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「なんだ………あ、あれは! カディアン!!」


 ジェイスが狼狽しながら立ち上がろうとする。まだ回復していないのでうまく動けなかったので、咄嗟に支えた。


 入場門を改めて見る。


 爆発したそこから飛び出したのは、2つの鎧だった。


 たちまち警鐘が鳴る。大きく、そして小刻みに。侵入者を報せる音だ。


 歓声が怒号と悲鳴に変わる。


 ここは鋼鉄騎士の養成校だ。いずれ卒業生の多くが騎士となる。新入生は戸惑うのは当然だが、上級生はさすがに冷静で、新入生たちの避難と、侵入者の迎撃の準備に瞬時に入った。


『ま………無駄だろうな。あの乱入者が、神鋼が保管されてる扉まで爆破して埋めやがった。しばらく助けは来ねえよ』


 エー先輩が述べた。まさか、こうなることを予想していたのか?


「カディアンってあの子? 知り合いなの?」


「俺のい………従者だ。あいつも鋼鉄騎士の素養はあるが、俺らみたく真正面からぶつかるのが得意なタイプじゃねぇ!」


 ジェイスは焦りながら言った。


 おかしいな? ジェイスのなかでは、すでに僕が殴り合いが得意って決定されてるみたいなんだけど?


 でもそれはあとにする。


「それにあいつ………ノーディアスか!」


「知ってるの?」


「俺の家の………クソ親父お抱えの暗殺者だ」


「暗殺者!?」


「逃げろエール。狙いはお前だ!」


『違う。狙いはお前と、ジェイスだ。クソ親父殿は、ジェイスが負けたら共々殺せって言いやがったんだよ。虫唾が走るぜ』


 なんでエー先輩は、そこまで知っているのだろう。


「カディアン! 無茶だ逃げろ! ノーディアスは俺でも止められない!」


 そんなに強い相手なのか。


 カディアンという子はジェイスと色違いの青いタイガーアビスを纏っていた。近接戦向けだけど、確かにジェイスの言うとおり御せていない。


 一方でノーディアスの鎧はカラスのような漆黒。防戦一方のカディアンをさらに追い詰める。


 ジェイスは僕を振り払い、カディアンを助けようと地面を這う。


 それを助け起こそうとするのだけど、エー先輩が止めた。


『ま、こういう大きな大会になれば、途中で妨害が入るなりして、まともに進行したことがないっていうのは定番の流れなんだよな』


「さっきからエー先輩はなにを言っているんですか? もしかして、こうなることを知ってたんじゃないですか!?」


『ん………まぁな。女湯を覗いたってのは嘘。あのカディアンって奴と、クソ親父殿の通信を偶然聞いちまってな。だから、俺なりに対処することにした。エール。今お前、魔力とやらの残量はどれくらいだ?』


「対処できるんですか? えっと………3割くらいです。結構ギリギリで。僕、そこまで魔力量が多くなくて。部分修復はあと6回くらいできるってところです」


『6回? 上等じゃねぇか。よくうまくセーブしたな。………よし、エール。この戦いを制したお前に、ご褒美をあげような』


「今はご褒美なんてどうでもいいじゃないですか!」


『まぁ聞けって』


 この期に及んでもエー先輩はヘラヘラとしていて、その剽軽な態度につい声を荒げてしまう。カディアンとノーディアスが戦っていなければ、僕の声がジェイスに聞かれていたかもしれない。


『お前はよくやったよ。初心者なのに、上級者のジェイスとタイマン張った勇気だけでも満点を出せるのにな。ちゃんと勝てたところが偉い。だから、次のステップを教えてやる。体を借りるぞ。お前が仮にフレッシュな状態だったとしても、ちょっときつい。いや、あいつには勝てないかな。あっちはプロだ。だから俺がやる』


「え?」




『今から見せるのは、お前が操っているタキオンの………本(・)来(・)の(・)使(・)い(・)方(・)ってやつだ。見て、感じて、覚えてみな』







 当主も無茶を言われる。


 しかし、家名に泥が塗られるくらいなら大会そのものを消し去り、勝敗を曖昧なものにする。当事者たちが消えれば、どちらかといえばウルスラ家に同情が送られるやもしれない。という算段のために、平気で子息を殺せと命じてきた。


 私は当主の影にして、依頼されれば誰であろうと殺してきた。どのような汚い手段であろうと、選ぶことはしなかった。ウルスラ家の敵ならば、幼児であろうが誘拐して殺す。殺したあとはバラバラに解体してその家の門に飾る。昔なら精神を保てない所業であったが、もうなにも感じなくなってしまった。


 だから今回も同じ。例え雇い主であり、恩人である当主の命令ならば従う。


 ジェイスといえば長男と次男と比較して、才能はないが、彼らにはない光るものを持っていると感じた。将来活躍できるかはわからないが、鋼鉄騎士として少しは名を馳せると考えた。今からそれを摘み取らねばならないが。


 審判がジェイスの敗北を告げた瞬間が、私の仕事の合図だ。


 私の鎧、クロウボマーは鴉をモチーフにしたもので、飛翔能力はないが、背中から伸びた翼から放つ羽に誘爆のスキルが備わっている。私のスキルスコアの隠蔽に役立つ。


 学園の神鋼の保管庫の扉周辺を爆破し援軍を封じた。そして迅速に仕事を遂行しようとして───


「なにをしているカディアン。なぜ鎧を? まさか私を止めに来たと? 当主の命に背くのか?」


「………はい。ジェイス様は私の恩人ですから。ノーディアス様を阻止させていただきます」


「所詮は子供か。なんと浅はかな。私とともにこの学園を去れば、まだ人間として扱われたものを」


 カディアンは知っていた。なんとも哀れとしか言えない存在で、そして私も一時とはいえ、鎧の使い方を教えたことがある。師弟というほどの仲ではないが、教え子としては認識していた。私もあの時はどうかしていたのだ。毎日泣き喚き、しかし周囲からは相手にされない子供。情が湧いた。この私が。だから手を差し伸べ、生きる術を叩き込んだ。


