに押し詰めて、薄い本みたいな展開にしてやったから火が付いたんだな。きっとそうだ。違いない。
そしてネームドキャラクターは全員攻略して、全幅の信頼を得た。気に入っていた推しキャラクターは全員生かした。なにがあっても、なにをしても。通称、原作破壊行為。
それにより本編が大きく崩れてしまうきっかけにもなった。敵の規模が最終的に10倍以上に膨れ上がってしまい、いくら本編より強化に磨きをかけても勝てないと判断するくらいに。俺のエゴが「天破のグラディオス」を崩壊そのものに導いてしまったのだ。策士策に溺れるとはこのことだ。
その責任は俺にある。ゆえに俺は、グラディオスクルーを裏切り、ライバルにして同じ転生者であるビーツ・クノとともに、たったふたりで最終局面へと突撃。死地へと赴いた───はずだった。
まさか第3の転生者、シーナ・サクラによって俺の陰謀と責任の取り方を妨害されるとは思っていなかったけど。
原作に存在する、人類全体をひとつの軍とする、国境無き群たる集団、連合軍。その連合軍が誇る最新鋭艦シリーズ。特殊強襲特装艦グラディオス級。一番艦「グラディオス」と二番艦「アリスランド」を、俺のロボットアニメ脳の集大成たる合体機構を取り入れた超巨大メカにしたまではいいが、三番艦「アスティオール」まで登場するとは思っていなかった。だってスピンオフ作品から参入するとは思うはずないじゃん。
しかもそのアスティオール、クズの極みの下衆とも称するビーツが用意していやがり、シーナたちの手に渡ったとか。俺へのサプライズだとさ。あれは参った。それでいて、ふたつの艦が合体したグラディランドの背に接続すると、変形と分裂してさらに合体しやがるんだもんな。あれは度肝を抜かれた。シーナの才能だった。
そしてアンノウンの総大将、Xタイプに突撃する機体たち。
雑兵は仲間に任せて、俺とビーツ、ソータとアーク、そしてシーナとライラという主力級で攻め落とす。
あれは………興奮した。
感情なんてとっくに喪失していたはずなのに、ヒナのキスだけで戻ったもんな。ビビッた。
覚醒を使うソータとアーク。触発されたシーナまで覚醒を使う。ビーツは擬似覚醒。俺は新型ナノマシンによるカウンターシステムをフル活用。
それでどうにか攻め落とした………のだけど。
それからの記憶が曖昧だった。
寝てたと思ったら目が覚めて「ゆっくり休んでいいんだよ」と泣きながら言うヒナとシェリーとユリンに抱かれたのは覚えてる。
でもそこからまた意識が飛んで───目を開けたら、いつもの………ほら、死にかけたららいた白い空間にいた。『人生やり直しますか? 続行しますか?』ってコマンドがいつまで経っても表示されない。
さて、どうしたものかと思っていたら、目の前になにか変な光が現れた。微風だけでフワフワと飛ぶ綿毛のような。
俺は、それが妙に気になって手を差し伸べ、触れてみて───
「受験番号444、エール・ノア。技術指数、最下位。魔力指数、最下位。学力、最下位。基本戦闘力、最下位。しかしスキルスコアが異常指数たる最上位か。面白い。入学を認めよう。きみはなにかを変えるかもしれない。その異常指数のスキルスコア、期待しているぞ」
その日、僕はアスクノーツ学園の1年生になることを許された。
僕はエール・ノア。王都サフラビオロスの右辺、巨大湖ペンタリブルの中央に浮かぶように建設された巨大学園街に、晴れて入学することとなった。
僕の両親は遠い田舎町に住んでいて、隣町からやってくる司祭様、ドルテの診断により、推薦状をもらうことができた。
辺境の田舎町で生まれては、ろくな教育を受けることはできない。才能があっても極貧の生活にあえぎ、積み重なる苦労に心労して埋もれ、農業に全人生を注ぎ、日銭を稼ぐというありふれた生活を強いられていたところに、近年優秀な才ある子供を集め、条件さえ合致すれば6年の学費を無償にしてくれるという制度が広まった影響で、僕もこうして出身地から飛び出すことができた。
