92 本気なの?(2)
レーヴが、にっこりと微笑む。
「引き継ぎは、順調ですか?」
泣きそうで、気まずくて、困らせてしまいそうだったから。
リナリは、
「す、いません」
それだけを言って、レーヴのそばをすり抜けると、一人、部屋の外へ出ていった。
足早に廊下を歩く。
そう、もう引き返せないから。
だって、ずっと憧れてたんだもん。
やっとここまで近付けたんだもん。
理由もちゃんと言わずに、諦めた方がいいなんて言われたって。
……やっぱりゴールディさんもラビラントさんの事が……、好き、なのかな。
あたしが行ってしまったら……、二人っきりなんだ……。
怖い……。
心の中に、二人っきりで仲良さそうにしている二人の姿が浮かぶ。
思わず泣きそうになる。
このまま、誰にも会わなければいい。
けれど、そんな気持ちとは裏腹に、リナリに後ろから声がかけられた。
「リナリさん」
「…………!」
ラビラントさん……。
どうして追いかけて来たんだろう。
そんなに……、怪しかったかな。
今、顔を見られるのはまずいのに。
気付かないフリをして行ってしまおうか。
足を早めたところで、また後ろから、
「リナリさん!」
と声をかけられた。
このまま……無視するわけにもいかない。
くるり、とリナリが振り向く。
いつもの顔でいないと……。
出来るだけ笑う。
けれど、どうしても目を合わせる事は出来なかった。
レーヴのローブが、近付く気配がする。
「え、と。何かご用ですか?」
出来るだけ、いつもの声で。
「はい」
……用事?
こんな時に、この人の口から、ここを出る話なんて聞きたくないのに。
「ちょっと、こちらへいいですか」
「はい」
仕方なく、ついていく。
話をしなければ、学園に帰れないのは事実なのだから。
大人しく付いて行くと、執務室の近くの部屋に入って行った。
中は、本がたくさん積まれている部屋で、それほど明るくはない。
この図書館は、窓はあれども明るくない部屋は沢山あるのだ。
真ん中に置いてある大きなソファには、へしゃげたクッションと、床まで落ちたブランケットが置いてあり、ここで誰かが寝ていたことが窺えた。
「…………」
「ここは、私が使ってる部屋なんですよ」
そう言って、どう見ても誰かが寝ていたはずのソファを勧められる。
……ここが、ラビラントさんが使っている部屋???
プライベートルーム???
え、ここ、座っちゃっていいの?????
ちょこん、と座ると、目の前にあったかそうなココアを出される。
「そんな顔で外を歩かせるわけにはいきませんから」
困ったように笑われて、やっぱり顔を見られていたことに気付いた。
「すいま……せん」
「何か良くないことでもありましたか?」
そう尋ねてくれるラビラントさんが、しゃがんで目線を合わせてくれたので、やっぱり子供扱いなんだと、そう思った。
「明日……ここを出て行ってしまうと思うと、寂しくて。やっと慣れて来たのに」
そう言うと、ラビラントさんが笑う。
「そうですよね。せっかく慣れて来たのだから。それを無駄にしたくはないですね。まだ、ここの職員になりたいという気持ちはありますか?」
「も、もちろん!」
がばっと顔を上げたリナリに、レーヴは目を潤ませる。
「よかった。じゃあ、また声を掛けさせていただきますね。司書の仕事も、まだ覚えることがありますからね」
「……はい!」
それは、なんでもない、上司と部下の会話だった。
けど、また会えるって未来が約束された気がして、すごくすごく、嬉しかったんだ。
さて、次回でリナリさんエピソードも終わりですかね。
ラストに向けてGOGOですね!




