95 ステップ踏んで
おかしい。
先生の怪我はもうかなり良くて、招待されているパーティーへも行けるという話だった。
けど、何故か会うことができなかった。
アタシなんて、こんなに毎日泣きながら暮らしてるんだから、一目くらい会わせてくれたっていいのに。
食事もなぜかヴァルが運んでいて、あまり他の人には会おうとしない。
ヴァルが言うには、『あまりの恥ずかしさ』に、と言うことだけれど。
恥ずかしいって何が?
何処かの誰かに戦闘で負けてしまった事が?
「…………」
考え込んでいると、くいっと腕が引っ張られる。
メンテに腰を抱え上げられ、そこでやっとチュチュはハッとした。
「…………そんな顔されるとぼくもけっこうショックなんだけど」
「…………ごめん」
意識を取り戻したチュチュは、また改めてステップを踏んだ。
目の前にはメンテの顔がある。
大広間で、二人。
招待されたパーティーでの、ダンスの練習をしていた。
……どきどきしない。
当たり前だけど。
先生のことが頭から離れず、ずっと先生の事を考えてしまう。
目の前にいるのはメンテなのに。
パートナーはメンテなのに。
今、一緒にいる人。
アタシのことを、好…………。
好き…………。
そこでやっとメンテを意識してしまい、またダンスがぎこちなくなった。
メンテが、決めポーズを取るために、足を止める。
ふっと腰から手が離れ、右手だけ繋いだ状態になった。
「……どうしたの?今度は真っ赤だけど」
「………………」
ちょっと好かれている事を思い出してしまって、なんて言えるはずもなく。
何も言わずに手を離そうとしたけれど、手は掴まれたままだった。
「え…………」
メンテと、目が合う。
「そうだよ。告白したのはぼくなのに」
そう言いながら、メンテが一歩近いて来る。
小さな頃から見慣れている、とはいえ、実際顔はいいわけで……。
「あの……メンテ……」
困惑しながらも、ささやかにも手に力を入れ、抵抗してみる。
そんな小さな抵抗もむなしく、メンテは更に耳元に近付いてきた。
「なんでそんなに、先生のことばっかり考えてるの。……妬けちゃうな」
「ご……め…………」
戸惑い、俯く。
「ぼく、本当はそれでもいいんだ」
「…………どういう、こと?」
「君が一人で居るなら、心が何処を向いてたって、隣にいる覚悟はあるってこと」
「…………そんなの、メンテが寂しいじゃん」
「そうだね。けど、チュチュが居ないよりはずっと寂しくない」
「…………ごめん」
「謝らなくていいよ」
「…………」
どれだけ言ってもらっても、多少ドキドキすることがあっても。
やはり、相手がメンテである事に変わりはなかった。
かっこいいと思う。
頼りにもなる。
けど。
この手に、心が揺らぐ事はない。
どうしても、家族のような、弟のような、そんな存在としか思えなくて。
そんな、安心する手としか思えなくて。
どうしても、先生とは違う。
比べてしまう。
あの緊張する感覚。
浮き足立つ感覚。
ただ、あの手を思い出すだけで。
どうしても、チュチュは、申し訳ない気持ちが、頭をもたげてしまうのだった。
好きとか嫌いとかは自分でコントロールできないよ!ってことだね!




