第67話 〜王座に届かぬ者〜
「――よって、名分を詳らかに示し本懐を遂げるのは、十一月の国王生誕祭で――」
「いや、内密に討ち果たし、その後――」
議論は、まだ続いていた。
国王生誕祭に名分を掲げて決起する。
いや、先に現王家を討ち、その後で正当性を示す。
どちらにせよ、動けば国境も交易も揺れる。
戦後処理によって、ハンサンとミッドガロンの国境線は、アルマー渓谷の南に仮置きされている。
交易路。渡し場。徴収される渡賃。物資が集まる経由地。
この地方の地図は、すべて頭に入っていた。
政変が長引けば、どこが途切れ、どこから敵が入るかも。
そして――目の前の男。
王位継承第七位。
本来なら、王太子の嫡子として王位を継ぐはずだった血筋。
父は病死。
――建前だ。おそらく毒だろう。
それで、第七位。
エルドウルフは小さく息を吐いた。
あまりに分かりやすい国だと、笑いそうになるのを堪えた。
「第一王子から第五王子まではともかく……末の第六王子は、まだ十歳にもならない。排除するには忍びないのではないか――」
不意にギルタンが言った。
空気が、わずかに揺れる。
すぐに取り巻きの貴族が応じた。
「殿下は、まことに情の深いお方だ」
「民も、その御慈悲に感銘を受けるでしょう」
ギルタンの肩から、わずかに力が抜けた。
長机の向こうに座る王太子は、ここまで一度も口を挟んでいない。
今も黙っている。
自分の慈悲を認めたとまでは思わない。
それでも、少なくとも異を唱えるつもりはないのだろう。
そう思った。
エルドウルフが、この評定で初めて口を挟んだ。
「――は?」
ギルタンの顔が強張った。
誰もが声の主へ顔を向ける。
エルドウルフは、冷ややかな青い目で、まっすぐギルタンを見ていた。
先ほどまでと同じ、静かな顔。
だが、その視線には明確な侮蔑があった。
「愚かだな」
空気が凍った。
ドグレルが勢いよく立ち上がる。
「聞き間違いでしょうな、殿下。今なら謝罪を――」
「愚か者に、愚かだと言っただけだ」
被せた。
間を与えない。
エルドウルフはゆっくりと卓へ肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せた。
「それとも、大馬鹿者か。王座に届かぬ器と言い直したほうがよいか?」
「なんと恥知らずで無礼な!」
シムノンが卓を叩く。
エルドウルフは微動だにしなかった。
わずかに口角を上げ、ギルタンを囲む貴族たちへ視線を滑らせる。
声は低く、穏やかですらあった。
「青臭いギルタン殿下の浅薄な情を正すのが、貴様らの役目だろう。利権に目が眩み、是非の判断もつかんのか。幼い王子を一人残せば、その血を旗に担ぐ者が必ず現れる。国を二つに割り、何年争うつもりだ。その代価を、すべて兵の血で払うつもりか」
視線が、再びギルタンへ戻る。
「その程度の覚悟で、王位を語るとはな」
ギルタンの唇が震えた。
「私は、ただ――」
「付き合いきれん」
切り捨てた。
「青二才が!」
怒声と同時に、壁際の護衛騎士が動いた。
ドグレルとシムノンの騎士が、剣の柄へ手をかける。
フーガが即座に立ち上がる。
シュバリエ側の兵も、間合いを詰めた。
抜剣――寸前。
北側の騎士たちが、柄を握ったまま止まった。
音が消えた。
更新 月曜日/木曜日 20:00
X更新情報/活動報告など発信してます
たまにイラストも
https://x.com/REANNEcreative




