6話 水の偉大さ
(水は欲しいが、歩けば歩くほど喉が渇く)
味のしない肉の味が何故かずっと口の中に残っていて、それを洗い流すためにも早急に水が必要だった。
どれくらい歩いたのか気になって腕時計を確認すると
「針が動いてない......」
あの場所を出発した時に確認した時刻から一分も進んでいなかった。
(そういえばデビルベアに吹き飛ばされた時、木に思い切り腕を打ち付けた気がする)
デビルベアと対峙した時、最初に浴びた攻撃を思い出して少し身震いした。
時間が経つほど実感が湧いてくる。
(よく生きてたな......)
腕時計が動いていないとなると、進んでいる方向が本当に南なのかも分からない。方向だけが唯一の指針だっただけにショックを受ける。
しかし歩みを止めるわけにはいかない。
俯きながらでも歩くしかない。
そうしてしばらく歩いていると清らかな心躍る音が耳に入ってきた。
「水の流れる音!」
音がする方向へ無我夢中に走り出した。
(心が折れかけていたが、歩き続けて良かった――)
水を求めて走っていくと前方に森が開けた場所があるのが見えた。
森から出ると、すぐに何か硬い物を踏んだ感触がした。
「なんだ?」
足元を見ると茶色い筒があった。水道管に似ているが地中に埋まっておらず不思議に思う。
まあ、山奥だからかもしれないのでそこまで気にせず足をどけると
「崩れた......かなり腐食が進んでるな」
ボロボロに崩れた金属を見ると材力の血が騒ぐ。
しかしそんなことよりも私を歓喜させるものが、崩れた部分から流れ出してきた。
「水だ!」
飲めるか分からないが気にしている場合ではない。すぐに口をつけて思い切り啜った。
若干鉄の味を感じなくもないが飲める水だと決めつけることにした。
(生き返った......)
満足するまで喉を潤すことが出来て、次第に頭がはっきりしてくる。
これはもしかして本当に水道管で、近くに住んでいる人達のライフラインを断ってしまったのではないかと焦燥感に駆られる。
(これは......悪い事をしてしまったかもしれん)
しばらく考えてみたが何も良い方法が思いつかない。
一応、強制転位での原子配列操作で管を再生できないかも試してみる。しかし腐食が進み過ぎていて難しそうだった。
獣を倒すのにも火を起こすのにも使えたし万能な能力だと思っていたがそんなこともないらしい。
どうにか直そうと試行錯誤していると、背後で何かが通り過ぎる音がした。
振り返って応力集中サーチをかける。
(犬、いや狼なのか。三頭もいるし見つからなくてよかった)
安心して向き直そうとした瞬間、サーチにもう一体引っかかった。
(力の使い方が人間ぽいな。ここら辺のことも知りたいし後で会って話を――)
そんなことを呑気に思いながら嫌な予感がした。
(さっきの狼!!)
もう一度振り返って、私は全速力で駆けた。