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エピローグ01

「お前、確かジェイスの従者の………カディアンだっけ?」


「はい。カディアンです。………エール・ノア。今朝は、ジェイス様のみならず、私まで守っていただき………ありがとうございます」


 カディアンはペコリと頭を下げる。


 姿勢もいい。かなり教育されているとみた。


 しかし………なぜかな? このカディアンという男、容貌にどこか違和感がある。ジェイスとはまた違うタイプのイケメンであることには違いない。でもそれが逆に、カディアンという少年の枠に嵌っていないのだ。


 元ある枠に、強引になにかを当てはめてできた。それがカディアン。みたいな感じ。


「いや、それはいいんだ。さっき釈放されたのか?」


「はい」


「んで………なんでこんなところに? 物置部屋の………掃除? お前だって疲れてるだろ?」


「私は従者ですから。………ああ、いえ。もうそうでなくなるかもしれないのですが」


「うん?」


 カディアンは影のある笑い方をする。経験上、絶対になにかあると理解した。そういう時に踏み込むかそうでないかくらい、判別できる。答えはノー。各自、事情というものがある。聞いてほしいかそうでないか。カディアン自身の問題もあるなら、聞くべきではない。


「ジェイスはどうした? お前が出られたってことは、あいつも出たんだろ?」


「はい。ジェイス様も私と同じ時に解放されました。御前試合の消耗と、聴取の疲労で今はお休みになっています。………しかしあなたは今から外出ですか? 随分と………タフですね」


「疲れてるってのは事実だろうけど、風呂入らないとな。平民向けの大衆浴場の規模だけど、せっかく無料で入れる風呂だ。堪能したいし、疲れを取るには風呂が効率がいい。逆効果な時もあるけど。………そうだ、カディアンも一緒にどうだ? その様子じゃ風呂もまだだろ?」


「え゛!?」


「え?」


「あっ、い、いえ。なんでもありません。申し訳ありません。大きな声を出してしまいまして。………そ、その。あまり大きな声で言えないのですが、そのようなお誘いを受けたのは初めてでしたもので」


「そ、そうか」


 ………にしては、だ。


 カディアンのこの挙動不審振りと狼狽と表情の変化。その裏に意図して隠してあるものの全貌は知らないが、きっとまだなにかあると踏んだ。


 いくら主人の友人になったとはいえ、エールは貧民。カディアン自身、どのくらいの身分なのかは知らないが、やはり上流階級のボンボンの従者となると、平民よか身分が高くなければ示しがつかないか。彼自身、まだエールと同年代にしては、所作ひとつに気品というものが見られる。


 なら、同性同士であっても、エールが誘うには身の程を弁えない愚行だったということか。


「悪いな。変なこと言っちまったみたいで。考えてみれば、ジェイスは上流階級だし、自室に風呂くらいあるわな。お前の部屋にもあるんだろ? ま、それじゃ平民の風呂には忌避感がありそうだよな」


「あ、いえ。私は平民でしたので、そのような偏見はありません。それに私の部屋にはそのような上等なものはないですし。全員が寝静まった時間にお風呂をいただくというのが、従者のマナーですから」


「へぇ、そうなのか。なら、仕事の邪魔をしちまったみたいだな。悪かったよ。俺はもう行くから。じゃあな」


「あ、はい。お気を付けて………」


 ふむ。話してみればカディアンもいい奴らしい。例え平民上がりだったとしても、エールが貧民であることを差別しないし、最初から最後まで丁寧な姿勢を一貫した。


 けれど、まだなにかありそうだ。いつかわかる日が来るだろうか。






 ───と、エー先輩が言っていたのを聞きながら聞いて、翌朝に目が覚めてみれば。


 僕が起床する時間から、隣の物置部屋がガッタンバッタンと騒がしくなり、僕は思わず部屋から飛び出して騒音の正体を目視した。で、言葉を失うことになる。


「え………えっ? ジェイス? それに、カディアンも? いったいこんな半地下の物置部屋で、なにしているのさ!」


「よう、日の出の時間に騒がしくしちまって悪いなエール!」


「おはようございます、エール・ノア。ご迷惑をおかけします。察するところ、朝課の走り込みですか? それは私たちにも都合がいい。行ってらっしゃいませ」


 なぜか寮の半地下スペースに並ぶ物置部屋のふたつに、大量の荷物が持ち込まれたのだ。


 その正体はタイガーアビスを纏ったジェイスとカディアンが、大量の家具を抱えて歩いているからであった。


 呆然とする僕の前を、大きな木造の机を、本来なら大人数人がかりで持ち上げるはずの重量があるそれを、片手で持ち上げるジェイス。カディアンは複数の椅子を指だけで吊り下げていた。


