20話 この村を守りたい
あの宴から時は経ち、オガタはこのラウテルン村に欠かせない存在となっていた。
幸いあれから騎士たちの襲撃もなく、平和な日々が続いている。
「でも不気味だよな」
「何が?」
「何がって、あれから騎士ども全然来ねえじゃねえか」
「ああ、たしかに」
村に唯一ある食堂で若者達が話している内容に耳を傾けながら、オガタは昼食をとっていた。
(確かに、すぐにでも軍隊を引き連れて戻ってくると思っていたが......)
オガタの手はパンを口に運ぶ途中で静止していた。
思案顔のオガタを気にして向かいの席に座っているステナが声をかける。
「どうしたのオガタさん」
「ステナは今の状況、どう思う?」
オガタの問にステナは数秒思考を巡らせた後、喋り出す。
「やっぱり気味が悪いよこんなの。あの騎士達は今まで何度もしつこく村のものを奪いに来た奴らだし、向こうの大将がオガタさんにやられたって王国に知れたら直ぐにでも大軍を引き連れて村を焼きに来ると思う」
「そうだよな......」
考えたくはないが、今この瞬間も一刻一刻と村に危機が迫っているのかもしれない。すぐに攻めに来ないというのは、オガタの戦力と自分たちの戦力を慎重に吟味している段階なのではないだろうか。
(ということは!)
「ステナ、少し村の外に出たいんだけど案内してくれる?」
「え、別にいいけど。どうしたの?」
「ちょっと気になることがあって、付き合ってくれるかな」
オガタとステナは食事を済ませると、準備を整えて村の外に向かった。
「ここがこの辺で一番見晴らしの良い場所なの?」
オガタとステナは村を一望できる小山の上、初めて二人が出会ったあの場所にいた。近くにはオガタが修理した水道管が麓の村の方まで伸びていた。
「うん、オガタさんも知ってると思うけどこの先は魔の森って呼ばれてて誰も寄り付かない。だから、誰かが来るとしたらここから村の方面だけ」
ステナはそう言いながら村がある方向を指差した。
「なるほど......」
(ということは、私がこの森を無事に抜けて来られたのは運が良かったのだな)
オガタは応力集中サーチをステナが指差す方へ向けて発動して―――
「なっっ!?」
驚愕する。
村がある場所の五キロメートル程先に信じられない光景が広がっていた。目視ではもちろん木々に遮られて見えないが、応力集中サーチを通すとそこには無数の人間と人ではない何かが陣取っていることが感じ取れた。
そして、その中には間違いなくあの時戦った騎士達もいた。クロムと思われる力の影も―――
(薄々感じてはいたが、この数日間の平穏は奴らの侵略準備のための期間だったのか)
「オガタさん、どうしたの? すごい汗だよ」
ステナが心配そうにオガタの顔を覗き込む。
「ステナ、よく聞いてくれ」
「う、うん」
「奴らが村の近くで戦闘準備をしているみたいだ。それもこの前みたいな数人規模じゃない。恐らく、数百人はいる」
「え......」
絶望的な状況を伝えられ、ステナの顔から血の気が引いていく。
「でも本当に恐ろしいのは相手の兵士の数なんかじゃない。いったい、なんなんだあれは」
応力集中サーチに引っかかった巨大な力の影。物理的な大きさも相当なものだが、それが内に秘めている力はとてつもない。
「もしかして、王国軍には魔物を戦争の道具にする趣味があったりするの?」
「趣味かどうかは分からないけど、ヒュドラっていう魔物を使って隣国のルソラーノ皇国との戦争で一万人殺したって噂は聞いたよ」
「はぁああ」
「まさかヒュドラも来てるの?」
「うん、そうみたい」
「大変、急いで皆に知らせなくちゃ!」
「待ってステナ」
「え、どうして」
「いきなりこんな事を知らせたら村中がパニックになっちゃうよ。それに、相手もこっちが気づいたと知ったら襲撃の予定を早めるかもしれない。ここ数日間、何もしてこなかったのは向こうにも慎重に進めたい思惑があるからだと思うんだ」
すぐには攻めて来ない。だからと言って悠長に構えていられる状況でもない。こちらにも準備が必要だ。
「だからステナ、まずはダンさんと村の中心メンバーを集めて早急に話し合おう」
そう、私がこの小さな村を守るために。




