94 バカだな
みんなが帰っても、なぜか学園に居なかったシエロが、一人、ひどい格好で戻って来たのは、夏のある日の事だった。
ドッ……、と血に塗れたシエロが、階段の下で倒れた。
それを最初に見つけたのは、チュチュだった。
「えっ……!?せんせ……!!??嘘……誰か……!!」
みんなが駆けつけた時には、シエロはすでに気を失っていた。
腕が大きく切り付けられ、そこから血が出ている。
他にも、痛がっているところがありそうだった。
ヴァルは、メンテと共に、シエロの部屋までなんとか運んで行った。
どさっとベッドに転がすなり、
「重……」
とため息を吐く。
「誰にこんな事……」
言いながら、服を脱がしていくと、ある事に気付く。
大きな切り傷以外に、打撲が数ヶ所。
相手は刃物を持っていただろうに、どうして……。
それにしては、頭を狙う事はしなかったようだな。
この状態で引き返してくるシエロに、追い打ちをかけるわけでもなく。
「…………」
相手は剣の使い手。
けれど、……シエロを傷付けないように手加減した?
いくらなんでもシエロにそんなことができる人間、そう多くは……。
考え出した所で、一人の人間に行き着く。
まさか……。
「ヴァル、タオル、持ってきたよ」
「ああ」
メンテから湯で濡らしたタオルを受け取ると、身体に付いた血液を拭っていく。
拭いながらも、その人物以外にこんなことができる人間、いないと思ってしまう。
なんで、寄りにもよってこんな状況で、こんな事になるんだよ……。
「はぁ……」
とまたため息を一つつくと、ぼんやりとシエロが目を覚ました。
「……大丈夫か?」
「ああ……」
にこっとシエロが笑う。
「つい……どうしていいか、わからなくなったんだ。こんな感情、初めてで」
その言葉に、ヴァルは相手を確信した。
「で、なんでそっちに突っ走るんだよ……。チュチュなんて、顔真っ青だったぞ」
「…………それは、いい傾向だね」
「お前ホント……バカだな」
ヴァルはため息混じりにそう言うと、メンテに薬の処置を頼んで、一旦部屋を出た。
「ヴァ……ル…………」
扉の前にずっと居たと思われるチュチュは、エマとリナリに支えられ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「先生はどうなの…………」
小さな声。
不安で堪らないのだろう。
「大丈夫だよ。気がついたし、学園長の薬こっそり使ってやったから、すぐ良くなるよ」
「よかったね……」
エマがそう言ったのがきっかけとなったようだった。
チュチュは弾けるように泣き出し、声は、シエロとメンテがいる部屋の中にも響いた。
さて、ラストシーンまでもう少し!
ここからはいつものほのぼのラブコメで行きたいと思います。
最後までどうぞお付き合いくださいな!




