19話 オガタだ、よろしく
広場の騒動が収まった後、すぐに村では宴会が始まっていた。
オガタはダンを回復するときに使用したスキル【析出強化】を自身の身体にも使ったことで自由に歩けるようになっていた。
(ずっとステナに抱えられてるのも恥ずかしいしね)
「そういえば、今日は何も食べていないな......」
水は口にすることが出来たので喉の渇きは癒えているが、空腹は治まらない。
「オガタさん、何か食べたいものある?」
ステナが大皿に様々な料理を乗せてやって来た。
「その、何ていうか......」
「どうかしたの?」
「空腹ではあるんだけど、馴染みのない料理ばかりでどれを食べたらいいか分からないんだ」
「それならこれを食べてみて!」
ステナは大皿に乗った料理の一つ、大きな肉の塊をオガタの前に突き出した。
「こ、これは?」
「シュワインの骨付き肉を甘く煮た料理だよ」
(シュワイン? 確かドイツ語で豚といういみだったような......)
「分かった、食べてみよう」
未知の世界の食べ物とはいえ、空腹には抗えないので大きく一口かぶりつく。
歯が肉に沈み込んでいくと共に旨味のある肉汁が口いっぱいに広がった。
「う、美味い!」
「ふふ、お口に合って良かったです」
異世界の肉とはいえ、料理名からの予想通り豚肉と何ら変わらない味だった。
しかし、オガタが異世界に来てから初めて口にしたまともな食事なこともあって疲れた身体に染み渡る逸品だった。
「本当に美味しいな。この甘い味付けも故郷の料理に似ていて、懐かしい気分だ」
(こっちに来てからまだ一日程しか経っていないのに、色々なことが起こり過ぎて元の世界にいたのがもう遠い昔のような感覚だ)
「おーい! オガタさーん!」
「ん?」
ダンに呼ばれる声がして振り返ると、ダン宅の前に小さな舞台が用意されていた。
嫌な予感がするが、無視する訳にもいかないのでダンの方に歩を進める。
「何ですかこれは」
「いやいや、ラウテルン村の英雄にして俺の命の恩人のアンタをもてなそうって会なんだから! 主役はここに上がってもらわないとな!」
(う、やっぱり......)
「そんな大したことはしてませんので、どうかお気になさらずに......」
「そうはいかねえぜ。おい、お前ら」
「うっす」
丁重にお断りをして立ち去ろうと思ったが、ダンの声が掛かった瞬間、背後から村の若い衆に両肩を押さえられてしまった。
「ちょっと! 皆さん!?」
そして、そのまま舞台の上へ強制連行されてしまう。
「みんなー!! 注目してくれ!」
一緒に登壇したダンの声に村人たちが一斉に舞台の上へ視線を向けた。
(ひぇえ~! 学会よりも人が多いぞ......)
「こちらは俺たちの村をあのいけ好かない騎士どもから救ってくれたお方である」
「そして、俺の命を救ってくれた恩人だ!」
ダンが村人達にオガタの紹介をすると歓声が上がる。
「おおおおおおおお!!!!!」
続けて、ダンが余計なことを言う。
「その名もぉおお、オガタぁああああ~!!!!!!!」
「オガタ! オガタ! オガタ! オガタ!」
村人たちがサッカーチームのサポーターのように声を合わせてオガタコールをする。
異様な光景だ。
よく見ると、ステナも他の村人に混ざって元気よくコールしている。
(まぁ、楽しんでくれてるならいいか)
「さあ、オガタさん。村の奴らに何か言ってくれ」
「......わかりました」
軽く咳払いをしてから挨拶を始める。
「えー、皆さん初めまして、オガタです。この村に来たのは――」
最初はしっかり訂正しておこうと思ったが、今の自分には妙にしっくりきていた。