「どうしたの? ふたりとも。もしかしてお部屋の模様替え?」


「んなわけあるかよ。引越しだ引越し」


「へ? 引越し!?」


「おう、今日から俺らはお隣さんってわけだ。これからよろしくな、エール!」


「ジェイス様共々、よろしくお願いします」


 ニカッと笑いながら手を振るジェイス。カディアンはペコリと頭を下げた。というか、あれは本当にジェイスなのだろうか? 初見や昨日より、毒気が抜けて随分と爽やかになったような?


 引越しってなんだろう? なんだっけ? 上流階級の子息たちの間で流行している遊びだろうか?


 いやいやそんなはずがない!


 引越しは引越しだ。


 つまり、上流階級の、お金持ちの家のおぼっちゃまが、こんな薄汚いフロアに本当に越してくるという意味だろ!?


『へぇ。じゃあ昨日のカディアンの掃除は、ジェイスが少しでも住みやすくなるためのものだったのか。頑張るねぇ。疲れてるだろうに』


 エー先輩はいつでも呑気だねっ!


「な、なにを考えているのさ!? ここは、とてもじゃないけどジェイスみたいな上流階級の子息が住むような場所じゃないよ!?」


「ああ。知ってるぜ。よいしょっと。………ま、今日から俺は、その上流階級の子息とやらじゃねぇからさ」


「どういうこと?」


「言葉どおりだよ。昨日の一件、カディアンから全容は聞いた。ノーディアスを差し向けたのはクソ親父で、そのクソ親父が御前試合で俺が負けたらふたりまとめてぶっ殺せって言ってたこと。そんなクソみてぇな家、もういらねぇからよぉ。こっちから離縁してやったぜ! カディアンも一緒にな!」


「ぇえええええええ!?」


『へぇ、根性あるねぇお坊ちゃん。自ら貧民になりに来るとは。気に入ったぞ』


 エー先輩はなんでご機嫌なんだろう。


 でもエー先輩が言ったことがすべてだ。ジェイスとカディアンは、余程の功績を挙げない限り、最上階の高級な部屋には戻れない。それまでジメッとしたこの部屋で過ごすことになる。僕ならまだ慣れているけど、大金持ちの子息がどこまで耐えられるか不安になるばかりだ。


「幸いだったのは、クソ親父が卒業までかかる学費を一括で支払ってたってことだな。これである程度は困らねえ。ある程度窮屈だろうけどよ、卒業して鋼鉄騎士になっちまえば部屋なんてどこでもよかったしな! むしろダチの隣なら、今日から毎日楽しいんだろうよ! がっははははは!」


 なんて豪胆な。ひとはそれを楽観視と言うだろうけど、ジェイスにとっては解放記念日と呼ぶのだろう。


『良いじゃねえか。騒がしい方が、安心することだってあるんだよ。お前が最初、ジェイスを友達にしたいって大勢の前で言った時、ジェイスも心を開いた。俺もお前を見直した。俺はどうにも、他人ってものをあまり信じない嫌いにあるからな。初対面は本質を見抜かない限り、どうしても疑っちまう。だから、これからお前の周りに大勢が集まるかもしれないな。自信持っていいぞ。エール』


 そんなこと言われてもなぁ。


 と僕は悩み続けた。





 けれど、これが僕にとっての誰かとの、友達との付き合いが始まる第一歩であると知ったのは、数日後のことだった。出会いは僕の運命さえより良いものに変えてしまうのだと。


ブクマ、リアクションありがとうございます!

明日は………12時には更新しますが、もしかするとその1回で終わってしまうかもしれません。長距離を車で移動するという、大変なことになるかもです。いやぁ、大変だ。

第2章のプロローグは、ちょいと時と場所どころか、世界を変えてみます。久しぶりのあの子が登場します!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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