堆肥と作物の匂いしかしないあの痩せ細った土地を飛び出し、僕も王都に名を馳せて、いつか笑顔で送り出してくれた両親に良い生活をさええてやりたい。それが第一の目標だ。
ドルテ司祭様が持っていた水晶玉に現れたように、1000年に一度生まれるかどうかの異常指数値をするスキルスコアを持つ僕だけど、学園長のクランドが言っていたように、きっとなにかを変えられるはずだ。
だから僕は、この6年を豊かにして、実りある生活とともに、生まれ変わったような成長を───
「うわ………くさーい」
「見てよ、あれ。制服も買えないくらい貧乏なのね」
「アレでしょ? スキルスコアだけが学年主席の、他は底辺な農民?」
「ヤだ。こっち見てるわよ」
「視線だけで孕まされないかしらね。農民って、貧困のあまり変な宗教に手を出しかねないってお父様が言ってたのよ」
入学初日で、僕のメンタルはほぼ死にかけていました。
いったい、僕は彼ら彼女らになにをしたのだろう? と思えるような差別を受けた。
理由はすぐにわかった。僕は王都から遠く離れた田舎出身で、極貧の農民の出だから、アスクノーツ学園の制服なんて購入できるはずがないし、石鹸なんて買えるはずもないし。
だから僕は母がわざわざ食費を切り詰めて隣町で買ってきた、なんか変な匂いがするが大きい布を水洗いして、切って縫っただけの服を着ている。それだけでも当時の僕は新しい服を着れる贅沢に喜んだのだが、王都にあるこの学園は、ほとんどが裕福な生まれの子供たちが集まるところで、制服なんて何着も持っているし、1日着たらすぐ洗濯できるような環境にあった。
学園は寮生活となるが、生徒には従者がつくのも当然で、そりゃあ………僕にとっては別世界なのだ。
道を歩くだけでも指をさされ、白い目を向けられる。与えられた自室など、寮の隅の物置だった。どうやら寮母にも侮られているらしい。
いったいクランド校長は、なぜ僕の入学を許可したのだろう。
憂鬱になりながらも学園生活に取り組まなければならない現実に直面する。
「僕は誰かに必要とされたかった。例え彼らに届かなかったとしても………」
脳裏に浮かぶ、隣の町の町長の息子とその友人たち。優秀で、推薦をもらってアスクノーツ学園に入学した。歳は僕よりひとつ上で、両親とともに町に商売に出ると、みんな僕に良くしてくれた。僕にとっては兄や姉のようなひとたちだ。
僕が入学すると知って、とても喜んでいると手紙に書いてあったけど、僕がこうでは彼らに迷惑がかかるかもしれない。
距離を置こう。もし彼らが学園にとっての上位であったら、僕などを可愛がったせいで付いた箔を損なってしまう。
僕は誰の目にもとまらないよう注意して生きる。この学園を卒業すれば、率先して王都で職を探せるらしい。育ててくれた両親に、恩返しがしたい。仕送りをして家族に楽をさせたいんだ。
「けどこんなの………あんまりだよ。なんだよ。僕がなにしたんだよ。スキルスコアってなんだよ。なんの意味があるんだよ!」
突きつけられた理不尽に喘ぎ、倉庫だった自室にて、石の床を右手で殴る。
「僕にそんな力があるなら、応えてくれよぉおおおおお!!」
『どうしたクソコマンドォォオオオオオ!! 人生やり直しますか継続しますかって、とっとと聞けやぁぁあああああああ!! 俺をヒナとシェリーとユリンがいる世界に帰せぇえええええええええ!! ソータとアイリの結婚式と出産に立ち会って、あっ、その前に隊長とレイシアさんの結婚式が先だよな! とにかくやりたいことばかりなんだから、勝ったご褒美にそれくらいの人生を寄越せぇぇええええええええええ!!』
「うわぁああああああああああああ!?」
叩いた床から、いきなり喚きまくる男性がニョキッと伸びた。
オレンジ色の髪。ここらでは見ない服装。けれど、その要望というのが、水面に反射する僕の顔のように少しだけ似ていた。面影がある程度だったけど。
半透明のそのひとは、僕が叫ぶと『は?』と首を傾げた。目が合う。しばらくの沈黙。