 そのカディアンが私を止めに来た。これはこれで………まぁ、いいだろう。


「苦しまずにあの世に送ってやりたいが、反抗するのであれば苦しむことになる。覚悟はいいな?」


「はい。………お兄様がご存命であれば!」


 お兄様か。そういえば、カディアンを家族として扱ったのは、ジェイスだけだった。


 カディアンは果敢に挑む。だがその鎧と、カディアンのスキルスコアは合致していない。真価など発揮できるはずがない。防戦に追い込まれ、私が闘技場に飛び出すことを許した。


「やめろカディアン!」


「お下がりくださいお兄様! 逃げてください! 私の分まで、生きてください!」


 家族愛か。これでもし、まだ私にひとの心が残っているならば、ふたりを見逃すやもしれない。


 ジェイスは全身で這いながらカディアンへ迫る。


 カディアンの言うとおり逃げていれば、数秒は生き永らえたものを。


「当主の命令だ。そして命令に反いた者も処分する。覚悟せよ───」


 クロウボマーの翼が展開する。


 そこから羽が発射されるという寸前───でのことだった。





「コ(・)ン(・)バ(・)ー(・)ジ(・)ョ(・)ン(・)開始………起きろ。タ(・)キ(・)オ(・)ン(・)」





 ひとりの少年の声が耳に入った。その声はなぜか、私の耳や、印象に残った。


 ふとジェイスの奥にいるその少年を見た。


 ただ、それだけの行為だけのはずだった。


「………ッ!!」


 私は攻撃を中断し、ジェイスたちから大きく距離を開いた。


 本能が告げたのだ。距離を取れと。


 ジェイスと戦った少年、エール・ノア。最初こそ初心者丸出しのスタイルで、しかし目を見張る特徴もあった。とにかく視力、いや動体視力が優れている。ジェイスの拳を相殺した。


 さらに部分修復を可能にした才能。


 誰にでもできる技術ではない。しかし、そこまでだ。所詮は初心者。殺すことは難しくない。タキオンという見たことのないデザインの鎧は、うまく人体の急所を隠せているがどこか歪で、若干左右対照ではない。均等の配分もできていない。技術と才能に助けられた試合と言えた。子供同士の喧嘩というのは、こんなものだ。


 だが───今のエール・ノアは、なんだ?


 この私が本能で恐れた?


 どのような相手だろうと暗殺を可能にした、この私が小僧に気圧されただと?


「………何者だ。貴様」


「へぇ。一応、これで別人だってわかるんだ?」


 エールは私の質問に笑って答える。


 声は同じ。ただ抑揚が異なる。


 私を前に、先程までは震えていたというのに、今はそれがない。緊張していない。むしろ脱力している?


「エ、エール………お前のその鎧………なんか、さっきとは別物じゃねぇか」


 ジェイスもそれを見ていた。至近距離で拳をぶつけ合ったのだ。その鎧のフォルムに冴えや洗練といったものが混じっていることに気付いて当然だ。


「これが本来の姿だからな。これが本当のタキオン。ちなみに………マジで強ぇからな?」


「じゃあお前、さっきのは手加減してたってことか?」


「あー、いや。そういうわけじゃないんだ。俺がやるから、こうなったってだけで」


「俺って………まさかお前、最初に俺に喧嘩売った時の!」


「あ、ヤベ。ヒント与えすぎちまった。はは。俺もまだまだだな」


 一人称が変わったどころではない。人格そのものが、入れ替わっている?


「とにかくだ。ジェイス。それからそこの………カディアンだっけ? 下がってな。俺がそこの黒いのを叩きのめしてやる。なーに。心配すんなって。暗殺者だろうと、所(・)詮(・)は(・)人(・)間(・)だろ?」


 なんなんだこいつは。


 人格が変わっただけではない。


 それに比例して、実力まで向上して………この私が、勝てるイメージが見えないだと?


「ってわけだからさ。ノーディアスくぅん? 俺が遊んでやるから、とっとと全力出しな? さもなくば、全力を出したタキオンと俺が数秒でお前を倒しちゃうだろうぜー」


「………その言葉、真実なのはわかる。しかし舐められたものだ。私に全力を出せだと? 後悔することになるぞ!」


 言われずとも出すしかない。


 見たこともない鎧を纏うエールは、とにかくあまり動こうとしなかったため、情報不足だ。きっとまだなにか隠し持っているに違いない。それを確かめるべく、クロウボマーの全推力を爆発されてエールに迫った。


「速ぇ!」


 ジェイスは驚愕する。カディアンも。かつての教え子にここまでは見せてはいない。


 ところが、


「いいや、まだ遅え。所詮、人間だもんな。Dタイプの方がもっと速かったよ」


「お、お前は………なにを言っている?」


 エールの背後から奇襲を仕掛けたつもりだった。


 しかし新たなデザインとなったタキオンが私の前で霞むと、背後からエールの声が聞こえた。


 馬鹿な………奇襲直後に、私が背後を取られるなど………!?


リアクションありがとうございます!

悪魔タイムです。

Dタイプなるものは、前作の第6話を参照してください。

これから、そういうものがたくさん登場します。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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