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光を背負った王――神力を宿す王太子エルドウルフの戦記  作者: RE:ANNE


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第4話 〜神の眠りに、人は惑う〜



 ーーハンサンとミッドガロンの戦争は終わったーー


 戦後処理はハンサン将校に任せ、

 シュバリエ将校は、夕方には戦地から南、

 ハンサンの王都に移動し、国王が用意した宮殿の別棟に移動していた。

 

 エルドウルフは移動の際も、

 神さまを抱いて騎乗すると言い張るので、

 馬車を用意し二人を乗せた。

 

 普段なら絶対に乗らない馬車に、すすんで乗った。


 腹心たちにとってそれは、異常事態だった。


 

 エルドウルフはハンサンの軍務官や内務官の謁見も、祝宴の申し出も全て断った。

 五人の腹心がそれぞれ個別に対応し、ようやく落ち着き、部屋に集まったころには、とっくに空に星が瞬いていた。

 

何とか説得して甲冑を脱がせ、

傷の手当をし、身体を拭き、着替えをさせた後も、エルドウルフは横たわる人から離れようとしない。

 食事を運ばせたが、手をつけず、ベッドの脇に座り込み、何も言わずただ顔を見てる。


 ベッドから少し離れ、集まった腹心はアンリを囲んだ。

 

「…………いいかげん、本当のことを言え、アンリ。あれは誰だ、なぜ連れ帰った。」

 

 フーガが至極真っ当のことを聞いた。

 フーガ以外も皆、彼と同じような顔でアンリを食い入るように見る。


  ――相手が相手だ。軽率に言うわけにいかんし。


 アンリは内心舌打ちした。

 

 奇襲を行った地より、シュバリエ本陣へ帰還する間、アンリ配下の兵士はそれぞれ不可解なことを口にしていた。


「神が降臨されて、我々を救ってくれたのだ」

 

 ある者は、

 

「光の雨が降った。あれは神だったのか?夢を見ていたような気がする」

 

 あるいは、

 

「殿下が新しい神力を使われた。さすが、我々の王太子殿下」

 

 奇跡が起き、ミッドガロン兵士が地に崩れたことを、さまざまの解釈で語り出す。

 そして、エルドウルフが馬上に抱いていた人について、何も語らない。


 アンリ自身は

 あの鈴の音も、

 さざなみのように立ち上がる光の粒も、

 胸のひりつきも、

 崩れ落ちそうなくらいの安堵も、

 すべて覚えている。

 

 そして、エルドウルフが自ら手を引き、神を抱き寄せたことも。


 戦場に突然現れた人物は、王太子の天幕に運ばれた時点で、将校たちの知るところとなった

 将校たちは、今では

 ミッドガロンの捕虜だったのでは、

 とか

 戦火を逃れるために、森に逃げていた者では、

 という解釈に落ち着いている。


 

 腹心たちは違和感を感じながら、

 あえてそれに触れず、戦場を離れた。

 アンリも黙っていた。

 


 天空に現れた大きな円、降り注がれた光の雨

 温かく、しかし確実にミッドガロン兵士だけ眠りにつかせた。

 

 あれは夢ではない。

 しかし、そこにいたアンリでも、説明には困る。


 ――今は、羽もない。

 どう言葉を尽くしても納得してもらえなそうだ。


 アンリは天井を見上げ、はぁと息を吐き、考えることを止めた。前髪を掻き上げて、そのまま言った。

 

「闘神フェギスノーラ様だ。」


 一拍おきゴディエが、笑う。

 

「いや、どう見ても人間だろう?」

 

 横たわる少女は、完全に人の姿だ。

 珍しい髪の色だということを除いては。

 

 呼吸の度に胸が上下する。

 しんとした広い部屋に、かすかに

 すー、すーと息遣いが聞こえる。

 

 神さまが人のように呼吸をするなど、

 俄に信じがたいし、脈を診るため

 触った手首は暖かかった。

 重さが確かにある。

 

「俺は全てを見たし、覚えている。

 第一あいつがそう言ってる。」

 

アンリはエルドウルフに聞いてくれ、と話を投げた。

 腹心たちは主君に注目する。

 

「……神さま。俺の神さまだ。」

エルドウルフは振り返らずつぶやいた。


 

ミッドガロンの間者の疑いもあるし、二人は何かしらの幻術にかかっているかもしれない。

――帰還したアンリの配下の兵士たちも、皆一様に奇跡を見たとは言っているのに、聞けば話がばらばらだ……。

エランは思考を巡らした。

 

「俺はあんなふうに神力を使えない。」


ミッドガロンの兵士のみ死んだ。

馬は生き、土地は祝福をうけ、殿下が

吹き飛ばした大地に薄く緑が戻っていた。

 

――と、あの場にいた皆が同じことを言う。

 

 違う解釈で。

 

 

「……わかりました。では、神さまと話はしたんですか?」

会話が出来るのなら、目を覚ました本人に直接聞けば良い。必要ならば尋問でも行おう。

 エランは頭を振り、話を進めた。

 

「これ以上、力を使うな。

 俺の望みは?

