16話 気を抜くからこうなる
オガタを吹き飛ばした直後の広場。
その光景を村人達は息を呑んで見ていた。
クロムは、オガタが突っ込んだ家の方を見ると高らかに笑う。
「ガハハハッ、どうだ! これが俺に舐めた口を利く奴の末路だぞ。村人ども」
「クロム隊長、その剣は抜かないようにと、前にも領主様から御叱りを受けたじゃないですか......」
「ただでさえ貴重な剣なんですよ。万が一、刀身が折れでもしたら」
他の騎士達がクロムを窘めるが、当の本人は聞く耳を持っていない。
そんな中、オガタの突っ込んだ家に入っていく少女を騎士の一人が見ていた。
「あのぉ、隊長。さっき吹っ飛ばした奴の方に女の子が向かって行きましたけど」
「あぁ? 放っておけ。どうせあいつは即死だ。なんたってこの剣をもろに食らったんだからな」
「確かにそうですね」
実際には、オガタの身体に剣は触れていなかったのだが、その事実を知るのはオガタ本人だけだろう。
クロムは手に持っていた剣を腰の鞘に戻すと、周りの村人を見渡す。
「とんだ邪魔が入ったが、話の続きをしよう」
村人たちの顔には絶望の色が浮かんでいた。
リンは未だ目を覚まさないダンの顔を胸に抱えて、震えながらクロムの言うことに耳を傾けていた。
「貴様らの村は、もう終わりだ。農場は水不足で枯れ果て、飼料不足によって家畜も育たん。これでどうやって税を領主様に納めると言うんだ?」
村人たちの中には、誰も言い返せる者はいない。
苦し紛れに過ぎないが、リンは自分たちの状況を確認しようとする。
「騎士様、だったら私たちはどうなるんですか?」
その質問を待っていたとばかりに、クロムはニヤリと笑った。
「税を納めないということは、逆賊ということだ」
「それって......」
リンは自分たちが逆賊と言われた意味の重さを理解していた。
しかし、他の村人たちに理解させる為なのか、クロムは恐ろしい結論を述べてしまう。
「どの国に行ったって、逆賊の扱いは極刑だ。つまり、貴様ら全員皆殺しだな」
それを聞いた村人たちの反応は様々だ。泣き出す者、受け入れられずに放心状態になる者、家族で抱き合っている者、誰もが絶望するしかなかった。
その様子を見て満足したのか、クロムはもう一度剣を抜いて天に掲げる。
「よって、今よりこの村の粛清を行う。だが、俺もそこまで鬼じゃない。死ぬ順番くらいは選ばせてやる。一列に並べ」
「待って! 今日は、まだ納税の期日じゃないわ!」
リンは必死にクロムを止めようとする。しかし――
「どうせ間に合わん。またこんな辺境まで来るのも面倒だ。今始末した方が楽であろう?」
クロムの衝撃的な発言にリンは絶句する。
誰もがこれ以上、成す術なしと諦めた。
その直後だった。
倒壊したダンの家から木材の軋む音がした。
広場の誰もがその音に気づいていたが、家に背を向けて村人たちに口上を垂れていたクロムだけは気づいていなかった。
次の瞬間、ダンの家の奥から、けたたましい轟音と共に巨大な黒い物体が飛んでくる。
それは物凄い速度でクロムに迫った。
四人の騎士たちが咄嗟に
「隊長!」
「クロム様!」
と注意を促そうとする。
しかし、遅過ぎた。
その声が発せられた時には、もう既にクロムの姿は黒い物体に連れ去られた後だった。
その輝かしいメタルプレートに包まれた、脚だけを地面に残して。




