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光を背負った王――神力を宿す王太子エルドウルフの戦記  作者: RE:ANNE
第七章 同じ未来を見る

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第54話 〜朝の分かれ道〜


 衣装部屋。


 寝室に続く広い衣装部屋は、中央に立てられた衝立で二つに仕切られていた。


 片側にはフィーラの衣装。

 反対側には、今朝四階から運び込まれた王太子の衣装が整然と並んでいる。


 寝室の修繕が終わるまでの仮の支度部屋だった。

 今日中には衣装も三階へ移される予定になっている。


 ネレアは衝立のこちら側でフィーラの支度を整える。

 イザークは向こう側で、黙々と王太子の着装を進めていた。


 互いに声を交わすことはない。

 それでも支度は滞りなく進んでいく。


 寝室の扉の外では、アンリと護衛騎士、侍女たちが静かに待機していた。


 イザークの手は速い。

 だが雑ではない。布地を撫で、皺を消し、銀糸の縁取りを指で整える。

 その所作だけで、寝室の空気が仕事の空気に塗り替えられていく。


 鏡の中のエルドウルフは、まだ少しだけ眠い。

 目の奥に、夜の余韻が残っている。

 だが、外套が肩に掛かった瞬間――顔が変わった。


 王太子の顔。


 エルドウルフは袖を通しながら、何気ない声で言った。


「……ロワール太公は、ルーソルとジュリアの父親だ」


 仕切り越しに尋ねる。


「会いたいか?」


 フィーラはきょとんとした。

 一瞬上を見て、首を横に振る。


「会わない」


 即答だった。


 イザークの手は止まらない。

 エルドウルフがわずかに目を細めた。


「理由は」


 フィーラは少し考えてから言った。


「だって、用事ないでしょ?」


 あまりにも素直な答えだった。


「今日も広場に行くの」


 ぱっと顔が明るくなる。


「こどもたちとあそぶんだ」


 満面の笑み。

 エルドウルフは小さく息を吐いた。


「……そうか」


 否定もしない。

 イザークが最後の留め具を整える。


「殿下、仕上がりました」


「ああ」


 エルドウルフは鏡から視線を外した。


「では、朝食に行く」


 フィーラは嬉しそうに仕切り越しに頷いた。

 二人は寝室を出た。

 ネレアとイザークは一歩下がる。


 廊下ではアンリが腕を組んで待っていた。

 その少し後ろには、ルイーズとサラ、護衛騎士たちが静かに控えている。


「ようやく出てきたか」


「待たせたな」


「イザークの計算では時間通りだ」


 三人は歩き出す。


「ロワール太公一行は予定通り昼前に到着する。迎賓館への案内、部屋割り、食事、湯殿までは執事長が手配済みだ」


「会談は中央館だな」


「ああ。エランとゴディエも来てる。細かい話は朝食で」


 アンリは歩調を緩めず、もう一つ報告を続けた。


「それと、言われてた晩餐会の件だ。周辺貴族には今朝一番で招待を出した」


 エルドウルフは短く頷く。


「予定通りだな」


「ああ。昼までには各家へ届く。今夜までに間に合わせられる家は、間に合わせる」


 アンリは口元をわずかに上げた。

 

「返事の速さも見れるな」


「当然だ」


 エルドウルフが考えた手筈だった。

 朝に招き、夜に応じられるか。

 その速さもまた、周辺貴族の忠誠を測る一つの指標になる。


「効率的だ」


「スープは冷めたぞ」


「悪かったな」


 階段の前で、エルドウルフがふと足を止めた。

 後ろには、当たり前のようにフィーラがいる。

 エルドウルフは一瞬だけ目を細めた。


「……お前も来るか?」


 フィーラは首を傾げる。


「行かない」


「なら、どうした」


「ついてきただけ」


 あまりにも自然な返事だった。

 アンリが堪えきれず笑う。


「なんだそれは」


 フィーラは不思議そうにエルドウルフを見る。


「エルドウルフ、行くから」


 エルドウルフは小さく息を吐いた。


「……ネレア」


「承知いたしました」

 

 ネレアが一歩前へ出る。


「姫さま、お支度を整えて、広場へ参りましょう」


 フィーラの瞳がぱっと輝いた。


「うん。きょう、かけっこ、勝つ」


 ルイーズが笑顔で頷く。


「はい。今日こそレオナールに勝ちましょう」


 フィーラは小さく拳を握る。


「全員に勝つ!」


 アンリが吹き出した。


「強気だな」


 エルドウルフも小さく笑った。

 ほんの一瞬、気が抜けたような笑みだった。

 アンリの目がわずかに細くなる。


 ――疲れているな。


 朝までろくに眠っていないのだろう。

 呆れと、わずかな安堵が同時に胸を掠める。


「行くぞ」


「ああ」


 エルドウルフとアンリは並んで階段を下りていく。


 フィーラはネレアとルイーズ、サラを伴い、軽い足取りで、来た廊下を戻っていった。

更新 月曜日/木曜日 20:00


X更新情報/活動報告など発信してます

たまにイラストも

https://x.com/REANNEcreative

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