『え、お前誰? ここどこ?』
「あ、あなたこそっ」
『俺か? 俺はエース・ノギ。18歳。連合軍の特殊強襲特装艦グラディオス級一番艦、グラディオスのクルー。階級は少尉。ミチザネ隊の副隊長。搭乗機はリヴァイヴ。自己紹介はこんなもんか。で、お前は?』
「ぼ、僕は………アスクノーツ学園に入学した、1年生の………エール・ノア、です」
『エール・ノア? なんだそりゃ。よく見りゃ顔もちょっとだけ似てるし………ヘタレな俺って感じ? なんだよ。まさか俺………2度目の異世界転生して、背後霊にでもなっちまったのか!? え、背後霊って転生ってことになるのか!?』
エース・ノギ。確かに言われてみれば、僕と共通する面持ちをしている。歳は3つ上か。
目を白黒させている僕と比較して、エースは次第に落ち着きを取り戻していた。どういうメンタルをしていれば、こんな異常事態に落ち着けるというのだろう。
『あー、エールとやら? ちょっといいか?』
「は、はい」
『まぁ、とにかく、あれだ。俺たちはお互いに、なにも知らないわけじゃん? だからなんでこうなったかっていう経緯を共有する必要があると思うんだ。ほら、お前だってさ、いきなりこんなわけのわからない男が目の前に現れて混乱してるわけじゃん? 俺だってそう。俺に似た男がいて、超びっくり。でもこうして会えたのもなにかの縁だ。自己紹介が終われば、次はお互いを知るために歩んできた人生を語り合おう。それが近道だと思うんだよな』
「え、えっと………近道って?」
『俺、すぐにでも元の世界に戻りたいんだよ。でもここでギャーギャー喚いても始まらないだろうし、お前も鬱陶しいだけだろ? だからまず俺のことを知って、お前のことも知る。そのあとでこの世界のことを知れば………うん。きっとなにか意味があると思う』
「な、なんでそんなことがわかるんですか?」
『勘、かな』
「かん………? そんな当てずっぽうで………なんでエースさんはそんなに落ち着いていて、勘だけで動けるんですか?」
『あー、それはな? 俺、実は前に異世界転生してるんだよな。んで、今回で二度目ってわけだ。いやでも幽霊………転生って言うのか? まぁいいや。魂と精神だけがこっちの世界に来て、お前と繋がったんだと思う。それにも理由があるんだ。経験はお前よかずっとたくさんあるつもりだぜ? 落ち着いてるっていうよりも、慣れてるせいでそう見えるだけかもな』
いったい、なんなんだこのひとは。
僕のスキルで現れた?
え………これが1000年に一度現れる才能の、正体?
ならもっと、こう………ドラゴンとかさ。高望みだけど英霊とかさ。そういうのに来て欲しかったんだけど。
『おうコラ。露骨にガッカリしてんじゃねぇよ。気持ちは、まぁわかるけど。でも、これもなにかの縁だ。お前の人生を一変させる好機かもしれねぇぜ? だからまず聞かせてみな? お前の境遇。俺にできることは限られてるけど、多分改善できないこともないかもしれないからな』
「え、え………ぇえ………」
この時、僕は知らなかった。
見たこともない服装をしているこのひとが、本当に僕の人生を変えてしまうなんて。
これこそが記念すべき日となった。
あれから2年。僕はエース・ノギ───通称エー先輩に、決して届くことはない手紙を書いて、窓の外の晴天を眺めて微笑を浮かべるのだった。
初めましての方も、1時間ぶりの方も、歓迎します。
この作品は「ただの整備士A先輩」の続編ではありませんが、スピンオフ?のような形とさせていただきます。
現在2話を執筆中。
次回の1話は15時頃に更新させていただきます。
ロボットアニメ特化したエースの、幽霊だから滅茶苦茶にしちゃうゾ的な破天荒ぶりをお楽しみください!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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