 間に合って良かった。って言った……」

 

もし本当に神であり、その言葉通りならば、シュバリエのためではなく、エルドウルフのために降りてきたことになる。

 

エランはさらに問う。

「いつもよりあなたの回復が早く、神さまが深く眠っているのは何故ですか」

 

エルドウルフは立ち上がった。

「分かんねぇよ!俺に教えてくれ!」


 エランの襟元を掴み叫んだ。そして

 

「……神さまのマナが弱いんだ。どうしたらいい。」


 語尾が掠れ、うなだれた

 

「俺は二回目の神力でほとんどのマナを使い切った。いつもなら、今頃ぶっ倒れているはずだ。」

 

掴んだエルドウルフの手を、見かねたルーソルがそっと離してやった。

 

「じゃあ、神さまがお前にマナをくれたんじゃないのか?」

 

 予想以上の大きな神力を使い、マナが枯れたエルドウルフに、自分のマナを分け与え休んでいる。

 ……そう考えるのが普通だろ?と場に合わないくらい明るい声で言った。

 

 エルドウルフは唇を噛み、さらに下を向いた。

 

「そう思ったんだが。……俺のマナは神さまと繋がっていない……」


 エルドウルフの言葉が落ちたあと、誰もすぐには口を開かなかった。



 闘神の寵愛を受けているのならば、

 マナの供給は闘神が担う。

そのはずだった。

 

 エランは思考が整理しきれなくなった。どのみち、この『神さま』を起こして話を聞かなくては前に進まないことだけはわかった。

 

「神さまもお前も『光の力の使い手』なんだし、とりあえず、エルドウルフのマナを分けてやればいいんじゃないか?」

 

フーガは半ばなげやりに提案した。

 

「どうやって?」


 俯いていた顔が、わずかに上がった。

 

 マナを人に分けることなど、やったことは勿論、

 考えたことすらない。

 王宮の占術師も寵愛を受けた者だったが、

『風の神力の使い手』だった。

 マナを身体に巡らせる術を子供の頃に教わった。

 しかし、他者への分配は聞くことはなかった。

 他に神力が使える者に出会ったことがない。

 

「やっぱり、こんな風にじゃないか?」

 

ルーソルはフーガの首に手を回し、キスをする真似をした。

 エランと同じ視点で見ているゴディエは、短絡的だと内心呆れた。

 

 

「そうか、なるほど。」

エルドウルフは素直に従った。

 

 両手をやや広げて、手のひらを上に向け深呼吸をする。

 目を閉じて意識を集中する。

 戦場で逆立つ白金の髪は、ふわっと立ち上がり、乳白色の円形のオーラがわずかにゆらりと湧き上がる。

 

 なるべく澄んで、暖かい光を思い浮かべた。

フェギスノーラの顔の横に手を置き、天蓋の支柱を掴み支えにして顔を覗き込んだ。

 

 祈りを込めて、恐る恐る唇を重ねる。

 

 ――神さま、頼む、目を開けてくれ


 閉じられた唇を少しだけ押し開けるようにして、流し込むのではなく、分け与えることをイメージした。

 

数秒後、唇を離した。

 

「どうだ?うまくいったか?」

フーガが尋ねたが、エルドウルフは首を横に振った。

 

 注いだマナは体内に入ることは無く、全て溢れ落ちた感じがした。



 

エルドウルフが頑として言うことを聞かず、フェギスノーラから離れようとしないので、五人の腹心たちは同じ部屋に衝立を置き、仕切った場所に毛布を敷いて雑魚寝する事にした。

 

朝まで順番に見張りをする。

 

傾き、沈みかけの月が、広い部屋の窓から見える位置に移動した。

 

二つのランタンのみで薄暗かったベッド周りに、三日月の黄色の光が届いた。

フェギスノーラの顔を見ていたエルドウルフだったが、連日の戦闘と、ほぼ不眠の疲労で、いつのまにか意識を手放していた。

 

 フェギスノーラの手を掴んだまま。

 


次回第5話

月曜日20時公開予定です

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