96 パーティーの前に
いよいよ、王都へ出発する朝が来た。
どさっ、と馬車に荷物が詰め込まれる。
アタシたち3人のと、メンテの。ヴァルの。だとしたらこれは……。
一つ、余分な大きな荷物を見る。
先生の?
「ねぇ、ヴァル」
隣にいたヴァルに声をかける。
「先生も一緒に行けるんだよね?」
「え?」
食料の確認をしていたヴァルは、「ああ」といった顔をつくる。
「パーティーには一緒に行くよ」
「…………王都には?」
そう聞くと、ヴァルが何故か、少し言いよどんだ。
「……やる事があるから、先に行くって」
やる事?
確かに、リナリはここに居るものの、リナリの招待状は図書館に届いたこともあって、リナリは図書館でパートナーを決めてしまっている。
学園以外でパートナーといったら、やはり妹だろうか。
きっと事前に準備があるんだ。
「じゃあもう学園には……」
言いかけた時。
厩舎の方から、馬が飛び出して来た。
馬上の人物と、目が合う。
「せん……せ……?」
それはシエロだった。
チュチュを見つけたシエロが、ふっと笑う。
「…………」
久しぶりに見た笑顔だった。
それでいて、今まで見た事がないくらいに、さっぱりとしていた。
それでいて、優しい。
まるで地上から見る青空みたいだ。
な…………。
え………………?
先生が、他人に向かってあんな明るい顔を向けるなんて。
シエロは、王都へ向かい、馬を走らせる。
見たこともない黒い馬だけれど、何処かで借りて来たのだろうか。
白い魔術師のマントを靡かせ、どんどん小さくなってしまう。
その姿に、目が離せなくなる。
「なんだ、あれ」
ヴァルが呆れた顔をした。
振り向いたヴァルが、チュチュの顔を見て、さらに言葉を失った。
その日、残りの5人で馬車に乗った。
沢山のマットに、沢山のクッション。
そこから厳選した特別手触りのいいクッションを抱える。
さっきの、シエロの顔が頭から離れなくなっていた。
小さく膝を抱えるチュチュの、右にエマ、左にリナリが座る。
同じような格好で、必要以上にぎゅっとくっついているので、チュチュは両側から挟まれる形で収まっている。
「せんせ……元気そうでよかった……」
よかったと言うには、元気のない声が出てしまう。
けど、どうしても、あの笑顔の意味を考えてしまうのだ。
「改めて、お断りしたから……、離れられて、すっきりしたのかな」
呟くと、目の前で馬車の縁に肘をついて外を眺めていたヴァルが、ふいっと三人の方を向いた。
一瞬何か言いたそうにしたけれど、またすぐに外を向いてしまった。
「……アタシに……、もう……、近付かれなくて、済むから…………」
自分で言ってて、涙ぐむ。
「そんな事ないよ」
耳元で、静かなエマの声が聞こえた。
「先生は、チュチュにそんな意地悪な笑顔を向けるような人じゃないよ」
「うん」
そうだといい。
そうだといいと思いながら、手で涙を拭った。
馬はシュバルツ家から借りてきた馬です。シュバルツさんちは黒とか白とかはっきりした色の馬が多いです。




